しんぞう
最初に心配になったのは、俺の頭がおかしくなって、存在しない犬君を産み出したことだった。
さらに言えば、飛行機に乗っていた人たちを全員倒して、その血肉を用いて不気味な肉人形を作ったかも知れなかった。
でも違った。
良かった。
犬君はいた。けれど、毛が抜けてて体がボロボロだった。
生きてりゃそれで良いのだ。
生きてりゃなんとかなる。
されど、生きるとは辛く痛々しい物なのだった。
俺を含めた技術者三人は肩をつき合わせて呉服店に殺到し、毛皮付きのコートをかき集めた。
もう、勘のいい人ならば分かるだろう。
服をばらして毛皮だけを取り、犬の形に縫い合わせて彼に着させた。
「いいです? 人って言うのは、いつも見ているつもりになってますけど、回りのことなんてなーーんにも見えてないんです」
「はあ」
「だから見た目をそんなに気にすることは無いんです」
「はい?」
玲子さんは全く信じていないようだった。
誰も狼と一緒の檻の中では生きていけない。
神様じゃなくても分かる。
でもラブラドールと一緒には生きられる。これはそういう問題なのだ。
「キャー!!」
それをみた玲子さんはどっちかって言うと嬉しそうな悲鳴を上げていた。
彼女は若くて綺麗な女性だったから、外見を重視するようだ。
縫合の終わった彼の姿は、真っ白な犬であった。
嘴のように長い顎が彼の長い手足とあいまって、まるで、コンパスのようだった。
長いたてがみは風に揺れてふわふわとしているし、やせっぽっちの体が雑誌の専属モデルのようにそこにいた。
実際今は、青木で手に入れた細身のスーツを着こなしており、二足歩行の犬という感じである。
彼も相当気に入ったらしく、紫色の目を細めて笑顔を作っていた。
ぴんと立った尻尾は多分興奮しているのだろうと思う。
彼は立ち上がると、口をわずかに開いた。……何かしらの肉片が見える。
お礼として何かの臓物をもらった。
うん。生。
生はクリームだけで良いのに。
何で生の心臓を持ってこられなきゃならんのか。
こっちを期待してみている。
俺は、体が猫だが、人間の食事をとっている。故に、その悪食が嫌だったのだが、せっかく機嫌の良さそうな彼を失望させたくなく、それを口に含んだ。
後で隠れて吐こうと思った。
そしたら入れた瞬間ですよ、ぷちゅっと音を立ててプチトマトが弾けるみたいに口のなかに血が溢れた。
ビックリしたのがその味だった。
言葉を失う。
なんだこれは。
そう、それはまるで、めちゃくちゃ高級なイクラを口一杯に頬張ったような味がした。
めちゃくちゃうまいのだった。
反射的に吐いた唾が真っ赤っかで、舌先に絡まるようなあまじょっぱさに目を見開く。
涙目になる。
あーーはいはいコレあかんやつ。
「気に入ったかなぁ? もっと食べたい? 君にはもっとつくしたいだよ♥️」
みんな助けて。この子変だ。
首筋をピアノを弾くように指が撫でた。




