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暴徒

 銃を作ろうと思う。

 いや、まってくれ、ポリスメンに電話をしないでくれ。今非常にヤバイ状況にあって、そういう考えに至ったのだ。

 今は買い出し中、スーパーの中だ。


 何度も自分から警察にかけているけどまったく繋がらない。機能を失ったものと判断する。


 ネット公開された衛星写真から警視庁が無くなり、クレーターになっちゃった事が分かった。それと時同じくして首都圏の都市機能が失われた結果、電話は不通だし、逮捕しに来る人もいなくなっていた。


 その事実に気がついた住人は、『正義のみかたです!』という顔をして、シャッターの閉まった食料品店を襲撃し大量の食料を持ち出している次第だった。ちょうど食料も切れる時期。空腹で人間の本性が剥き出しだった。要するに動物なんだよ。ここは動物園みたいなもの。

 大型のカートに、山ほど商品を積んで、テレビやプリンターまで積んで、彼らは笑顔だった。最近お店で行われた値上げの対する答えとしてそれを行ったようだった。


 手にはバットを持ち、頭にはバイクのハーフヘルメットという出で立ちで俺の前に立ち尽くした50代くらいの男は、俺を見て血だらけ目を剥く。


 今の俺の装備は、自宅の倉庫から引っ張り出してきたサバゲー時代の異物、本物のプレートキャリアとレベル4の本物の防弾プレートつき、顔面は勿論、ガスマスクで覆い、非常用に持ってきたダブルエッジのナイフ装備という物だった。


 だって死にたくないもん。


 俺の持つナイフは、主に熊やバッファローなどの体重70キロ以上の動物がいる自然保護区の職員が使用しているモデルで、分厚い毛皮も貫き通す貫通重視仕様だ。


 主に春先で厚着をした人間を殺すための最後の手段だった。


 それを、もう、抜いている。

 この暴徒は俺の目の前で、核が落ちても必死に仕事をしていたパートの店員さんを殴り殺していた。

 強奪を止めようとしたというのが理由だった。

 だから敵だ。

 今俺は、目の前にたってこっちを傷つけたら、お前も痛い目を見るぞという威嚇のためにナイフを見せつける。

 ライオンのような牙も、グリズリーのような鋭い爪も持たない俺がどうやって君を殺すと思うか。それは、この冷たいAUS8Aの刃だ。高価な刃物じゃないけど、十分だ。


 内心俺もびびっている。もうおしっこ漏れそう。この人、店員を殺すのに躊躇してなかった。笑ってた。頭おかしいんじゃないか?


 でも向こうも怖いはずだ。命を奪うのと奪われるのは違う。こういうとき、大事なのは逃げ道をつくってあげないと、本当に何をするか分からない事だ。そこで、足元に転がっていたトマトスープの缶詰を男の鼻先に投げた。


 顔の横を抜け、通りすぎるその缶に驚き、後ろに振り返って、非常口に気がついてほしかった。

 俺だって戦いたくない。痛いのは嫌だ。


 でも緊張して強ばった体は、手を包む分厚いケミカルグローブによって余計な滑りを得る。そのうえ、必要以上に力の入った投球ホームで直線で鼻の面にべちり!と当たった缶詰はひじゃげて中から真っ赤なトマトがボトボト溢れた。


 一瞬の緊張。

 鼻を押さえてうーーーとうなる男と距離をとるように動いた。


「コロス!!!ぜってーころす!!」


 ええ? 今のとこ、終わりでよかったじゃん!逃げれば良いじゃん!


 ちらっと通路の向こう側を見たら恨めしそうにこちらを睨む男の姿があった。声につられて彼の仲間もやって来る音がする。囲まれる!


 この店はいつも嫌いだった。なぜなら、棚が床に固定されておらず、ただその場に置かれただけになっているから。


 俺が設計するならそんなことはしない。大きな地震が起きたとき、商品が天井近くまで積まれた棚が、お客様の上に落ちたらどうする。


 棚は金属製。均一圧延鋼鈑で曲げという技法を用いて作られている。体積から考えられるその総重量は120キロほど。+商品の重さがある。しかも足は小さくてトップに重心がある形状。

対して、人間は肉をタンパク質が形つくり、その芯はカルシウムが形作る骨があるだけの生命体。


 人間はあまりにも構造的に脆く、簡単に死ぬ。


 俺たちはそういう世界で生きている。だから人の設計は信用ならないのだ。


 俺は棚によじ登り、天井のアイボルトにしがみついて思いっきり棚を蹴飛ばした。


 メキメキメキメキ!という音をたてて床と棚をくっつけていたわずかな接着剤が剥離する。


 男の上に真っ黒な影が延びて、その全身を包み込んだ。


「おいおいおいおい!!……嘘だろ!?」


 ズン!と音がして計算違いをおかしたことに気がつく。


 田舎のスーパーは店内が広い。東京の二倍はゆうにある。だが、倒れた棚が次の棚を避けるほどのスペースがなく、ズン!と棚に当たる。すると力なく倒れて次にズン!またズン!


 ドミノ倒しのように棚が倒れる連続した事故は、この店を襲った暴徒を飲み込んでいった。

 ヒヤリハット案件である。

 最後にあれほど望んだ商品に押し潰されたのだから本望だったんじゃないかな?ヨシッ!何を見てヨシって言ったんですか?

 トマトスープで真っ赤になったお店から必要なものを貰おう。勿論、ちゃんとお金は払う。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに始まった [気になる点] この手のお店多いよね……この間閉店したお店も、片付けを見たらこれで……下手をしたら死んでいた。 [一言] 抑えられていても、今の日本人の一部は気狂いが結構…
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