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3話 裏切り

「――やあああっ!!」


 雷鳴轟く槍の一突きを以って飛びかかってきた魔物の腹に大穴を開ける。

 しかし振り返れば次なる獣が牙を光らせながら少女めがけて飛びかかってきていた。

 近くで浮遊しながら逃げ回っていた小竜が警告の鳴き声を響かせる。

 

「くっ――貫け、招雷迅(しょうらいじん)!」


 突き刺した槍を軸に体を反転させ、空いた左の手のひらを魔物へと向ける。

 直後、手のひらの中心から一本の細い導線が直進し、その数瞬後、導線を辿るように強烈な雷が横に(はし)った。

 極小サイズではあるが、その威力は本物の雷に限りなく近い。

 その直撃を受けた魔物も全身を貫く大穴を開けられてしまった。


「はぁ、はぁ……流石に少ししんどくなってきましたね……」

 

「キュルルゥ……」 


 謎の霧深き森に閉じ込められてから、いったいどれほどの時が流れた事だろう。

 結局、出口どころか人一人見当たることなく、少女は小竜と共に歩き続けていた。

 否、正確には()()()()とは出会っていたか。

 ()()は巧みに人の言葉を操り少女に接近したが、小竜が警告の声を上げると即座にその正体を現し少女に襲い掛かってきた。

 それ以降、少女の警戒心がさらに高まったのは言うまでもない。


「もしかすると、わたくしはここから一生……」


「キュウ……」


「いえ、そんな弱音を吐くわけにはいきませんわね。わたくしにはやるべきことがある。こんなところで立ち止まるわけには……」


 少女にはこれまでの記憶はほとんどなかった。

 ただ、一つ、何か果たさなければならない大きな使命があった。

 ()()を助けなくては。誰かを救わねば。

 どれだけ険しい道を辿ろうとも、絶対に辿り着かなければならない場所がある。

 それだけはその身に深く刻み込まれていた。


「さあ、行きましょう。歩き続ければいつかきっと活路が見えるはずです」


 少女の言葉に、小竜は肯定の声を上げた。

 深く寂しい森の中で孤独な一人と一匹が互いに支え合う旅は続く。

 日を追うごとに激しくなる魔物の襲撃。

 それでもいつかはきっと出口が見つかると信じて。


 ♢♢♢


「――む、少し止まってください」


「どうしました? ヘザードさん」


 突然足を止めたヘザードに対して、クロムが疑問の声を上げる。

 だが、その答えは彼女の視線の先に転がっていた。

 人だ。それも恐らくは女性が三人。崖際の地面に横たわっている。

 意識を失っているのか、彼女たち三人はピクリとも動かない。


「誰か倒れているわね。でも確かあの人たちは――」


「ああっ! 私の大切なハニーたちだっ!」


「なにっ!!」


 後ろを歩くレオーネが、あの三人を自らの仲間であると声を上げた。

 その言葉を聞いたヘザードとクロムの二人が即座に彼女たちの下へ駆けよる。

 しかし、その瞬間、レオーネの口角が上がったのをルフランは見逃さなかった。


「待って二人とも! なにかおかし――」


 その言葉が耳に届く前に、()()()()は動き出していた。

 倒れているのがもしレオーネの仲間ならばすぐに救助しなければ。

 こんなところで倒れていたら、いつ魔物の餌になってもおかしくないのだから。

 そんな思考を走らせ、クロムとヘザードの二人は彼女たちの下へ駆け寄る。

 だが、彼らは一つ大きな勘違いをしていたのだ。


(――っ!? 待て、これはっ――)


 クロムは自身の直感で自らに迫る危機を感じていた。

 それからだ。彼の鋭い目が、その()()の存在を認めたのは。


「くっ、ヘザードさんっ!」


「なにっ――」


「残念だが、もう遅い」


 無慈悲に響く美声。

 次の瞬間、ターゲットとしていた三人の女性の姿は消え、クロムとヘザードを取り囲む薄黄色の結界が展開された。

 そしてその直後、クロムたちの体はまるで金縛りにあったかのように動かなくなる。

 指先にすら力が入らない。刀を抜こうとしていた手も柄に添えられたまま動かなくなっていた。


「クロム! ヘザードさん!!」


「おっと、キミは黙って見ていてくれ。これは私からキミに送る復讐歌(リベンジソング)。邪魔はさせない」


「ちょっ、何よこれっ……」


 気づけば地面から伸びた無数の緑の触手が、ルフランの全身に絡み付いてその動きを封殺していた。

 ルフランは必死に解こうとするが、触手はそう簡単に千切れることは無く、まるで踊りを踊っているかのような滑稽な姿を晒してしまうだけだった。


「はははははっ!! こんなに上手く行ってくれるとは思わなかったよ!! だが、()()()()の力ではキミたちのような猛者を長時間押さえつけるのは無理だ。だから――」


 意地の悪い笑みを浮かべながらレオーネはゆっくりとクロムの下へと近づいていく。

 マズいと頭は判断しているが、体が思うように動かない。

 妖刀の力も鞘から抜かないことには引き出すこともできないので、今の状態では強引にこの縛りを解くことも出来そうにない。


「待ちなさい! クロムにいったい何するつもりよっ!!」


「くくく……そこでじっくり見ていろ。()()()()()()()()()()が無様にも落ちていく姿をな!!」


「は、ちょっ――」


(ヤバいヤバいやばい!! 動け動け動け動けうごけええええええっっっ!!)


 クロムの目前に迫ったレオーネは、その体に添えるように左手をかざし、一言、その魔法名を唱えた。


地獄への旋風(ブラストヘル)


(くそっ!!)


 直後、クロムの腹で爆発の如き突風が発生し、その小さな体は崖外へと投げ出される。

 クロムは自身の足技で空中を駆け上がることが出来るが、この場所はまだ結界の範囲内なのか、体が言うことを聞かない。

 だが幸いにしてこの崖はかなりの高さがある。

 これなら地面に叩きつけられる前に体の主導権を取り戻すことが出来そうだ。

 そう判断したのだが――


「二人まとめて落としている余裕はない。だがお前だけは確実に地獄へ落とす」


「――っ!!」


 クロムを崖外へと追いやった突風が、突如としてベクトルを下向きに変えてきた。

 それはつまり急激に落下速度が上昇するということで、クロムの計算が大きく狂わされることになる。


「クロムっっ!!」


 ルフランの声が遠ざかっていく。

 段々と光が遠ざかっていく。

 視界が霧に包まれていく。


(あっ、これ僕――)


 こうしてクロムは白き闇の底へと叩き落された。

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