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お腹ぬいぬい

 家に帰ってすぐに傷口を消毒する。本当はイソジンが良いのだろうけど、薬局にはうがい用のイソジンしか売っていなかったため、備蓄はなく、仕方なく石鹸液をつかう。知っているだろうか。この石鹸液は瓶が褐色で、日光が内容物に当たらないように出来ていて、かつ、近場の薬局で買える唯一のぱっくり割れた傷口の消毒に使って良い消毒液だった。


 アルコール消毒は深い傷口に使ってはいけない。なぜなら血液にそれが流れる危険があったり、そもそも人の体には消毒してはいけない常在細菌と言うものがあって……。


 なんでこうも講釈を垂れているかと言えば、全然消毒したくなくて時間を稼いでいた。


 絶対痛いもん。この石鹸液はトイレや汚物を運んだ洗面器の消毒にも使われるほどに非常に強力なそれであり、水で薄めるのが前提となっている。


 生理食塩水、略して生食のパックに適量を溶かし、キャップにナイフで穴を開けて即席のシャワーとする。


 タオルを噛んで、傷口にぶっかけるのだが、怖くて最初のうちは腹の回りを撫でるようにかけていた。傷口にかかっていない。


それを見ていた女さんにぶんどられ、思いっきり傷口にかけられると言う拷問を味わう。


「っ!!!!」


 本当に痛いと声にならん。

 アドレナリンは等の昔に切れていた。

 麻酔。麻酔はどこだ。我が家にはそんな上等なものはあるはずもなく、容赦のない痛みだけが実感として頭に焼き付いていく。


 ある程度消毒できたところで、指を突っ込んで内臓が傷ついていないか確かめなければならなかったのだが、どうせ適切な治療は受けられない。開腹手術など夢のまた夢であるので、無視して傷口に瞬間接着剤をぬり、ぎゅっと傷口を閉じる。


「もうやだ!何でこんなに苦しまねばならんのだ!」


「ねこちゃんよかったぇ!生きてるねぇ!」


 このアマぁ!!絶対覚えてろよ!怪我したらおんなじことしてやるからな!


 銃の弾は右から左に抜けていた。良かったよぉ。弾残ってなくて。恐らく、使われたのは20番の細いショットガンシェルだったのだ。12番のスラッグだったらお腹の肉が剥がれていただろうから、不幸中の幸いだった。くーん。何でこんな痛い思いをしなくちゃいけないんだ。


 オルチャンだけが心配そうに見ていたが、普通に二メートル以上距離を開けての観察だった。

 女さんが怖いらしい。

 俺も怖い。なんだこの女。男みたいだぞ。


 裁縫セットから普通の針糸を持ってきて、鼻息荒くオルチャンを肘で突き飛ばし、目の前にやって来た。


「家庭科はずっと5だったから任せて!」


 おお神よ。なぜこんな困難を。


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― 新着の感想 ―
[一言] 家庭科5はすごい。 あれは技量と才能が問われる科目です。 消毒液で洗った後とはいえ、生々しい傷を縫いにかかる女さんは一体、何者なのです。 絶対ただの動物好きではないですね。
[一言] 深い森の中に谺する雄叫び──。 プレデターの気分だ、場面的に。 相手が二人だけとは限らない、現場に行き、痕跡を辿って、残りも殺らなければならない。
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