狩
暗闇で目だけが光っていた。
その不気味な地獄からの使者達は飛びかかって足を噛みつこうとする。なるほど、まずはこちらの機動力を削ぐつもりらしい。
俺の心はと言えば、あまりの恐怖に気持ち悪いを通り越して、もうどうでもよくなっていた。そして、相手に対する憎悪と憎しみだけが器を満たすようになった。
そしてそれはこぼれ落ちる。
噛みつきに来た頭をそのまま足で強かに踏みつけると、良く踏み固められた雪を潰すような感触がして犬は動かなくなった。
続いて二匹が首を狙って後ろから飛び付いて来たので、これをつかんで前に持ち、その怯えた表情をみながら大口開けて噛みついた。
パキッ、と頭蓋を牙が傷つける音がした。そのまま下顎の歯が、気道を潰し動脈を切り、バタバタと動いていた手足がだらりと力尽きる。
最後の一匹は逃げた。
頭がくらくらとした。血を失いすぎている。補給しないといけなかった。
初めて戦果となる二匹の犬の腹を裂いて、まだ暖かい黒い内蔵を手掴みで見つけ出すとそれにかぶりついてみた。
日本人でよかった。日本人は元から生で肉を食べる習慣があって、馬刺などは有名だが、野犬の肝を喰ったという話は、ここより他にはないのではないだろうか。
新鮮すぎてまだ動いているような肝臓だった。死という急なストレスによって溶け出した甘味が、口一杯に広がって、口から胸元まで血だらけになり、肉を持ち帰る力をくれる。
他にも野生生物はいるだろうから出来るだけ早く運び込まなければならない。特に血の臭いは強烈で、犬、猪、熊なんかの動物を刺激するかもしれない。
家に帰るとまず女さんにドン引きをされ、オルチャンには全身舐め回され、髪の毛ごとクチャクチャされて歓迎を受けた。犬は噛むようにして毛繕いをするようだ。
今夜は焼き肉だぞ!
ダイジョーブダイジョーブ犬美味しいから。




