表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/71

大きくなる

 犬の人生は人と違って短い。

 故に体の成長も早く、わずか20日ほどで体重は倍になり、短い足で自立できるまでになった。


 体に対して頭が大きいため、どうしても掃除機で床を吸っているような不格好な姿だったが、その子が歩けるようになったのは奇跡だと思った。


 お下がりのご飯椀に頭から突っ込んでミルクをぶちまけながら飲む様は、まるで庭で唸りをあげるスプリンクラーのようであった。頭が2つあるので、飛び散る量も2倍である。ミルクを飲もうと前進して前足で椀を蹴るのでどんどんと前に進む。ピアノのカバーや積み上げた文庫本にもお構い無く引っかけて回るその姿は笑いを誘った。


 この子はいつもお腹が減っていて、今こぼすようにして終わってしまったミルクが惜しく、空っぽの器のなかを何時間もかけてねぶるようにして、やっと諦めるような子であった。

 満足ではなく、諦めるのだ。


 幸いにも我が家の同居人は大変な偏食家であっから、食べ飽きたご飯がいくらでもあったので食料の心配はいらず、その小さな体が破裂しないようにだけ気を付けて子育てを続けている。


「お前は普通だから、気にしないででっかくなれよ」


 勿論、まだこの子犬は、世界で自分達がどう見られるかも知らずに膝のなかで丸くなって寝てしまった。

 もうしばらくは外との関係を断った方が良いのではないかと思われた。世界には危険がいっぱいで、まだ外に出したら食われるだろうな、というのが俺の心のなかにはあったからだった。


 ややあって、仲間になりたいという人が現れた。海外の核シェルターを目指す仲間を募集していたことをすっかりと忘れていた俺は、あわてふためいた。

 あんまり慌てたものだから、子犬を部屋において玄関まで飛び出ると、置いていかれたと思った子犬が、咽びなくというより、恨みのこもった呻き声で鳴きじゃくるので急いで抱き上げて玄関のドアを開けた。


 目の前に立っていた男は目を真ん丸にして俺の手の中の小さな命を見る。

 ボトリ、と男の手から落ちた旅行鞄が地面に転がって無様に中身をぶちまけてしまった。


「そ、その子は?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 示される現実 [気になる点] 募集はどうやったのか [一言] ネットワークとしたら、それを見れる人はそれなりに限られるわけで……更に農家さんの所まで来れるともなれば、更に少ない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