これは夢?
私は、すぐに深い眠りにおちた。
これは、夢なのだろうか。
何処からか、聞き取りにくいほどにか細い声で、私に語り掛けてくる。
声の主は、私に声が届かない事を察したのか、映画館のようなスクリーンが目の間に現れ、映像が流れ始める。
『太陽系第3惑星地球。この星の生物は住処を宇宙へと移し、自然再生計画を始めたようだな。』
黒いシルエットしか見えないけど、声からして男性だろう。
その黒いシルエットの男は、誰かに話しかけている。
『そうですね。密かに、色々な場所で我々が介入していたのが、やっと報われるのですね。』
話しかけられた人物は、先ほど聞き取りにくいほどにか細い声の主である事に、私は気付いた。
『同胞達には、月の開拓を進める為と言って地球人類から離れるように命令を出してある。申し訳ないのだが、君に同胞達を導いて帰ってきてほしいのだ。』
『分かりました。』
か細い声の主はそう言うと、一瞬で月面に転移した。
『出迎え、ご苦労。』
か細い声の主は、認めたくないけどレディウスの声。
『お勤めご苦労様でした、エディス様』
レディウスに頭を下げる、部下と思われる人物。
映像は鮮明にはならず、終始黒いシルエットのような状態で続いている。
部下と思われる人は、レディウスをエディスと呼んでいた。
私は耳もいいから、親しい人の声を聴き間違えたりしない。
私は、レディウスは偽名である事を知った。
『同胞は、到着次第転移させろ。地球人類の作った物は、不要だ。そこらに、捨て置け。』
レディウスの口調は、私の知っている優しい先輩のそれとは違っていた。
このレディウスの声は、冷たさを感じる。
『全員、転移完了しました。後は、エディス様だけです。』
乗り捨てられた作業用マシーンの1機が、レディウスの近くを漂う。
『俺は、後処理をしてから戻る。お前は、先に戻っていろ。』
レディウスの近くを漂う作業用マシーンには、レディウス専用のパーソナルマークが描かれていた。
レディウスは、作業用マシーンに勝手にパーソナルマークを描き、自分のパーソナルマークの入った作業用マシーンを、絶対に誰にも使わせなかった。
『了解しました。』
レディウスは、鎧を着た聖騎士の様なロボットで、漂っている作業用マシーンや資材船を1つ1つ丁寧に不思議な力で、小さな鉄の塊に変えていく。
レディウスの操るロボットは、転移で作業用マシーンや資材船の近くに移動する。
その時、後回しにしていたレディウス専用作業用マシーンが、ロボットの背中に張り付いた。
『誰だか知らないが、このような愚かな行い許されると思うな。』
『あ?許されようと思って、やっちゃいないさ。』
『作業用マシーンで、この白夜を抑えられると思っているのか?』
『あぁ、それが出来るんだな。お前の白夜には、細工がしてある。それに今、お前の白夜の転移システムを無効にした。』
『このような事をして、何になる。』
『そうだな。邪魔な存在のお前が、消えるぐらいか?』
『俺を消して、お前はどうする。』
『オレは、下等な生物が住む地球を消し去る。』
『それは、愚かな事だ。』
『愚か?何を言ってる。この地球と言う惑星は、消し去るべきモノだった。しかし、お前の進言で王は考えを改め、地球を再生する事を選ばれた。お前はいつも、生物宿る星があれば、再生の道を王に進言し続けた。奴らは、自らの過ちで星を駄目にした奴らだ。それを助ける義理など、一切ない。むしろ武力をもって滅ぼすべきだ。だが、王はお前の意見を聞き入れる。そして、王は一度決めた事は曲げない。ならば、お前を消し、すべての罪を愚かに地球の奴らに押し付けるだけだ。』
『王を愚弄する事は、許さん。』
レディウスは、白夜の背中にくっ付いた作業用マシーンに手を伸ばした。
『吠えろ、黒狼。』
レディウスの白夜の胸に、正面から剣を突き刺す黒い騎士のロボット。
『逃がしはせん。』
レディウスは、作業用マシーンに伸ばしていた白夜の手で、黒狼と呼ばれる黒い騎士のロボットを捕まえる。
『残念。』
黒狼は転移して、白夜からの拘束を解いた。
『さよなら、エディス様。』
そう言うと、黒狼はどこかに転移し消えた。
そして、作業用マシーンから眩しい光が放たれ始める。
『あの男、地球から核を圧縮してもって来たのか。さすがに傷ついた白夜でも、コレを耐える事は出来そうにない。』
白夜が爆発に巻き込まれると共に、映像が途切れた。
『争いは、憎しみしか生まない。それに、地球と言う星は、青く綺麗であった。』
……。