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11話 王都ドラヴァル支部

 冒険者ギルド、王都ドラヴァル支部。

 王都の様子はアウレーと大きく異なるものの、この建物だけは馴染みがある形をしていた。

 流石は国を超えて展開する大組織だ。

 そんな感想を抱きながら、クロムたちは正面の大扉を開き中へと入っていった。


「――これは」

「様子が変ね」


 中へ入ってすぐに感じたのは、どんよりとした重い空気。

 そもそも人の数が少ないというのに、どこを見渡しても人々に覇気がない。

 その顔はすっかり疲れ切っていて、雑に酒を(あお)る男もあまり楽しそうには見えなかった。

 王都アウレーの支部は常に活気があってうるさいくらいだったのに、いったい何があったというのだろうか。

 疑問を抱きつつも、正面でこちらの様子を窺う受付嬢の下へと向かう。

 


「ようこそ、冒険者ギルド王都ドラヴァル支部へ。本日はどういったご用件でしょうか」

「えっと、アウレー支部から来たクロムといいます。まずはこれを――」

「これは……少々お待ちください。こちら一度お預かりいたします」


 ギルドカードとアルファンから預かった手紙を差し出すと、受付嬢はこちらへ一言声をかけてから一度後ろへ下がっていった。

 こういった場面では、基本的にルフランが対応してくれるのだが、今回はアルファンの指示によりクロムが声をかけることになっていた。

 彼曰く、


「いつも嬢ちゃんに任せっきりじゃ、お前一人になった時なんも出来なくて困るだろ。たまにはお前がやれ」


 とのこと。

 しばらくすると、眼鏡をかけた、どこか知的な印象を受ける長身の女性を連れて戻ってきた。

 そして彼女の誘導に従い、別の部屋へと案内されて腰を掛ける4人。


「はじめまして。(わたくし)冒険者ギルド王都ドラヴァル支部副支部長のセリシアと申します。現在支部長は別件で手が離せないため、代わりに私がご対応させていただきます。よろしくお願いいたします」

「ご丁寧にありがとうございます。ご存じかとは思いますが、クロムです。よろしくお願いします」

「ルフランよ」

「ええ、お二人のご活躍ぶりはこちらにも届いております。ところで、そちらのお二方は……?」

「ああ、この二人は――って、さらっと僕の膝の上に寝るのはやめてくれないかな?」

「クロム、ごはんまだなの?」

「これから大事な話があるからもう少し待って。とりあえずほら、そこに大人しく座ってて」

「むぅ……あとでたっぷり吸わせてもらうから」

「はいはい」


 相変わらず自由奔放なメイだが、とりあえず納得させることが出来た。

 メイはエネルギー不足の影響で常に腹を空かせているらしく、普通の食事はもちろん、隙があればクロムから魔力を吸い上げようとしてくる。

 流石に彼女の要求に従い続けていたらキリがないので、ある程度は我慢してもらう必要がある。

 幸いメイは物分かりが良く、クロムの言葉には今のところ素直に従うのでそれだけが救いだ。

 そして思い出したかのように前を向けば、どう反応して良いのか分からず困った顔をしたセリシアがいた。

 クロムは慌てて姿勢を正して話の続きを切り出す。


「っと、すみません。この二人はアウレーからここまで来る途中で出会った人たちで、ちょっといろいろありまして……」

「そちらの子は竜人、ですか? それにあなたはまさか……」

「わ、わたし、ですか?」

「えっと何て言うか、その……」

「ああ、失礼いたしました。つい深入りしそうになってしまいました。ギルドとしては危険行為さえしなければ問題ありませんので」

「そ、そうですか」


 詳しい事情を話すと面倒なことになりそうだったので、話を斬り上げてくれたのは助かった。

 軽く咳払いをしたセリシアは、改めて真剣な表情になる。


「では早速ですが、クロム様、ルフラン様にご依頼したいことがございまして」

「依頼、ですか?」

「はい。と言っても通常の依頼ではございません。内容としては、王城へと出向き、とあるお方の相談に乗っていただくといったものになります」

「王城って、あたしたちが入ってもいいものなの?」

「ええ、ここでは正体を明かすわけには参りませんが、とあるお方による直々の招待となりますので」

「いったい誰が、何のためにあたしたちを呼び出すのかしら」

「それは申し上げられませんが、本件はアルファン殿からの推薦もあるため、お受けしていただけると幸いです」

「ふーん……どうするの、クロム」

「まあ、いいんじゃないかな? 他にやらなきゃいけないことも特にないし」

「それもそうね」

「エセルはどうかな?」

「――ッ!?」


 クロムとルフランに対する依頼ではあるが、同行することになるであろうエセルにも聞いておく。

 もしかすると彼女の記憶を取り戻すカギになるかもしれないと思ってのことだったのだが、何故かセリシアが驚きの表情を上げると共にエセルの顔をじっと見つめた。

  

