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ヨグの大航海 〜孤島の戦闘民族は国造りをしますっ  作者: バッド
3章 さらなる飛躍

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71話 焦る監視員

「どどど、どうなっているのだ?」


 自称神は純白の部屋にて、動揺で顔を真っ青にしていた。この数千年で久しぶりに焦っていた。


「いったいなぜ『色欲』が壊れたのだ。壊れるはずの無いものが壊れた! くっ、神託を与える前に気づいていれば!」


 常の美丈夫な顔と鍛えられた身体は影も形もなく、無精髭を生やした腹がぽっこりと出っ張っているメタボな身体に変わっていた。


「お陰で私は邪神扱いだっ! なぜ壊れた? 主から賜った大事な加護であったのに!」


 自分の姿が元に戻ったことも気づかずに、人々の前に姿を見せたのだ。神秘的なオーラもないため、見事変態扱い、いや、邪神扱いされてしまった。


 羞恥で顔を真っ赤にすると床に落ちている壊れた水晶を怒りを込めて蹴っ飛ばす。水晶の欠片はカチャンと音を立てて、壁に当って跳ね返る。


「このままではまずい……」


 自身の身体を見て、再び焦った顔となり呟く。


「ダイエットをしなければ、威厳が失われてしまう! と、糖質制限ダイエットが効果的か?」


 こんな姿では、人々の前に姿を現すことはできない。だが、運動するのは嫌だ。食っちゃ寝をしたいのだ。


 オロオロしながら考えるが、なかなか解決策はでない。チートデイは2日に1日くらいで良いだろうか? できるだけ楽をしてダイエットを………。


「違うっ! そんなことは後回しだ。明らかに………明らかに………」


 悔しげに拳を握りしめて、歯を食いしばる。


「運が悪いっ! やはりめったに使っていなかったから劣化したのだろう。うぬぬぬ………」


 おっさん天使は全て運が悪いせいにした。女天使にモテないのも、神通貨の投機で大損したのも、全然痩せないのも全ては運が悪いせいだ。


「だが……最近は運が悪すぎる」


 カプセルベッドに入っているゴミを片付けながら首を傾げる。なにか変なことが起こっているような気がするが、それがなにかがわからない。


「いやいやいや、まずは落ち着くとするか」


 焦っていると、選択肢を間違える。本命鉄板銀行レースだとボーナスを注ぎ込んだ時も、本命対抗ではなく、2番人気と3番人気にしておけば良かったのだ。一点狙いは危険であった。


 とりあえず美丈夫の幻が解けてしまい、トーガを羽織る姿は恥ずかしくなったので、ジャージを着ておく。


 よいせと床にあぐらをかくと、精神を集中させて、手をゆっくりと翳す。


「『暴食』よ。その力を示せ」


 手のひらに水晶体が生まれると、おっさん天使のマナにより、くるくると回転し始めて光を放ち始める。


 フッと薄笑いをして、鋭き眼光を放ち宣言する。


「ポテトとチーズたっぷりピザ、サラミとソーセージのピザ。全てLサイズで。フライドチキン12ピースにフライドポテト、ダブルハンバーガーと照り焼き、あと赤ワインをボトルで3本召喚せよ」

 

 おっさん天使の神秘的な力により、『暴食』が反応し注文した料理が現れた。全て熱々で美味しそうだ。『暴食』はあらゆる料理をマナにて召喚できる便利な加護なのだ。請求書は世紀末に来ます。


 分割されたピザをむんずと掴むと、数枚を重ねて口に放り込む。


「まっふぁく、わたひの運もそろそろ変わってもよひのではないか? くそっ!」


 むしゃむしゃとピザを食べて、ワインを瓶ごと飲みながら、苛立ちを露わにしてモニターを映す。


 映し出されたのは、先日のサンクリシャー帝国の武道大会の内容だ。


 ルルイエ島の愚かな人間たちが大会で戦闘をしている様子が映されている。


「うぉぉ、俺の技がコピーされた!」


「ふははは! 通じぬわ! 我こそは世界を支配する皇帝なり!」


 用意してやった魔王5人を多くのルルイエ島の戦士たちがなんとか倒していたが、疲労困憊。その中で島の村長が『傲慢』と『嫉妬』を持った無敵の皇帝の前に膝をついていた。


 皇帝の加護は相手の力をコピーして、なおかつ数倍の力に倍増する。負ける要素は見当たらないのだが………。


「粘るな。そうだそうだ。その加護の弱点は多数相手だと、誰をコピーすればよいかわからなくなること。そして、倍増したパワーに身体が耐えられないので、倍増の時間は極めて短いところだ」


 クククと笑い、良い見物だとおっさん天使は武道大会を眺めながら飯を食べる。


「蜂蜜たっぷりピザとちょこみんとあいしゅひとつ。それとグレープジュースくだしゃい」


「私は特上寿司と純米大吟醸をお願いします。蜂蜜たっぷりピザって美味しいんですか?」


「意外と美味しいでしゅよ。予想外のあまさとピザ生地がマッチングして、タルトみたいでしゅ」


「それはタルトを買えば良いんじゃないですか?」


 なんだか後ろから話し声が聞こえるが気のせいだろう。武道大会は佳境に入っており、ヨグという少年が倒されてしまった父を見て、悲しみながら戦闘をしている。仲間も戦いに加わり、オルフェウスは苦戦を強いられていた。


