なんかおかしい北欧神話 -天地創造編-
はるか昔・・・
まだこの世界に空も、海も、大地も存在しなかった時代。
世界は、二つに分かたれておりました。
灼熱の炎で燃え盛る炎の世界――ムスペルヘイム。
極寒の冷気で凍てついた氷の世界――ニヴルヘイム。
炎の世界と氷の世界。
二つの世界の境界では、炎と氷が激しくぶつかり合っています。
相反するエネルギーが衝突し、生み出される圧倒的な化学反応!
それはまさに神秘的生命誕生のビッグバン!
炎の熱気と、氷の冷気がまざりあい・・・
なんと!!
ひとつぶの雫に、ひとつの尊き生命が宿ったのです!
そうして生まれたのが・・・
「――オレ、ユミルってわけ」
ユミルはドヤ顔で言いました。
ユミルは北欧神話において、一番最初に生まれた原初の巨人です。
北欧神話におけるアース神族や霜の巨人といったエラくてスゴいやつらは、
みんなこのユミルから生まれてくるのでした。
「神も巨人も・・・すべてはオレから生まれた・・・。
これがどういうことだかわかる?
わかるよね?
つまりオレこそがすべてのオリジナル。
他の奴らはみんなオレから生まれた下位互換の劣化コピー。
この北欧神話は、
オリジナルであるオレが、愚かな劣化コピーどもを先導者としてまとめ上げ、
天地創造を築いて無双する壮大なスペクタクルストーリーというわけさ!」
ユミルはドヤ顔で言いました。
さっきから誰に向けてしゃべっているのでしょうか?
とんと見当もつきません。
寝言は寝てから言ってほしいものです。
「ヴィ~! ヴィ~!」
「ヴェ~! ヴェ~!」
「オ~! オ~!」
そこへ三人の子どもたちがやってきました。
「・・・ん? うわさをすれば、劣化コピーのガキどもじゃないか」
子どもたちの名前はそれぞれ、ヴィリ、ヴェー、オーディン。
ユミルから生まれたアース神族で、
続柄的には、ユミルの孫、曾孫くらいの関係にあたります。
「今、オレは自分語りをするので忙しいんだ。遊ぶならよそでやってなさい」
ユミルは言いますが、ヴィリ、ヴェー、オーディンは聞く耳を持ちません。
ゲシゲシ!
と、ユミルのことを殴りつけます。
「ハッハッハ! こらこら、やめなさい愚かな劣化コピーたち」
ユミルは言いますが、やはりヴィリ、ヴェー、オーディンは聞く耳を持ちません。
「ヴィ~! ヴィ~!」
「ヴェ~! ヴェ~!」
「オ~! オ~!」
ゲシゲシ! ベシベシ!
と、ユミルの身体を力いっぱい殴りつけます。
「え・・・ちょ・・・おまえら、チカラ強くないか・・・?」
ユミルの額に脂汗がにじみました。
それでもヴィリ、ヴェー、オーディンは殴るのをやめません。
「ヴィ~! ヴィ~!」
「ヴェ~! ヴェ~!」
「オ~! オ~!」
ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!
と、ユミルの身体を力いっぱい執拗なまでに殴りつけます。
さらに、その拳は、的確にユミルの急所をとらえ始めていました。
「や、やめろ・・・マジやめろって! やめろって言ってんだろ!」
必死に涙を浮かべて訴えるユミルでしたが・・・
たとえ泣いても、ヴィリ、ヴェー、オーディンは殴るのをやめません。
「ヴィ~! ヴィ~!」
「ヴェ~! ヴェ~!」
「オ~! オ~!」
ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!
ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!
ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!
息つく暇もないラッシュラッシュの連続ラッシュ。
あまりの猛攻にユミルは抜け出すことすらできません。
「う・・・そ、そんな・・・バカな・・・!?
このオレが・・・こんな劣化コピーの・・・
それも・・・こんなガキども相手に・・・!!」
ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!
ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!
ゲシゲシ! ベシベシ! ドゥクシドゥクシ!
「う・・・うわぁああァァああああぁあああああああああ!!!!!?
まだ物語の序盤も序盤なのにィイイいいいいぃぃいいいいいいい!!!!!!!」
ユミルは死にました。
子どもたちの、じゃれつきに耐えることができなかったのです。
哀れなユミルの魂が、ゆっくりと天へとのぼっていきます。
ユミルはドヤ顔で・・・いえドヤ魂で言いました。
「フ・・・愚かな劣化コピーたちよ。
よくぞ、このオレを倒してみせた。
私から、お前たちに教えることはもう何もない。
お前たちとはここでお別れだ。
だが、どうか泣かないでくれ。
オレはいつでもお前たちのそばにいる。
オレの肉体は、
どこまでも広く澄みわたる大空になり・・・
おだやかな波のたゆたう大海原になり・・・
ドッシリとした雄大な大地になり・・・
そして・・・千の風になって・・・
この壮大な北欧の世界を吹きわたっているのだから・・・!」
こうして・・・
ユミルが空と、海と、大地と、千の風になったことで・・・
北欧神話の世界に、天地創造は為されたのでした。
「ヴィ~! ヴィ~!」
「ヴェ~! ヴェ~!」
ヴィリとヴェーは、パチパチと手を叩いて喜びます。
そんな中、オーディンは・・・
「・・・ところで、俺だけ名前のテイストちがくね?」
今更すぎる疑問を、千の風になったユミルへと投げかけるのでした。
『なんかおかしい北欧神話 -天地創造編-』おわり