みみぱく
体の回復のため野菜ジュースを紙パックから吸い上げながら、痛みで泣きそうになった。
傷に触るなんてとんでもない。今、滅菌ガーゼの下には、まるで心臓があるみたいに傷がドクドクと脈打ち、熱を持っている。切れた毛細血管が脈動を伴って傷口を圧迫しているように思われた。
あうあう。死んでしまう。早く食べて血液つくって傷口を再生しないとやばい。
意外なことに、腹に風穴が空いていたときよりも随分と痛みはましであり、一時間もすれば、ガーゼをかきむしりたくなるような痒みに襲われ出した。痛いよりは良いかな。
そのタイミングで台所にたち、お肉の解体を始める。
ステンの銀色をしたシンクを覗き込むと、そこには襲ってきた犬がはみ出るようにして体を横たえていた。舌は口からはみ出て、首もとは血に濡れていた。肉球はぷにぷにとしている。
まるで眠っているみたいだ。触っても、まだその体は暖かいようにも感じる。本当は肉は熟成させた方が美味しいのだろうけれど、その時間も冷やす電気もないので、今日はこのままである。
我が家では一本しかない三得包丁で、首の肉を切り取り、脛椎の隙間に刃を入れて首を抱くようにして外す。
案外犬の頭は重かった。一キロくらいある気がした。
視線を感じて振り返ると、オルチャンがぎょっと目を向いてこっちを見ていた。
『ごしゅじん?ごしゅ、ごしゅじんはぼくをたべるの……』って言う感じだった。
「大丈夫だよ。お前は食わんよ」
笑って言ったが怯えられた。
ふざけて抱っこしたら、まるで剥製みたいに固くなって、手も足もピン、と伸ばしたまま動かなくなっていた。
「オルチャン、怖いねぇ。食べられちゃうねぇ」
もふもふとした耳をぱくっとするとビクッと動いた。可愛い。暫くそれをやっていたら急ぎ足で歩いてきた女さんに頭を平手でパシン!とやられた。
「オルチャン虐めないで!」
「痛い!」
不平を訴える俺を置いて、大事そうにオルチャンを抱き上げて6畳の方に連れていった。
よほど怖かったのかオルチャンは尻尾を足の間に入れて震えている。いやーかわいいね。食べちゃいたいね。いや、冗談。




