おいしい
俺はこの体が嫌いだった。
毛だらけで、ただの靴も履くことの出来ないこの体を、なぜ好きになれると言うのだろうか。
見る人が見れば、まるでそれは狐つきのようであるし、あるいは、化け猫が人のふりをして、二本足で歩いているような姿なのである。
「もし、もし、行くところがないならここにいたらいいのよ。大丈夫よ。心配要らないわ」
と、何やら優しい言葉を投げ掛けられているが、その女の赤く上気した頬が、実に怪しくて俺は恐ろしく思った。
普通、珍しい生き物には高い値がつく。昔は、ネットで双頭のヤギの剥製を見たことがあったが、120万円もの大金で落札された。
要するに、この女性は俺を金として見ているのだった。
「悪いですけど、興味ないです」
嘘だ。本当はお腹が減って仕方がなく、彼女の後ろにある缶詰や瓶詰めの食料が食べたくて仕方がなかった。
それを目で追ってしまっていたのだろう。女はにこりと笑って丸い缶詰を差し出してきた。
「あげる」
黙っていると、開けられないと思ったのか、缶切りまで用意して開けてくれた。
「焼鳥。美味しいのよ?」
その目を見ると女は反射的にそらした。やはり、やましいことがあるのだ。ワンコも警戒している。また、いつ、あの虫の化け物が襲ってくるともわからんのだ。警戒する。距離をおく。店からでる。
「まって! どこにいくの!? 外は危険よ!」
俺は振り返り、ニヤリと笑って彼女の目をみた。
「サヨナラ、おねぇさん。缶詰をありがとう」
元より一人の方が落ち着くタイプだ。さらに、生身の女性相手にはもう、何ヵ月、何年と会話すらしたことがない。同じ人間だとは認識しているが、存在することが数奇だと思われるほどだった。
女性怖い。
彼女から見えないお店の壁際で、浮浪児のように缶詰を貪り食った。もちろんワンコと半分こ。
恐ろしいことに全然足りないのだった。
上を見ると、チチチと小鳥が母鳥を呼んでいる。
雨樋を梯子の代わりに伝って、天井に出るといくつも鳥の巣があった。人が減ったことで逆に安住の地となったここを拠点として子育てをしているらしかった。
巣のなかに手を突っ込むと、まだ目の開いていない雛と卵があった。暖かい。命。
ちょっと考えて、雛を残して卵を貰う。
可哀想だから。
そうしているうちに、親鳥が帰ってきて、しめたっ!、と空手チョップで叩き落とし、地面でワンコの餌食となった。
「あっ!ズルいぞ!」
半分は俺のだ!
ちょっと考えて、残していた雛も捕まえることにした。
親がいないとこの子は飢えて死ぬ。だったら一緒に天国に行った方がいい。
驚くべきことに、生きてる方がなんか美味しいのだった。可哀想とは思っているよ。でもみんな食べてるじゃん。お肉も魚も。おんなじだよ。それに食べ物が無いのだ。




