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9話 初陣をしよう

 艦内を警報音が鳴り響く。コアさんも虚像さんたちもその音を聞いて、すぐに配置につく。


 オペレーターのデスクに艦内のブロック分けされていて、赤表示された部分が緑に変わっていく。


「陛下、各員戦闘配置完了」

「戦闘準備よし」

「陛下オールグリーンです」

「ラムネを飲みませんか?」


 オペレーターたちが次々と報告をしてきて、ふむんと僕は頷く。ついでにルフさんへと断りを入れておく。


「艦長、戦闘するのに適した案を出してください」


「この距離ではどの攻撃も届きません。80キロまで接近して、爆炎属性の精霊投槍を使用するのを提案致します」


「了解です。操舵士さん、全速にて80キロまで接近。砲術士さん、精霊投槍を準備してください」


 艦長コアさんの提案を聞いて、すぐに指示を出す。


「了解ですぜ、北北東に向けて全速前進します!」


 『ルルレッド』を中心に精霊艦隊が動き始める。波を蹴散らし、高速で戦場へと接近する。風を切るように戦艦は進み、シルフドローンが戦場へと辿り着く。


「敵の解析ができました。モニターに映します」


 少女オペレーターが報告をして、画面に戦闘が大きく映し出された。


 なんかお魚さんだった。手足が生えているお魚さんだ。緑色の鱗をして、水掻きのついた手をしていて、ぞろりと生えた牙を生やして、三叉の鉾を手にしている。角が生えたイルカに乗っているお魚さんもいた。


 船へと迫って魔法を放ったり、三叉の鉾で叩いたり、乗り込もうと張り付いているのもいる。


「あれはサハギンですね、閣下。王冠を被っているのがサハギンキング。主に水の魔法を使います。どうやらスタンピードの中に入ってしまった哀れなる船のようですよ」


「さすがはルフさん。サハギンというお魚さんなんだ。この距離だと闘気の大きさがよくわからないなぁ」


「駄目ですよ、閣下。闘気の大きさばかりを気にしていたら、マナが大きい敵を見逃します。油断大敵というやつです」


 ルフさんが軽く腕を組んで、注意をしてくる。そっか、島では闘気の大きさでしか判断していなかった。これからはマナの大きさも注意しないといけないんだよね。


 でもマナを感知する練習したことないんだよなぁ。とりあえず弱そうに見えても、油断しないようにしよう。


「でも、襲われている船が変じゃない? あれって帆船っていうんじゃなかったっけ?」


 モニターに映るのはサハギンの群れに襲われている帆船だった。三本マストの帆船だ。既に二隻はマストが折れていて、ろくに動けなさそうだった。


 サハギンたちの猛攻に耐えているが、沈没まで時間の問題だ。


 古すぎる船だ。日本は少なくとも鋼鉄艦のはず。なんでだろ? 帆船って、物凄い古い船だよね?


「遊覧船かもしれませんな、陛下」


「遊覧船?」


「はい、昔の船を使って船旅をする遊びがあると聞いたことがあります」


 艦長さんが真剣な表情で予想を教えてくれる。なるほどね。遊覧船かぁ、それでサハギンさんに襲われるとは運がなかったね。


 海で遊ぶのかぁ。僕の島とは違って余裕がありそうで、羨ましい。


「えぇ〜っ! な、なんで嘘はモガモガ」

 

 ルフさんの口に虚像がラムネを押し込んでいる。そんなにラムネが飲みたかったのかなぁ。


「ルフ様、サンタ、サンタですぞ」


「すぐにバレると思いますが………」


 なんか小声で話してるけど、サンタがどうしたんだろ?


