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13. 榊原夏樹


 思っていた女と違う。

 ずっと好きだったはずなのに、勝手に理想と違うといってがっかりしている俺は最低だ。



「なんでそんなこと言うのよ!わたしが彼氏と仲良くしてても、あんたは何も感じないわけ!?」



 テーブルの上にあったリモコンを俺に向かって投げ付けてくるこの女は、本当に上月だろうか。



「……感じないわけじゃないけど」


「だったら、なんでそんな簡単に上手くいけばいいなとか言うのよ!あんた、わたしのこと好きだったんじゃないの!?」



 叫んだ後、彼女は床にしゃがみこみ、手で顔を覆ってしくしくと泣き始めた。俺はもうお手上げだ。


 事が起きたのはおよそ五分前。

 仕事終わりに俺の家の最寄駅で待ち合わせし、近所の居酒屋へ飲みに行った。最近は毎週末こんな感じだ。

 店を出た後いつものように俺の家に一緒に帰り、いつもの行為に至る。問題はその後だ。

 ベッドの上でいちゃいちゃしながら喋っていたら、不意に彼氏のことを聞いてしまった。あまり上手くいっていないと言うので、上手くいけばいいなと言った。しかしその言葉が引き金となり彼女は取り乱した。怒り、叫び、泣いた。



「好きだよ。好きだけど、っていうか好きだからこそ、上月には幸せになってもらいたいんだよ」



 ベッドの上で胡座をかき、頭を掻きながらこっぱずかしい台詞を吐く自分に嫌気がさす。

 美人で、クールで、仕事ができて、たまにおっかなくて、手が届きそうで届かなかった上月はもういない。

 手が届いたかと思えば、それは想像していたのとずっと違っていた。綺麗なものは遠くにあるほど綺麗だったのだと実感させられる。



「なにそれ、最低!結局ヤリモクじゃん!」



 彼氏がいる女が浮気相手に対して言う言葉とはとても思えない。


 これまでも、上月と二人で過ごすようになってからなんとも言えない重さのようなものを感じないわけではなかった。

 彼女の気持ちがリョウという彼氏から俺に傾きつつあるのだってなんとなく気付いていた。そしてそれを素直に嬉しいではなく、面倒に思いつつある自分がいた。

 鈴木のメンヘラ彼女のように勝手にスマホを見たりはしないだろうけど、今となればそうなってもべつに不思議じゃないかもしれない。

 しかし上月にこまで激しく感情をぶつけられたのは初めてだったし、さすがにどうしていいかわからない。

 今俺が考えていることはただ一つ、鈴木に言ったこととかぶふようだけど()()()()()()()()()()()()()ということだ。



「別にヤリモクじゃないし」



 我ながら、突き放したような冷酷な声になってしまった。



「……うぅっ……ひぇっ……」



 しくしくと泣く上月。あぁもう、俺の見る目がなかったのだろうか。

 っていうかそもそも、俺が悪いのか?俺はただ、上月のことが好きだっただけで、近付いてきたのは上月の方だ。そして俺の気持ちに対していちゃもんをつけて勝手に怒り散らかされても、俺からすれば困るでしかない。

 突然やってきて、甘い蜜を与えられたかと思えば急に雲行きが怪しくなり、いつの間にか台風が巻き上がる、そんなおかしな展開。



「泣くな。ほら、こっち来て。寝ようぜ」



 もう一緒に寝るのはこれで最後になるかもしれないけど。



「……嫌だ」



 あぁー、面倒くせえっ!



「いいから、ほら」



 強引にその腕を引っ張ろうとすると、思いっきり振りほどかれてしまった。



「はぁ……」


「……何よそのため息」


「いや、別に」


「結局榊原も、凌と一緒なんだからっ!」


「そんなこと言われても、俺お前の彼氏知らねぇし」


「最低!」



 なぜ俺が睨まれるのだろうか。上月のことがさっぱりわからないし、もはやわかりたいとも思えない。

 純粋に好きだったあの気持ちは、もうすでにほとんど消えかけている。



「帰る」


「もう終電ないだろ。朝までいろ」


「……」



 もう一度腕を引っ張ると、今度は大人しかったのでそのままベッドの上に乗せてやった。力尽きたのか、彼女はごろんと横になった。



「ねぇ」


「……ん」



 さっきまでの凶暴さが嘘のように、俺の腕にくるまってきた。



「わたしが一人ぼっちになっても、榊原はずっといてね」



 泣きそうな目で、しっかりと俺を見つめて彼女は言った。

 背中にとても重いおもりが乗っかったような気分になった。もう無理だ、逃げられない。

 何よりも一番厄介なのは、同じ会社の同僚だということ。変な噂をまわされても困る。さすがにそんなことするようなやつじゃないとは思うけど……。

 ここで頷くべきか?頷いたら終わるよな?



「……んん」



 なんとも言えない、曖昧な返事をしてしまう。

 疲れたのか上月は寝息を立てて眠ってしまった。

 その安心しきっている様子の寝顔を見ていると、やっぱり可愛いなとはたしかに思う。黙ってさえいたら、情緒が安定していたら。俺の知っている、俺の好きだった上月に違いないのに。

 

 いったい何が彼女をこんなにおかしくさせているのだろう。

 リョウという、上月が付き合っている男はどんなやつなんだろう。彼は、自分の恋人が他の男の腕の中で眠っていると知ったら、どんな反応をするのだろうか。純粋に、リョウという男がとてつもなく気になった。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!

面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、↓にありますブックマークと⭐︎評価、お願いいたしますm(*_ _)m

作者たいへん喜び、励みになります……!


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