仲間になりたい
「どこにいたって絶対に見つけるから!!」
女に叫ばれた。
俺は今、ケモショタの劣化版として生きている。さぞ見つけやすいだろうな。そうか、そうして殺すつもりか。
なら、こっちが先に今やってもいい。相手は弱っている。この汚れた世界でガスマスク無しでは生きられない哀れな生き残りで、身体中蝕まれた適応できなかった側の人間だ。
だが、その実はどちらにも血塗られた人の血が流れている。アメリカ人の祖先が先住民のインディアンに何をしたのか、日本人がかつてアイヌに何をしたのか、そして今、何をしているのか考えれば、その残酷さは歴史の血脈として我々は受け継がれているのである。
やったことも勿論だが、それ以上にそれをやったことを忘れて、幸せに生きている自分達をおかしいとも思っていないじゃないか。
今まさに、彼女は、物資を持っている側で、持っていない俺に餌付けをしてなつかせようとしているではないか。
彼女は人だが、外に出れない。物資を持っているが外には出れない。だから出れるものを、出れる駒が欲しいのだ。あるいは、殺して肉を食べようとしているのかもしれない。
こちらがなにも言わないことを良いことに、好きなことを並べ立ててこっちを分かったような顔をして、バカにして、そのにやりとした、生ぐさい顔を歪めて笑っているのだ。
「俺は! 貴女のようにはなりません! 不快です! 馬鹿にしないでください!」
まさか反論されると思わなかったのだろう。ポカンとした顔があった。殴るのもバカらしくなってしまって、子供のようにプイッと背を向けて歩く。
「待って!!」
どうせ店からは出れないのだ。女は出れば被曝するのを知っている。
結局みんな自分がかわいくて、まさか自分が死ぬとは思っていない。だから死ぬその瞬間に思うのだ「何で自分が」って。
その日はお腹が空いて、ひもじいのでさっさと眠ってしまった。
もし、お腹がいっぱいで、頭がさえわたっていたら、きっとあんなにおろかなミスはしなかっただろう。だが俺は、おかしたのだ。
我が家に続く土の道に転々と肉球の痕を残して家まで帰ってきていた。やろうと思えば、それこそ根気さえあれば我が家まで追ってこられたのだ。
そしてあのスーパーの女は我が家の割れた窓から、泥棒のように息を殺して上がり込んできたのである。
最初に感じたのは違和感だった。物音がするような気がしたが、気のせいだなと思って再び眠りについた。
むくりと起き上がって耳をピクピクとさせているワンコも布団に戻してまどろみのなかに意識を溶かした。
まさか、枕元に女の影がある等と思うわけもなく。
その不気味な影は、しかし確かに何度も跨いだり、指先でつついたりしたあとで鼻先をずいと胸元に当ててきた。
その頃には俺の目もパチリと開いて現状を把握する。
全身の毛が逆立つのを感じた。
女の激しい吐息が、毛の間に走り回って気持ちが悪い。
女は掃除機みたいな音をたてて吸っている。え。怖い。なるほど、猫が人間に吸われるときこういうことになるのかとも理解したが、俺はその気持ち悪さに、後ろ足でずいと蹴りあげて距離をとった。
「ねこちゃん♥会いに来たよ」
ハアハアと、病気のような息をして女は手をついて息を整える。どうしよう。へんなのがきた。




