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持ち主を呪い殺す妖刀と一緒に追放されたけど、何故か使いこなして最強になってしまった件  作者: 玖遠紅音
第2部 目覚めし邪竜と囚われの姫君

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19話 糧になれ

 白銀の光を照り返す黒鉄の鱗。

 血のような赤き眼を持つ巨竜は、今までクロムたちが戦ってきた竜の中でも最上位に位置するほどの圧を放っていた。

 しかし、怯むことは無い。冷静に妖刀を抜き、その刀身を巨竜へと向けた。


「竜と戦うのは久しぶりだね。ルフラン、いつも通り僕が前に出るから後ろは任せるよ」

「分かってるわ。でも花は潰さないようにね!」

「わたしも同じく前へ出ます。槍使いなので」

「あの竜、生意気。ここは我の縄張りだ。()く失せよ。だってさ」

「こっちとしては花さえもらえれば戦わなくてもいいんだけど、ダメそうかな?」

「ん……聞いてみる」


 メイの眼が金色に輝き、巨竜とコンタクトを取り始める。

 彼らの間に言語はない。だが、巨竜が襲い掛かってこないのを見ると、会話は成立しているのだろう。

 だが、どうやら交渉は決裂したようで、メイは不服そうに首を横に振った。


「貴様のような弱小の竜の要求なんぞ聞くに値しないってさ。生意気。ぼくの手で倒したかったけど、残念。今は力不足」

「そっか……じゃあ、悪いけど力ずくで貰って帰るよ!」

「メイ。アンタはその子を護ってなさい。それくらいはできるでしょ?」

「しょうがないなぁ……」


 メイは数歩下がって、ライエンを護るように立った。

 やや頼りないが、散々クロムから魔力を吸収しているのだ。

 それくらいの仕事はこなして貰わないと困ると言わんばかりにメイに視線を送った。


「それじゃあ、行こうか、エセル」

「はい。わたしが合わせます。クロムさん」

「分かった」

 

 クロムは妖刀を大上段に大きく構え、勢いよくそれを振り下ろした。

 刃の残光は妖力を纏い、質量を得て竜へと襲い掛かる。

 飛ぶ斬撃。だが、それは刃を離れてなお凶悪な威力を誇る。

 その異質さを察知したのか、巨竜は床を蹴り勢いよく飛翔し、咆哮を上げた。

 大地が震えるほどの絶叫。されどクロムはお構いなしに空中へと駆け上がった。


至天水刀流(してんすいとうりゅう)水天斬(スイテンザン)


 高速で竜の足下へと潜り込んだクロムは、下段に構えた刃を振り上げる。

 鋼鉄の鱗に触れた瞬間、ほんのわずかに勢いが緩まるが、そのままさらに力を込めて強引に振り切った。

 鱗を貫通し、紅き鮮血が吹き出す。

 竜の巨体からすればかすり傷のようなものだが、動揺したのかほんの一瞬だけその動きが鈍った。

 直後、バリっと音が鳴ると同時に竜の眼前に雷を纏ったエセルが現れる。


雷鳴突(らいめいづ)き!!」


 シンプルな突き技。しかしその槍は大地に突き刺す(いかずち)の如く。

 巨竜は即座に顔を左に逸らすが、その巨体でエセルの槍を完全にかわすことが出来なかった。

 再び鱗を貫通し、右胸のあたりに大きな穴が開いてしまった。

 これにより竜は激高し、再度激しい咆哮を上げると、大きく一回転して距離を取ってから、首を大きく引っ込めて口の中に炎を溜めだした。

 火焔ブレスが来る。だが、クロムとエセルの体は空中に投げ出されたままだ。

 しかし彼らが選んだのは回避ではなく、前進。

 クロムは迷いなく巨竜の眼前を目指して駆け、エセルは一瞬遅れて流れるように雷撃に乗って前進した。

 直後、巨竜の首が前へ突き出され、貯めこまれた爆炎が解き放たれる。

 だがそのわずかな隙を突くように、竜の口腔が激しく爆発した。


「――そんな見え見えの攻撃、このあたしが許す訳ないでしょ」


 にやりと笑みを浮かべ、愛杖ソウル・グリードを突き出すルフラン。

 だがその言葉を放つ頃にはとっくに次の魔法の準備が出来ていた。


「前は通用しなかったけど、今は違うってところ、見せてあげるわーー爆破魔法(エクリクシス)


