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短編小説どもの眠り場

彼に片思い

作者: 那須茄子

 好きな人のことを思うと、心がふわりと浮かび上がるような気持ちになる。



 初めて彼を見たとき、教室の窓から差し込む光が彼の髪を優しく照らしていた。

 その日は特別な日でも何でもなかった。ただの平凡な一日だったはずなのに、彼のその姿が私の曇った心を一変させた。


 気付けば、目で彼を追い続ける日々が始まった。彼が私の心に灯りをともしてくれるようで、彼の存在が私にとっての光となった。

 彼の笑顔は、まるで暗闇を照らす一本の蝋燭のように温かく、優しく私の心を包み込む。彼の瞳は深い湖のように澄んでいて、その中に引き込まれそうな気がする。


 

 私は見つめた。彼をずっと。見つめるようにした。



 

 毎朝、彼と同じ電車に乗るために少し早起きする。

 まだ薄暗い朝の空気の中、駅に向かう足取りは軽やかだ。彼の姿を見つけると、胸が高鳴り、自然と微笑んでしまう。彼の背中を見つけるだけで、心が温かくなる。

 

 でも、彼は私の存在に気づいていない。彼の友達と楽しそうに話す姿を見て、少しだけ切なくなる。彼の笑顔が他の誰かに向けられるのを見ると、胸がちくりと痛む。


 たまに電車の中で、彼の近くに立つことができると、その日一日が特別なものに感じられる。彼の声が耳に届くと、まるで音楽を聴いているかのような心地よさに包まれる。彼の笑顔が私の心を照らし、彼の存在が私の世界を彩る。

 一方的な幸せをその都度、募らす。



  


 彼を間近で観察できる時は、決まって授業中。


 彼の背中を見つめることが私の日課になっている。彼の背中はいつもまっすぐで、どんな時でも真剣な姿勢を崩さない。

 彼の筆記用具が紙を滑る音、そのリズムは繊細で、まるで彼の心の中を覗いているような気持ちになる。


 時折、彼が見せる真剣な表情に心がときめく。彼の眉間に寄せられた皺や、集中している時の唇の動き、そのすべてが私の心を捉えて離さない。


 もしも彼の隣に座ることができたら、どんなに幸せだろうと夢見るけれど、その夢はいつも遠く感じる。


 彼がノートに何かを書き込むたびに、その内容が気になって仕方がない。彼の筆跡がどんなものか、どんな言葉を綴っているのか、すべてが知りたくてたまらない。

 同時に、そんなことを考える自分が恥ずかしくて、視線をそらすことしかできないでいる。


 




 彼が歩き出せば、私は距離を置いて眺める。



 放課後、彼は部活に向かう。

 その背中が遠ざかるのを見つめながら、心の中で「頑張って」と呟く。


 彼の部活が終わる時間を知っている私は、その時間に合わせて校門の近くで待つこともある。彼が部活を終えて出てくる姿を見つけると、物陰に隠れる。

 彼は私に気づかず、友達と楽しそうに話しながら帰っていく。その連れだって帰る友達が、可愛い女の子でないかを逐一確認する。


 彼はよく男の子と帰ることが多い。今のところ、そういう心配もいらないようだ。


 私は満足して、彼が歩いた道を辿って帰る。







 一日が終わる夜。


 彼のことを考えながらベッドに入ると、彼の顔、声、仕草その全てが私の心を占めている。


 思えば思うほど、身体が火照り、湿り出す。

 揄火(ゆび)が、私の奥を刺激させる。

 彼を恋い焦がれる想いが、愉痺(ゆび)を伝い、溢れ出す。



 ……恥ずかしい。

 

 終わった後はいつも、悶えて、ベットがくしゃくしゃになる。


 彼は私を何時だって、揺さぶり高ぶらせるのだ。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初々しい思春の恋情に頬が緩んだところで読んでるこちらが赤面してしまう赤裸々さ。  ラストの1文には与謝野晶子の短歌、  そのこ二十(はたち)櫛(くし)にながるる黒髪のおごりの春の美しき…
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