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乳飲み子

 骨を戻して、さっそく店内を物色する。そこがスーパーマーケットだったと言うには、あまりにも品数が乏しく、いったい何人の生き残りがここに押し掛けて食料を強奪したのだろうか、と思った。食料はみんな腹の中に消えてしまったのだ。

 俺は特に意識したつもりはなかったが、一つの棚の前に来た。


 棚は、元々ジャムなどがおかれていたことを示すように、可愛らしい丸文字のポップアートが並んでいるが、その肝心の商品がない。

 だが、その棚の向こう側、ともすれば子供の手しか入らないような、わずかな隙間の向こうに、琥珀色の淡い輝きがあって、思わず手を伸ばすと、それは500gはあろうかという巨大なペットボトル入のハチミツだった。

 まだ開けられておらず、ちょうど半透明のボトルには、口いっぱいにはちみつがとろぅりと詰まっていて、右に左にと傾けると、中の気泡が気持ち良さそうに泳いだ。


「……お腹すいた」


 ちゃんとした食事を、最後にとったのが何時だったか、全く分からない位だった。

 はしたなく、直接口をつけ、まるで乳飲み子のように、そのハチミツをちゅうちゅうと舐めると、爆発的な甘さが口を駆け抜ける。思わず抜いてワンコの口にもあがってやる。右から左に、喧嘩しないよう同じ時間。

 そしたら今度はまた、自分が吸って、次はワンコの番。


「貴方、なんなの?」

「うま。うま。うま」

「貴方、人ではないのね?」


 何事か納得したらしい女が、ちょいと手を伸ばして、俺の前ダレを捲る。


「まあ!」

 と女は笑って手を打った。


 相手をするのが面倒くさく、俺は手の中のハチミツを少しでも早く飲もうと、躍起になっていて、女はハンカチの小さいのを取り出して、


「まあまあ、こんなの汚して」と、ハンカチが汚れるのも気にせず、柔らかな布でもって、しきりに口の回りを拭ってくるのだった。


「お母さんはいないのかしら? よほどお腹が減っていたのですね」

 

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