熊さん
深夜になって人が嬲り殺しになっているのをただ見ていた。
皆生きるのに必死だった。
だから見ないふりをした。
ごめん。だって俺だってたぶん同じことをするし、自分には見逃しても不利益がなかった。まだね。ただちょっと問題があって、ボコられているのはミュータントだった。
あの、人と他の動物とのミックスの人。つまり、俺と同じ人種。
日本の悪いところは島国だから他人にキツイことだ。ただちょっと見た目が違うというだけで、彼らは迫害する。
面白がって鎖に繋いで、今もまだ殴られている。
気分悪いわ。なんで見えるところでやってくれるのだろうか。
「毛深くてくっせぇな!」
と男は鉄パイプで殴った。怒りの矛先が見つからなかったのだろう。
「なんとかいったらどうだ!?」
鈍い音が響いて、ミュータントの頭から血が飛んだ。おい誰か助けろよ。関わりたくない気持ちは良く分かる。誰だって恨まれたくないし、失うものを持ってしまうと人としての強度が落ちる。
万が一しくじれば、仲間に危険が及ぶ。
ミュータントの意識が飛んだ。そのままタコ殴りにあって、体が揺れている。
「熊の肉は始めて食べるな」
男の楽しそうな笑い声が決め手となった。
相手が弱そうなことだけが心配だった。逆にそれが力を隠している証拠にも思えた。例えば拳銃など持っていれば、ライオンでも深傷を負うことだろう。
だから俺は足音を殺してゆっくりと背後に忍び寄った。卑怯とは言うまい。相手は男三人。武器は鉄パイプを所持。おそらく銃も持っている集団だった。
一人目の首を撫でて爪で切り裂き頸動脈を切断した。そのまま、肝臓、横隔膜を潰して呼吸を止める。
二人目は夜空を見上げていたため、頭を回し蹴りして落とした。
三人目はこちらに気がついたが、腰に手を回した時点で近接戦闘距離となった。
男の手を握りつぶすようにしながら物を確認したが拳銃ではなかった。ナイフ。それも刃が逆についた、警察向けに開発された特殊ナイフが出てきた。
日本製じゃない。外国人か?
良く見れば、顔は外人風である。持ち物に財布があったので免許書から国籍が分かった。
死体が三つ。熊さんは風に揺れている。




