白衣の男
「何これ……。」
今日の作業予定ボードには、『リトリス・クライスは人型マシーン開発のテストパイロットとして派遣する。』と書かれている。
「マジか。」
「早くこっちでも、人型使えるように頑張ってきてね。」
ミディアに、軽く背中を叩かれる。
この場合、上に何を言っても無駄だ。
観念して、人型開発が行われているサブステーションへ向かう。
ほどなく到着して、サブステーションに入る。
整備や開発等を行うステーション内は、独特の匂いがする。
「お待ちしておりました。リトリス・クライス作業員ですね。こちらへ、どうぞ。」
自分が何者か挨拶はせず、丁寧な口調で誤魔化しているが私を見下しているのは良く分かる。
でも、整備や開発等を行うステーション内は良く分からないから、誰かに案内してもらおうと思っていたところだったから、ちょうどいい。
案内役は、軍服を着ている。
階級は良く分からないけど、最初から軍人が出て来るとは、なんとも嫌な気がする。
案内役の後を着いて行きながら、辺りを見回すと見た事のないコンテナから様々なパーツが運び出されている。
パーツは、すべて人型に使われるパーツなのだろう。
作業用マシーンに、使いまわす事が出来ない形状のものが多い。
「到着しました。」
着いたと言われ、正面を見るとそこには3機の人型が立っていた。
「自分は、これにて失礼いたします。」
案内役は、私に軽く頭を下げ去っていた。
私は3機人型をよく観察してみる。
3機は、それぞれ特徴的な形をしている。
人型の為か、スラスターが多く感じられえる。
「これ、見た目もそうだけど、戦闘用だよね。」
私は、無意識にため息をついていた。
今のご時世、地上では戦争なんて起こっていないのだから、戦闘用を作る理由はない。
「もし、地球外生命体がこの地球に攻めてきたら、我々は太刀打ち出来るだろうか?答えは、無理だ。なら、対抗できるように、人型の兵器を作るべきなのだよ。」
背後からの声に振り返ると、後ろに白衣を着た男が立っていた。
どうやら、独り言を聞かれていたようだ。
「言葉を返すようですが、来るか分からない地球外生命体に対して開発をしたとしても、それを悪用する人間が現れれば、人型の兵器を使った内乱も起こる可能性もありますよね。」
今は大人しいが、今の状態をよく思っていない者達も少なからず存在する筈。
「その可能性は、あるとは思う。しかし、人型の開発が成功すれば、少なからず作業用マシーンも人型へ変化するに間違いない。」
争いは、起こって見なければ分からない。
それでも、技術は進歩させないと便利になる事はない。
「開発の手伝いは、私に拒否権ないから出来る範囲で協力します。」
白衣の男は不気味な笑みを浮かべ、私を3機の1機に案内する。
「君には、これに乗ってもらうよ。」
私は言われるがまま、コックピットに乗り込む。
コックピット内部は、なぜか作業用マシーンと同じ。
「ハッチを閉じると、起動のガイドが正面のモニターに表示される。ガイドに従って、その通りに起動してほしい。」
白衣の男に言われるまま、コックピットハッチを閉じ、ガイドに従い人型を起動する。
起動と同時に機械音が響き、正面のモニターが展開する。
モニターは、作業用マシーンより大きく180度の半球モニターになっている。
「よし、無事に起動出来た。動作説明もガイドが入っているから、それに従って行って欲しい。」
白衣の男は、そう言うと人型から離れていった。
私はガイドに従い、シートベルトを締める。
ガイドの説明によると、この人型は作業用マシーンに近い操作感である事が分かった。
人型の足の動きは、作業用マシーンでのサポートアームの動きで、腕はメインアームと同じ。
思ったよりも人型に、早く馴染めそうだ。
「今日は、重力下でなれる事。その際、関節などの駆動部にかかる負荷を測定、そのデータを元に改善し強化をする。次の日は、重力下で地上と空中でスラスターを使用時にかかる負荷のチェック。様々な段階を経てから、無重力でのテストになる。」
最初から短期間で終わると思っていなかったけど、どれだけ軍のテストパイロットは役に立たないのか分かった気がする。
3機存在する人型にそれぞれテストパイロットを乗せて、その癖に合わせたセッティングを行い、そのデータを元に平均的な数値を割り出すのが目的なのかもしれない。