「陛下、敵の数を全て確定。モニターに反映します」


 少女オペレーターの報告に、ルフさんたちのことは忘れて、モニターへと顔を向ける。光点が多く映り、『TARGET』と表示された。


「数、384匹です」


「了解しました。では、精霊投槍を爆炎属性に切り替えてください」


「第一から第九までの精霊投槍を爆炎属性に切り替え完了」


 モニターに搭載されている精霊投槍が表示されて、赤い炎のマークへと変えられて属性変更終了と表示された。


「各艦から準備完了との入電あり」


 少女オペレーターの報告に肘掛けに肘をかけて、フンスと指示を出す。ふふふ、なんか僕って提督っぽい?


「味方艦へ連絡。精霊投槍の攻撃が重複しないように設定。時間を合わせて一斉に攻撃を開始してください」


「アイアイサー。攻撃範囲設定、攻撃時間合わせ」

 

 ピピッと、モニターの敵に円形のマークが重なっていく。半分以上のお魚さんが、攻撃範囲に入ったことを教えてくれる。


「では、攻撃開始!」


「第一から第九までの精霊投槍射出!」


 砲術士さんが攻撃ボタンを押下する。ゴォンと轟音が響くと後部甲板が開き、精霊投槍が射出される。空高く飛んでいくと、噴煙をあとに残して戦場へと向かっていった。


 他の艦からも同時に発射されて、飛んでいく。死をもたらす精霊投槍がモニターに光点として映る。


 光点は高速でサハギンたちを表す光点に接近していく。


「めーちゅーまで、残りごー、よん、さーん、にー、いち、めいちゅー! やったー!」


 幼女オペレーターが、嬉しそうにキャッキャッとデスクをペチペチ叩く。

 

 モニターに映る光点が半分以上消失し、遠くに見える戦場から、煙と爆炎が空高く吹き上がるのが見えた。


 サハギンたちは吹き飛んで、バラバラになるか、燃え尽きて黒焦げとなって海中へと沈んでいっていた。


 サハギンキングとやらは、もはやどこにもいないので、跡形もなく消えたのだろう。王冠を少し欲しかったかも。


「おぉ、実際に使うのは初めてだけど、精霊投槍は素晴らしい威力ですね! 僕が受けたら少し火傷しちゃうかも!」


「ですな。どうやらスペックどおりの性能のようで安心しました」


 ぱちぱちと拍手をすると、艦長さんも僅かに笑みを浮かべて嬉しそうにする。僕も安心だよ。使わないとやっぱり不安だよね。


 精霊投槍は射程距離90キロのマジックミサイルだ。属性を自由に変更することができて、攻撃範囲も変更できる。その威力はレベル100らしい。


 いまいち火力はわからないけど、お魚さんを駆逐する程度の火力はあったみたい。


「少しの火傷で済むんですか……」

 

「うん、モニターで見た感じだとそんな感じ」


「『どっひゃー、な、なんですか、あの威力は! あんな武器があるなんて、も、もしや神話の魔法兵器?』とか?」


 目を剥いて、バタンと倒れると手足を振り回すルフさん。最後にうるうると涙目で僕をちらりと見てくるので、ピンときた。いつもの演技なんだね。どうやら今日も彼女の期待には答えられなかったみたい。ごめんなさい。


「陛下、敵サハギンキングは撃破した模様。残り残存兵力は散り散りになって逃走に移っています」


 おっと、ルフさんに集中しすぎちゃった。少女オペレーターの声に気を取り直して、ふむんと考え込む。どうしようかな?


「遊覧船を救助するべきだと思いますか?」


「いえ、まだまだ航行可能だと思われます。不必要に我が艦隊を見せる必要はないかと。『隠蔽インビジブル』モードでのシルフドローンでの追跡をさせましょう。恐らくは母港に戻ろうとするはずです」


「わかりました。では微速前進。この艦隊も『隠蔽インビジブル』モードに切り替えてください」


 艦長さんの言葉に頷いて、操舵士さんに指示を出す。艦長さんはとっても頼りになるね!


