バレる
缶詰やレトルト食品等の保存食品を見繕った農家は、盗んだ車に押し込んでトンネルをあとにした。
動くものは誰もいないと思われた真っ暗闇のトンネル内、その、壁と消火器との間に蠢く影があった。
その影は全身が夜を切り取ったような艶やかな黒で覆われ、頬をそばかすのように黒い鱗が点々と飾っている。
その化け物は黒い翼を広げて、夕闇迫る空へと一飛びに舞い上がった。
さながらその様は、夜をすべる王、バンパイアのような姿である。
「ネコチャンは本当にバカ」
そのような声がしたのも僅かな間で、影は空へ溶けるように消えていった。
農協に着いた農家はと言うと、頭を抱えてうんうんとうなり、僅か5メートル進むのに10分近くかけて歩いた。
それもそのはずである。なにか、不気味な雰囲気を建家から感じるのだ。こういう感覚は人間よりも猫の方が鋭い。全身に生えている毛はまるでレーダーのように生暖かい風を感じているのだった。
その入りたくもない部屋の扉を開けて、中に入った農家は、しかし、出たときと変わらない姿で布団にくるまっている玲子さんにヒヤリとしたものが背中を伝う。
本来、猫であればかかないはずの汗を感じるほどに、それはあくまでも化け物であり、まるで人のふりをしているような気さえした。
「あ、おかえり」
笑顔で布団のなかから声を出すそれに農家は、じーっと視線を向けた。身動きすらとらない。なぜならば、ここにいたというのが嘘だと知っているからだった。
「ねえ、玲子さん。今日、僕はどこに行ったと思う?」
「……さあ。よほど楽しかったんでしょうね。こんなに帰りが遅かったんだからね」
「まだ、どれくらいかかったか、話してないよね?」
この部屋には時計がない。つまり、玲子さんが時間を知るすべはない。
「ねえ、なんで、時間がかかったの知ってるの?」
「……お腹の空き具合で分かったの。それより、ネコチャン。その女なに?」
「あのね、玲子さん。まだここには俺しかいないよ? どうして女性がいることが分かったの?」
まるっきり黒だった。
「付いてきてたよね。すぐ後ろにいたり、天井にいたりしたよね? 俺も人じゃなくなっちゃってるから、暗闇も見えるんだ。それにね、玲子さんの匂いは覚えてるんだよ。チラチラ見てたよね?」
布団の中で、目がギョッ、と剥いた。
「……君が悪いんだよ? 私を置いていくから。こんなになっちゃった」
黒い影が布団から出てくる。艶かしく、流し目をして。




