マスク品切
外に出ること事態、お腹の上の方がキュー、っとなって吐きそうだった。
この田舎町は日本の高度経済成長期から取り残されてしまったように下水道がない。若い人たちは全員が尻に火がついたように都会に逃げ、ここに住んでいるのは老人ばかりだった。市からの補助金で浄化設備を購入することはできるが、下水道を敷設するほどの予算はない。俺の家はそういうところにある。
いつもは聞こえるはずの小鳥のさえずりも、足元でうごめく虫の姿もなかった。
測定器は不気味な電子音を響かせて、ここが汚染されていることを示している。終わったー!
しかし、それが目に見えることはないので、お気楽にも俺には久しぶりの外の景色がとても美しいと思った。
朝露に濡れ、わずかな一滴をたたえた笹の葉には、この世のすべてが反射して宝石のように輝いているし、真っ青な空と白い雲が悠々と浮かんでいる様は溜め息が出るほどだった。何でこんなに綺麗なのか。
マスクをはずせば、身体中に放射能が蓄積する死の世界なのに。
体を滑り込ませて軽トラックのエンジンをかけたときに、エンジン音を聴けたのは心強かった。崩れかけの道路を抜けて、三叉路に行き着くと、大量の車が放置されていた。
ここまで車で来ることはできたけれど、こればかりは仕方ない。大きな道路では沢山の車両が渋滞にはまってそのまま放置されていた。持ち主は動かぬ車を捨てて走って逃げたか、あるいはまだ、中にいた。
ため息混じりに迂回して地元民しかしらない脇道からお店の方にむかった。昼間はあまり繁盛しない店だが、今日ばかりは人がごった返していた。テレビを見て来たのだろう。
ごった返している人々が全員マスクをしている訳じゃなかった。数人がタオルを顔に巻いただけの実に簡素な防護で「マスクを売れ!」と定員に怒鳴っているところだった。
そそくさと車に戻る。
タイベックを売っているお店は少ない。でもガスマスクを売っているお店はもっと少ない。だから、本当にマスクがほしいならネットで買わないといけないのだけど、ここに来ている人にはその知識がないようだった。
仕方なく、近所のコンビニでレインコートをあるだけ買い、ついでにごみ袋もあるだけ買って、家に帰った。
帰るとき、変なものを見た。
窓ガラスに当たった虫の羽が、なにか変なのである。
片側の羽が短くて丸まっていて、まっすぐ飛べないようだった。
その虫は風に流されてヒラヒラと飛んでいってしまった。
なんかめちゃくちゃ読んでいただいてビックリしています。ありがとう!!!!頑張ろう全国の農家さん!!なんかテレビで食料事情をかんがみてサツマイモの増産を、なんてやってましたけど、嘘、ですよね? なんかもう、どんどん現実的になっちゃって、もう気分は戦争前夜ですよ。