「了解。各エネルギー抑え。『隠蔽インビジブル』モード展開開始」


 他の艦の周辺の空間が揺らぐ。そうして艦が瞬くとその姿が消えていった。そこにいると判断できるのは、海面が割れて波が起こっていることからだけだ。


 『隠蔽インビジブル』モードは姿を消す精霊魔法だ。精霊艦というだけあって、この艦隊は搭載しているTPがある限り、自由に精霊魔法を使用できるのである。


 即ち、僕が乗っている場合は資金全体を使用できるから、燃料切れを恐れることはないのだ。


 王様が座乗している特典なんだよね、えっへん。


「閣下、『ウンディーネドローン』に倒したサハギンの魔石回収を命じましょう。サハギンキングの魔石は勿体ないです。ちょっとした宴会を一週間できるだけの価値はあるはずですよ」


「そりゃあ良いですなぁ。初陣を勝利したお祝いとしてはちょうど良いかと。陛下、許可を貰えませんかね?」 


 ルフさんの言葉に操舵士さんが嬉しそうに振り返る。たしかに微速だと回収の余裕はあるかな?


 モニターに映る遊覧船は、なんとか無事なマストを使い、移動するようだったけど……とにかく遅い。沈まないか心配になっちゃうレベルだよ。大丈夫かなぁ。


「あれなら微速前進でも追いついちゃうかもですね。では、『ウンディーネドローン』にサハギンの魔石を回収させて下さい」


「了解。各艦へ連絡します」


 少女オペレーターが連絡をして人魚のような水の精霊を模したドローンが射出される。すぐに水中に潜っていって、その姿を消す。


 これで初陣は終わりだろう。少し緊張していたねと、額に薄っすらとかいた汗を手で拭って息を吐く。負けたらどうしようかと思っちゃったよ。


「それにしても戦艦砲は使わなかったね」


「ですな。今はミサイル戦が主流ですからなぁ。射程距離が40キロしかない戦艦砲は使う時は殆どないかもしれません」


「ちょっと残念です。ビーッて闘気砲みたいに敵を一掃できると思ったんですが」


 顎をさすりながら苦笑する船長さんへと、がっかりしちゃったと肩を落としてみせる。破壊力は戦艦砲がダントツ一番だけど、射程距離がなぁ。


「まぁ、敵艦との殴り合いになる場合もあるかもしれません。その時には大活躍するでしょう」


「その時は僕も頑張りますね!」


「殴り合いの意味」


 ぎゅうと拳を握りしめて、敵との殴り合いには負けないぞと気合を入れる。父さんたちには負けるけど、僕ももう戦士だもん。頑張るよ!


 なぜかルフさんが、半眼となって呟くので、その意味をピキンと悟っちゃう。


「殴り合いの時は、ルフさんも一緒に行こうね!」


「申し訳ありません、閣下。自分は秘書なので殴り合いの戦闘には絶対に加われないのです。絶対に加われないのです。大事なことなので2回言いました」


 ニコリと微笑み、ルフさんは残念そうに断ってきた。手が震えて口元を引きつらせて、今にも泣きそうなので、とても悔しいんだろう。


「はぁい」


 なんだ少し残念。でも仕方ないか、母さんも料理を作っている時は戦えないって言ってたしね。


「それよりも閣下。戦闘時の語尾を変えませんか? するが良い! と王らしい語尾にしましょうよ。威厳がストップ高となりますよ?」


「おぉ〜、いげんがあっぷ。良いかも?」


「陛下、その語尾を使うのは女性の王族のみです」


 艦長さんが素早くフォローしてくれるけど、なんだ女性専用かぁ。それなら無理かな。


「なんで邪魔するんですか! 閣下なら容姿的にいけますって」


「駄目ですよ、初陣で艦を壊されても困ります。不吉です」


 ルフさんと船長が話し合っているけど、よく分からないから気にしないで良いかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませて頂いております ラフィールか…王だし縁起でもないな
[一言] ヨグと呼ぶが良い!
[一言] 最後のはもしかして星○の紋章かな?懐かしいなぁ… ヨグと呼ぶが良い!
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