表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なんかおかしい北欧神話 -天地創造編-

 はるか昔・・・


 まだこの世界に空も、海も、大地も存在しなかった時代。


 世界は、二つに分かたれておりました。



 灼熱の炎で燃え盛る炎の世界――ムスペルヘイム。

 極寒の冷気で凍てついた氷の世界――ニヴルヘイム。



 炎の世界と氷の世界。


 二つの世界の境界では、炎と氷が激しくぶつかり合っています。

 


 相反するエネルギーが衝突し、生み出される圧倒的な化学反応!

 それはまさに神秘的生命誕生のビッグバン!



 炎の熱気と、氷の冷気がまざりあい・・・



 なんと!!



 ひとつぶの雫に、ひとつの尊き生命が宿ったのです!


 

 そうして生まれたのが・・・



「――オレ、ユミルってわけ」



 ユミルはドヤ顔で言いました。


 ユミルは北欧神話において、一番最初に生まれた原初の巨人です。


 北欧神話におけるアース神族や霜の巨人といったエラくてスゴいやつらは、

みんなこのユミルから生まれてくるのでした。



「神も巨人も・・・すべてはオレから生まれた・・・。


これがどういうことだかわかる?


わかるよね?


つまりオレこそがすべてのオリジナル。


他の奴らはみんなオレから生まれた下位互換の劣化コピー。


この北欧神話は、


オリジナルであるオレが、愚かな劣化コピーどもを先導者としてまとめ上げ、


天地創造を築いて無双する壮大なスペクタクルストーリーというわけさ!」



 ユミルはドヤ顔で言いました。


 さっきから誰に向けてしゃべっているのでしょうか?


 とんと見当もつきません。


 寝言は寝てから言ってほしいものです。



「ヴィ~! ヴィ~!」

「ヴェ~! ヴェ~!」

「オ~! オ~!」



 そこへ三人の子どもたちがやってきました。



「・・・ん? うわさをすれば、劣化コピーのガキどもじゃないか」



 子どもたちの名前はそれぞれ、ヴィリ、ヴェー、オーディン。

 ユミルから生まれたアース神族で、

 続柄的には、ユミルの孫、曾孫くらいの関係にあたります。



「今、オレは自分語りをするので忙しいんだ。遊ぶならよそでやってなさい」



 ユミルは言いますが、ヴィリ、ヴェー、オーディンは聞く耳を持ちません。


 ゲシゲシ!


 と、ユミルのことを殴りつけます。



「ハッハッハ! こらこら、やめなさい愚かな劣化コピーたち」



 ユミルは言いますが、やはりヴィリ、ヴェー、オーディンは聞く耳を持ちません。



「ヴィ~! ヴィ~!」

「ヴェ~! ヴェ~!」

「オ~! オ~!」



 ゲシゲシ! ベシベシ!


 と、ユミルの身体を力いっぱい殴りつけます。



「え・・・ちょ・・・おまえら、チカラ強くないか・・・?」



 ユミルの額に脂汗がにじみました。


 それでもヴィリ、ヴェー、オーディンは殴るのをやめません。



「ヴィ~! ヴィ~!」

「ヴェ~! ヴェ~!」

「オ~! オ~!」



 ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!



 と、ユミルの身体を力いっぱい執拗なまでに殴りつけます。


 さらに、その拳は、的確にユミルの急所をとらえ始めていました。



「や、やめろ・・・マジやめろって! やめろって言ってんだろ!」



 必死に涙を浮かべて訴えるユミルでしたが・・・

 たとえ泣いても、ヴィリ、ヴェー、オーディンは殴るのをやめません。



「ヴィ~! ヴィ~!」

「ヴェ~! ヴェ~!」

「オ~! オ~!」



 ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!

 ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!

 ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!



 息つく暇もないラッシュラッシュの連続ラッシュ。

 あまりの猛攻にユミルは抜け出すことすらできません。



「う・・・そ、そんな・・・バカな・・・!?


このオレが・・・こんな劣化コピーの・・・


それも・・・こんなガキども相手に・・・!!」



 ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!

 ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!

 ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!



「う・・・うわぁああァァああああぁあああああああああ!!!!!?


まだ物語の序盤も序盤なのにィイイいいいいぃぃいいいいいいい!!!!!!!」



 ユミルは死にました。


 子どもたちの、じゃれつきに耐えることができなかったのです。


 哀れなユミルの魂が、ゆっくりと天へとのぼっていきます。


 ユミルはドヤ顔で・・・いえドヤ(こん)で言いました。



「フ・・・愚かな劣化コピーたちよ。


よくぞ、このオレを倒してみせた。


私から、お前たちに教えることはもう何もない。


お前たちとはここでお別れだ。


だが、どうか泣かないでくれ。


オレはいつでもお前たちのそばにいる。



オレの肉体は、



どこまでも広く澄みわたる大空になり・・・


おだやかな波のたゆたう大海原になり・・・


ドッシリとした雄大な大地になり・・・


そして・・・千の風になって・・・




この壮大な北欧の世界を吹きわたっているのだから・・・!」





 こうして・・・


 ユミルが空と、海と、大地と、千の風になったことで・・・


 北欧神話の世界に、天地創造は為されたのでした。



「ヴィ~! ヴィ~!」

「ヴェ~! ヴェ~!」



 ヴィリとヴェーは、パチパチと手を叩いて喜びます。


 そんな中、オーディンは・・・



「・・・ところで、俺だけ名前のテイストちがくね?」



 今更すぎる疑問を、千の風になったユミルへと投げかけるのでした。







『なんかおかしい北欧神話 -天地創造編-』おわり


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