嘘
バカでありたい。
人の目など気にしないバカでありたい。
でも他人と生きる都合上、全く面倒なことであるが、普通のふりをしなくちゃいけなかった。
ふつう、人を殺しといて顔色ひとつ変えないというのはおかしい。皆そう思う、と思う。だが、俺はあんまりそういうのが分からなくて、全然悲しくも苦しくもなかった。だって自分に起きたことじゃない。
でもここには、女さんもオルチャンもいるので、普通のふりをしなくちゃいけなかった。
「なんでみんな攻撃してくるんだよー!!コッチは、平和に暮らしたいだけナノニー!」
チラッと流し目でうかがった感じ、女さんは、実に疑い深く俺を見ていた。
まるで腹の中を探られているようだった。
もう一手だ!たたみかけろ!!
「もうマジ無理……くるしい。皆ごめんねぇ……死んじゃったよぉ……」
太股の肉をつまんで涙まで流す主演男優賞ものの演技で、よわよわしく膝を抱えて泣き崩れると、バカがかかった。
「よしよし。ネコチャンはやらなきゃいけないことをしたんだよ?悪くないんだよぉ。私を守るためだったんだね? 私嬉しい!」
「ぼ、僕のこと怖い?」
上目使いで涙をためた目を向ければ勝ちだった。
半口をあけ、真っ赤になった顔をヒクヒクと痙攣させる女さんが騙されるのにそれほど時間はかからなかった。彼女は猫が好きな人種だった。
問題はオルチャンだった。
あのバカ、さっさと信じれば良いものを、まるで面白い人形でも見るみたいに俺を見やがって、二つある頭を捻って覗いてきた。
そこにはすっかり、涙の止まった俺がいて、全部嘘だと気がついたらしかった。困ったな。バカには嘘が通用しない。
顔中ベロベロと舐められ、体に前足を乗せられて、結構痛いのね。オルチャンは足の面積が小さいから体重が一点にかかってめり込むのだった。
うざいので、それとなくお腹を押すと、肉球ごと噛まれていた。
「痛い!」
別に痛くはないのだが、大袈裟に反応することでやっちゃいけないことなんだなと覚えさせつつ、次はどうするかな~っと計画をたてる。
めんどくさくて脱いだポンチョに捕虜の目が集まった。
あっ、そうだ君たちはまだ見なれてないね。見せない方が良かったかな?