 杖の先端が赤く輝いたかと思えば、巨竜の両翼が即座に()ぜた。

 たったの一撃で巨竜の翼は焼け焦げ、ところどころに穴が開いてしまった。

 これにより空中での機動力が大きく低下し、バランスがとりにくくなる。

 だがそんな隙を晒せば、次は前衛の二人の接近を許すことになり――


「行くよ、エセル! 至天水刀流(してんすいとうりゅう)水月(スイゲツ)!」

「もう一発です! 雷鳴突き!!」


 エセルに合わせてクロムは突き技を選んだ。

 妖力を纏い、紫の流星の如くクロムの体が輝く。

 そして雷の閃光と紫の閃光が、巨竜の胸で交差した。


「ガ、ァ……」


 巨竜から弱弱しい声が漏れ、重力に引き寄せられ落下し始めた。

 巨竜から後ろに下がったことにより、落下地点はデスペルタルの花からはやや離れた位置になる。

 このまま放置しても大丈夫だろう。そう思ってクロムたちは各々の技術を用いてゆっくりと着地を試みる。


「やりましたね、クロムさん」

「うん――いや、まだだ!」

「――ッ!!」

 

 だが、その直後、強烈な殺気を感じたクロムが警戒心を高めた。

 同時にエセルも感づいたようで、即座に視線を巨竜へと戻した。

 次の瞬間、月光が黒き雲に遮られ、天から轟雷が降り注ぐ。

 そして強烈な青色のブレスがクロムとエセルに襲い掛かった。


「くっ――」


 クロムは即座に妖刀とリンクし、紫奏剣冴(しそうけんご)状態へと移行し、紫閃(しせん)の一撃を持ってブレスを叩き割る。

 そして見上げると、そこには黒鉄の鱗を紅く染め、怒りを隠そうともしない鋭い視線でこちらを見る巨竜の姿があった。

 息が上がっており、生々しい傷から流れ出る血は止まっていない。

 だが、先ほどよりも明らかに圧が増しており、本気でクロムたちを殺そうとしているのが分かった。


「クロムさん……!」

「分かってる。構えて」


 クロムは細かく足を細かく刻みながら、エセルは空にいるのが当然のごとく浮遊しながら空中での位置を保っている。

 空中での機動力は明らかにエセルの方が上だ。もとより雷の化身である彼女はスピードに特化している。

 故に、エセルが先行し、クロムがその後を追う形で追撃を仕掛けることにした。

 だが、


「ちょっと!! メイ!? アンタどこへ――」


 不意に後ろを確認したルフランが、本来いるはずの彼女の姿がない事に気づく。

 そこにいたのは何か奇妙なものを見たかのような眼をする少年一人。

 クロムとエセルもそれを聞いて思わず振り返りたくなったが、戦場で敵から目を逸らすのは愚者のすることであると理解していた。

 だからこそ、見えた。

 巨竜の背後を取る、一人の少女の姿を。


「――やっと隙が出来た。お前はぼくの(かて)になれ」

「!!?」


 その接近は完全に意識外だったのか、巨竜が驚きの声を上げる。

 しかしその時点ですでに少女の手は巨竜の背に触れていた。

 直後、苦悶に満ちた声と共に巨竜が急速に力を失っていく。

 その瞳には恐怖が浮かんでいた。


「メイ、まさか……」

「捕食している……?」


 時間にすれば、ものの数秒。

 そのわずかな時間で竜の少女――メイは、巨竜から莫大な魔力を吸い尽くした。

 巨竜は恨みがましい目線を背中のメイへと送るが、やがて瞼を落として地上へと勢いよく落下していった。

 ライエンは言葉もなく、口を開けたままその光景を見つめていた。


「――ふぅ、ごちそうさま。そこそこ美味しかった」

 

 雲が割れ、再び月光が照らしたのは、紫の()をはためかせ、満足そうに唇を舐めるメイの姿だった。

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