エピローグ 黎明の剣士
あれから2日が経った。
現在のクロムはというと、
「――ったたたたた!」
「ほーら、無理しない。あーん」
「うぅ……んく、美味しい」
ギルド関連の病院、その病室の一角で寝たきりのままルフランにフルーツを食べさせてもらっていた。
しかもその体や顔つきは元の13歳の少年のそれに戻っており、2日前に見せた大人の姿から大きく劣化してしまっていた。
どうやらあれは妖刀が示したクロムの可能性の一つであり、持ち主のピンチに反応して、妖刀を扱うにあたって最善の姿になるように強引にクロムの肉体を作り変えた、と言った形らしい。
当然いつまでもそんな状態を続けていたらクロムの体が耐えきれず崩壊してしまうため、全てが終わったと同時に再び元の姿へと戻されたのだ。
その反動でクロムは全身筋肉痛になりこうして全く身動きが取れない状況になってしまった。
ただこれはもう少し経てば回復するらしいので、それまでの辛抱だ。
「ようクロム。見舞いに来てやったぞ」
「大丈夫? クロムくん」
「大丈夫じゃないですよぉ……」
病室のドアがやや乱暴に開けられ、アルファンとエルミアの二人がやって来た。
エルミアが見舞いの品を近くのテーブルに置いたのだが、その箱には"フェーデフルール"の文字が刻まれていた。
それは王都でも有名なスイーツカフェのお店の名だ。
「大金星だったな小僧。悪魔の塵に侵された奴に勝つなんてよ」
「結局なんなんですかアレは。服用するだけであんな強くなる薬なんて反則でしょうあんなの」
「……あれはとある過激派宗教団体が秘密裏に開発した劇薬だ。飲めば一時の間絶大な力を得られるが、最終的に人格が破壊されて魔物に近しい存在に成り下がる」
「一応その宗教団体は取り壊しになって、悪魔の塵も回収したはずなんだけどね……ちなみに王国では飲むのはもちろん、所持してるだけで大罪だよ」
「…‥不穏ですね」
「ああ。だがまあ今はそんなこと気にすんな。早く体治して復帰して来い。そしたらお前らはその瞬間からAランク冒険者だ」
「――はい!」
その言葉を聞き、クロムは嬉しそうに返事をした。
それは第二の師として仰いだ男から与えられた勲章だ。
Aランク冒険者。それはこの国において最強格の冒険者の一人に数えられる事を意味する。
つまり、世界最強の剣士を名乗る旅路の、記念すべき第一歩である。
(妖刀も正式に僕のものになったし、これで心置きなくこの刀と剣の道を極められる)
「よーし、これからも頑張るぞ! ってててて……」
「こーら! 暴れないの!」
締まらないなぁ、と思いながらも、クロムとルフランの二人は顔を見合わせ、笑い合った。
そうだ。自分はまだ13歳。
まだまだ子供として数えられる年齢だ。
今はまだ、こうして周囲の人たちの優しさに甘えながら成長してもいい時代なのだ。
でもやがていつかは、この手で大切な人を全て守り切れるような、そんな理想的な剣士になれるように、今は一歩ずつ進んでいく。
魔法使いになれなかった少年は、一振りの刀と共に追い出された事で、最高の出会いを経て、最強の剣士へと成り上がる。
そんな英雄譚がいつの日か描かれるといいな。
そんな妄想を抱きながら、幼き剣士は眠りについた。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
これにて第1章完結です!
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