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猟師


 食料がないために、必死になって食べ物を探さないといけなくなった。米はあと半分、缶詰は切り詰めて二日分、二年前に育て始めた母屋の畑はジャングルになって入ることもできなくなっていた。草ボーボーだ。


 玄関を開けるとわずかに風が吹いていた。

 深夜のため、真っ暗なはずの外は、薄紫の輝かしい世界だった。

 庭の砂利は所々輝いて宝石のようだった。


 走る。気持ちが良い。

 生ぬるい風が体に絡み付くようでものすごく気持ちよかった。

 あんまり気持ちいいのでまるで、ベッドにでも飛び込むみたいにダイブする。すると体が反射的に動いて、四つん這いで走る姿となる。


 獣のように走っているのだが、それでスピードは車並。地面に近いのでそう感じるだけかもしれないが、すぐに疲れて一息入れたくなった。


 チュン、と音がした。


 お腹を蹴りあげられたような感触と共に、ボタボタと音がした。

 腹が熱くなって、手を伸ばすと血が垂れていた。

 遅れてバーンという銃声が響く。


 痛っ……。


 腹を押さえて地面に丸くなっていると、近づいてくる足音がした。


「おい!まだ生きてるぞ!」

「頭撃て、頭!」

「……弾がもったいないだろうが。ナイフでやるよ」


 男は二人組。揃いも揃って火傷して爛れた首を包帯で巻いた人間だった。それは火傷じゃない。重度の被爆による細胞の壊死だ。


「こいつ、猫にしちゃ、やけに大きいな」

「変異したんだろ」


 ナイフが暗闇にキラリと光った。

 汚れた手がベタベタと体にさわってくる。

 気持ちが悪い。

 息が臭い。

 腰につけた鍵がチャラチャラと煩い。


 丸めた足を、ちょっとぶつけるつもりで前に出した。


 そしたらおっさん吹っ飛んでしまって、電柱に直撃、体が逆側にくの字に曲がって動かなくなった。


「は?」 


 やがて震えながらおっさんの口が開いた。

「……おまえが、お前がやったのか!? 仲間殺しやがって!!!」


 顔に、焼けた鉄を押し当てられたと思った。

 それは鈍く光を反射するナイフに切られた痛みであった。

 反撃しないと死ぬ。今度こそ本当に死ぬ。

 俺は、男の顔面をパンチしてみた。するとまさか反撃されると思わなかったのかよろめいたので、そのまま地面に引き倒して左右パンチ。動かなくなるまでタコなぐりにする。ビクンと動いたのでもう一回だ。


 ナイフの攻撃を外してくれて助かった。

 彼は、恐れた。人の姿をわずかに残した俺を、目の合う俺を殺すのを。


 たす、かった。


 その一息の間に、煤だらけになった植木屋の畑からやけに大きな野犬が顔を出した。

 そいつらは、低く、地鳴りのように唸り声をあげる。

 よほど腹が減っているらしく、俺の裂けた腹ばかり見ている。


「そんなに動く獲物が良いのかよ」

 

 足元には新鮮なお肉が転がっているというのに、皆俺しか見ていない。

 立ち上がれば、数歩距離をつめ、俺を取り囲むようにして三びきもの群れが姿を表した。


 ここは彼らの縄張りか。

 

 まずいなぁ。犬は走って逃げる獲物を本能的に追いかける。死んだかもしれない。ごめん。 


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