11. 上月沙耶
彼氏の凌と、同期の榊原。
凌だけじゃ、わたしは不安定だ。
榊原と寝たあの日から、榊原と連絡を取り合うようになってから、心がとても安定している。
凌からLINEが返ってこないとき。電話をかけても出てくれなかったとき。会える予定がなくなったとき。榊原の存在は、わたしにとって心強かった。
凌に裏切られた期待を、榊原かカバーしてくれる。もし何かあっても榊原がいる。
おそらくわたしのことを好きな榊原は、わたしが凌と別れることになったら付き合ってくれるはずだ。
自分のこと好きでいてくれる、彼氏以外の男。その存在がいるというだけで、こんなに安心していられるなんて。
わたしは凌を裏切った。でもそれは、ちゃんとわたしを全力で愛してくれていない凌に対する復讐だ。そしてその復讐さえもが、今にも崩れてしまいそうだったわたしを支えてくれているのだ。
いつからこんなに弱くなったんだろう。束縛されるのは嫌だし、いちいち聞かれるのも嫌だ。一人の時間も大事だった。でも凌と付き合って月日が経っていくうちに、彼の考えていることが全然わからなくて、いつも期待しては裏切られて、かと思えば急に求められたり、そういうのを繰り返され、気付けば依存していた。
もっと愛してほしい。尽くしてほしい。わたしのことが心配でたまらなくなってほしい。切なくなってほしい。苦しくなってほしい。もっとわたしを……。
**
榊原の逞しい大きな身体は、細身の凌とは全然違った。
繊細で絶妙なところを突いてくれる凌とは違い、大胆で強くて、激しい。
二人が真逆でよかった。もし少しでも似ていたら、間違いなくわたしは凌が恋しくなっていただろう。
「待って、ダメっ。そこ、榊原っ……あぁっん」
わたしが喘いだり、やめてと言うたびに、彼は激しく後ろから突いた。こんなにドSだったとは知らなかった。
今まで付き合った彼氏にはいないタイプ。こういうのは初めてで、新鮮だった。
「逃げんな」
わたしの腰を両手でがしっと掴み、さらに追い討ちを掛けてくる。酔いのせいもあってか、やめてほしいのにもっと欲しくなってしまうのが毒だ。
「変態」
完全にわたしを支配しているような威圧的な声を聞いた瞬間、絶頂に達した。
それからも散々いじめられ、責められ、全てが終わったわたし達はベッドの中で裸のまま寄り添い合った。
彼の吐く息に、胸がぎゅっとなる。そしてわたしは確信した。凌とは全然違うし、タイプでもないはずのこの男に、確実に惹かれていることを。
さっきまでのドSぶりが嘘かのような、その厚い胸板の上に乗せたわたしの頭を優しく撫でてくれる大きくて優しい手に、全ての不安が吹き飛んでいくようだった。ずっとこうしていたいと思った。
「ねぇ」
「ん?」
「榊原って、わたしのこと好きだよね?」
自分でもびっくりするくらい、とても素直に聞いてしまった。
榊原は一瞬戸惑ったように見えた。至近距離で、しばらく見つめ合うわたし達。そして彼は言った。
「好きだよ」
“好きだよ”
その言葉が頭の中にジーンと響いて、なぜか生きてていいんだよと言われたような気がした。わたしはここにいていい、わたしには価値がある。存在自体を肯定されたような、全てが満たされていく感覚。
恥ずかしがっているのか、榊原は目を逸らし、こめかみをぽりぽりと掻いた。その様子が愛おしくて、わたしはその身体にぎゅっと抱きついた。
彼がいる限り、彼がわたしのことを好きでいてくれる限り、まだまだやっていけそうな気がした。凌とも、わたし自身とも。
このまま凌だけと付き合っていたら、わたしはきっと壊れてしまっていた。
朝になって榊原が帰った後、ずっと放ったらかしにしていたスマホを見ると凌からのLINEと着信が数件ずつ入っていた。
『起きてる?』
『寝た?おーい』
『寝てるか、おやすみ』
罪悪感。でも、凌がくれていた連絡を嬉しいと思っているわたしは狂っているのだろうか。
わたしは一体、誰を愛しているのだろう。自分で自分が全くわからない。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます!
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら、↓にありますブックマークと⭐︎評価、お願いいたしますm(*_ _)m
作者たいへん喜び、励みになります……!