「えっ!? っと、わたしはどちらでも構いませんが……それより、どうかなされました?」

「――聞き間違いでなければ、あなた、エセルというお名前なのですか?」

「えっと、一応そうですけど」

「……そう、ですか。失礼ながら、この国ではあまりその名を名乗らないほうがよろしいかと」

「なんでよ。そんなにマズい名前なの?」

「名前というよりは言葉、ですね。ご存じないのであれば、あまり深入りはしないほうが良いと思います。この国――特に王城の方々はその言葉に酷く敏感ですので」

「なんなのよそれ。いたって普通の名前じゃない」

「それはそうなのですが……」


 しばらくの間、気まずい空気が流れた。

 エセルというのはあくまで彼女が口にした単語の一つであり、記憶喪失の彼女にとっての本名とは限らない。

 他に名乗る名がない事からそのままエセルと呼ぶことにしているが、もしそれがトラブルの種になるというのならば控えたほうが良いのかもしれない。

 そんな事を考えていると、エセルが何かをぼそぼそと喋り始めた。


「――エセルの存在は、そんなに都合が悪いものなのですか?」

「えっ?」

「――エセルは、わたしたちは、そんなに軽んじられているのですか?」

「え、エセル……?」

「――はっ! す、すみません。急に訳の分からない事を言ってしまいました。無意識のうちに、つい……」

「それは別にいいんだけど、もしかして記憶が?」

「いえ、残念ですがそこまでは……」

「そっか……」


 先ほどまでのエセルの表情。それを表すのに最もふさわしい言葉は「怒り」だ。

 彼女の言葉には隠し切れない怒りが込められていた。

 すぐにいつもの穏やかな顔に戻ったものの、あの顔はまるで別人のそれだった。


「その、気分を害されてしまったのであれば申し訳ございません。念のための忠告のつもりだったのですが」

「いえ、大丈夫です。ちょっと冷静さを失ってしまっただけですので」

「それならば良かったです。では、この後の流れについては一度先方に確認を取らなければならないので、また後日改めてギルドへ来ていただいてもよろしいでしょうか」

「え、ええ、それは大丈夫ですが……」


 大丈夫とは言いつつもエセルの表情は硬いままだ。

 いったいこの国にとってエセルとは何を意味する言葉なのだろうか。

 現時点ではさっぱり分からないが、もしかするとその謎を解き明かすことで彼女の記憶を取り戻す方法が見つかるかもしれないなとクロムは思った。

 それはそれとして、一つ気になったことがあったのでそれを尋ねてみることにする。


「ところで、ギルドにあまり活気がないように見えたんですが、何かあったんですか?」

「ああ、それは……そうですね、クロム様がたも無関係という訳ではないので、お話しします。実は――」


 セリシア曰く、ここ一月ほど、竜たちが暴れる事態が多発しているらしい。

 野生の竜だけならともかく、エルネメス王国で人と共に暮らしていた竜まで暴れだしたことで、冒険者たちはその対応に追われているのだとか。

 さらに極めつけは少し前に現れた超巨大な謎の竜の襲撃だ。

 それは過去に封印されたはずの凶悪な邪竜であり、ある日突然復活しひとしきり王都で暴れた後王城に襲撃をかけ、最終的にはとある()によって鎮静化されたのだとか。

 

「巨竜の襲撃で多くの冒険者が怪我を負い、中にはエルネメス王国を後にする人も少なくなく、この有様という訳です」

「なるほど……それは大変ですね。僕達で良ければ待っている間お手伝いもできると思うので、いつでも声をかけてください」

「ありがとうございます。その時は是非お力を貸してください」


 その巨竜については思い当たる節があり、ふと隣を見てみると、全く興味なさそうにあくびをするメイの姿があった。


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