「ほらほら、頑張らないと、仲間がどんどん倒れていくぞ? そらそら」


 ゲハハハと可笑しそうに笑いながらピザを食べようとして………。なんでか、もう無かったので新たに注文をしておく。


「うぉー、皆で同時攻撃だっ。あいつのコピー能力はひとりにしか通じない!」


「ええっ、わかったわ!」


「よっしゃ、任せろ!」


 ヨグの言葉にぼろぼろの姿の村人たちが強く頷く。


「はぁぁぁ!」


「ば、馬鹿なぁっ、この余の弱点を見抜くとはァァ」


「このケーキ詰め合わせはおもちかえりでお願いしましゅ」


 そして、全員で闘気波を放ち、オルフェウスはその攻撃に耐えきることができずに、光の中で消滅するのだった。


 ぼろぼろになって勝利したことにより、皆が駆け寄りやったなと喜ぶ。その感動的な光景に、おっさん天使はクックと嘲笑う。


「感動的ではないか。喜ばしいハッピーエンド。彼らはこの先の私との戦闘にも勝てると、根拠なき想像をしているであろう」


 邪神などには負けないと、刀を掲げて宣言するヨグ。これが小説や漫画ならハッピーエンドだったかもしれない。


「だが、私はハッピーエンドは嫌いなのだよ。それに神の領域に手を伸ばす人間を許すわけにはいかんのだよ」


 なぜか空になっているワインをもう一本注文して、顔を顰める。


「それに………まさか国々と大同盟を結ぶことも許せぬ。人類の間引きのために作った魔溜まりが簡単に破壊されるようになっては困るのだよ」


 武道大会で勝ったのは良い。予定通りだし、良い見物だ。だが、大同盟を結んだのは困る。


「予定では、既にルルイエ島のゲーム国と、他国との戦争が発生。大戦争となり多くの人々が死んでいるはずだったのに……愚かな。平和的に行動しようなど………」


 古来より大きすぎる力を持った者は、力に溺れない理性ある者でも、大きな波紋を生み出す。人類全てが理性的なわけではない。


 勝手に危険視をして暗躍をする者や、たんに利益のためだけに戦争を引き起こす者はいくらでもいる。


 それは王や皇帝だけではない。権力を持ったわかりやすい悪人や、貴族たちだけでなく、武器や食糧を売る商人、運搬することを仕事とする者たち、果ては軍についてくる娼婦などなど、数えたらきりがない。


 全ては大いなるうねりの中に存在する小さな波紋ではあるが、その波紋をすこしつついてやれば、勝手に騒乱が起きるのだ。


 特にゲームチートなどという、基本的な技術も理論も存在しない力ならば、その波紋は無視できるものではないはずだった。


 それが、なぜかガルドン王国とゴライアスとの戦争はあっさりと終わり、被害はほとんど出なかった。


「人口推移オープン」


 現在の状況を映し出し、この世界の人口を確認する。過去はほぼ横ばいであり、ほとんど増えることはなかったのに、少しだけ増えていた。


 それはヨグが本格的に外で活動をし始めたことと繫がっている。


 今はほとんど誤差レベルであり、気にする内容ではないが………。


「人口爆発が起きる可能性がある。その可能性が『海洋大同盟』……」


 ある時点を境にして、急激に人口は右肩上がりとなっている。その先にあるのは土地不足に食糧飢饉。そして、大戦争。


「いや、大戦争が起きるならば、まだ良い。人口が減少するからな。問題は………平和に未来が推移して、宇宙へと旅立とうとすること!」


 その時間は500年ほど。あまりにも時間が足りない。


 ガンと床に拳を叩きつけて唸る。


「まずい、まずいぞ。………宇宙など作っておらんっ! 宇宙に旅だったら、すぐに行き止まりになることに気づくだろう。その場合………」


 ゴクリと息を呑み、手が震える。


「創造をサボっていたことがバレてしまう! この星だけ作っておけばバレないと思ってたのに! たった500年で数億の星を作れるかっ! 管理している世界は未だに中世を超えることはなく、順調ですと報告していたのに、虚偽であったのがばれるっ!」


 減俸必至。降格される未来。カプセルベッドで寝て、意識を異世界に送り、アバターで気ままに無双ハーレムをして楽しんでいたのがバレてしまう。


 それは考える限り、最悪なパターンであった。正直、想像もしたくない。


「だいたい、一人でやれというのが無理な話なんだ。管理費から雇えば良いというが、主はわかっていない。こんな小さな量産世界にくる美女や美少女などいるわけがないのだ」


 おっさん天使の応募要項。


『未経験者歓迎、上司との二人きりの創造のアットホームな仕事場です。社員旅行あり。条件は変装や変身無しで美女や美少女であること』


 とってもわかりやすい応募基準だったのに、誰も面接に来なかった。いや、よぼよぼの山姥みたいな婆さんならきた。一次面接で落としておいた。


「ふふふふ………こうなったら仕方ない。魔王を許される限り量産して、一気にルルイエ島を滅ぼす。私が裏から力を送りこめば、魔王は魔神とも言える力を発揮する。ククク、完璧だ!」


 ふへへと笑ってモニターを叩くおっさん天使。


「世界の管理者に逆らったことを悔やむが良い。ウハハハ」


 高笑いをするおっさん天使。


 そしてモニターには次々と魔王が創造されていく様子が映し出されるのであった。


 もう一つのモニターに映る青き星。その周りには太陽系程度の宇宙しか作られていなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何もしてないのに壊れた(ガチ この世界はもうゲームで完全制圧して支配権を譲った方が良くない?ゲームパワーで宇宙編も作ろう!
[気になる点] >誰も面接に来なかった。いや、よぼよぼの山姥みたいな婆さんならきた。一次面接で落としておいた。  そのお婆さんは聖母とか名乗って、妹達に美人のお姉さんと可愛い女の子がいるけど、それぞ…
[一言] 思考がだいぶおかしいな。既に手遅れぽいね。
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