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7話 艦隊を作ろう

「あの……閣下?」


「なにかな?」


「なぜ、皆さんは感動しないのでしょうか?」


「ハンター業に忙しいからかな?」


 僕はそよそよとそよ風を吹く中で、フワァとあくびをして眼下の様子に目を向ける。


 農業区画として作った場所に、畦道をのんびりと歩いてくる鍬を担いだ一人の男性が、雑草が繁茂する平原に鍬を振り下ろす。  


 ザクッザクッと音をたてて、雑草を掘り返し、畑を作っていく。とはいえ、たった一人だ。端っこから始めているが、その範囲はほんの僅か。


 耕すには数年はかかるに違いない。しかも、耕したあとでも、正常に作物が育つのは3年とか時間が必要だと僕は教わっていた。


 男性は汗だくとなって鍬を振り下ろすこと十分。


「ふぅ〜、疲れた」


 額にかいた汗を拭い、男性は鍬を担ぐ。


「明日は種まきだな」


 満足そうに耕した畑を見て、家に去っていくのであった。


 たった10分だけで、畑は完成していた。見渡す限り草原だったのに、雑草は根本からなくなり、石ころなどは取り除かれて、立派な畝が伸びている。


 草原は消えて、とても立派な畑ができていたのである。


「端っこを耕していたのに、侵食するように草原が畑に変わっちゃった!」


 耕した場所がどんどん草原に広がっていき、畑に変わってしまったのだ。


 何度見ても不思議な光景だ。畑ってこんなに簡単に耕せるんだっけ?


「そうですよ! そうなんです! こんな楽々な農業システムなのに、あの人たちはなぜ農業を始めないんですか!」


 耳元で叫ぶルフさん。まったく納得していない様子で、頬をぷっくりと膨らませている。


「たった10分ですよ! 10分! 普通なら、『ザクッザクッ。え、こんなに簡単に畑ができた。す、すげぇ〜』とか驚いて、感動して大地に伏してもおかしくないんです」


 遂に擬音を口にして、カクカクと両手を振って、謎の踊りを見せてくれるルフさん。最後に地面にダイブして土まみれになって、僕に抗議してくる。泥だらけになっても演技をするのは感心しちゃうよ。


 ……うん、だってねぇ……。わかっているよ? 


「この農業はたぶん普通よりも少しだけ簡単なんだよね? でも、皆は修行がしたいんだ。ご先祖曰く『働いたら戦闘民族は負けでゴザル』」


「くっ、このニート戦闘民族め……。先祖の『転生者』は絶対に面白がって、へんてこな教育内容にしたに違いありません。うわぁ〜ん!」


 まぁまぁと、泣いてしまうルフさんを慰めつつ、広がる田畑を見て嬉しくなってしまう。


 田畑の先には小さいけど牧場があり、樵小屋や製材所も森林に見える。道が伸びて村まで繋がっている。村には、大工工房から大工さんが家を建てるのにお出かけしていて、木の小屋が宮殿を中心に建てられていた。


 随分僕の王国も大きくなったものだ。


 まだ一ヶ月しか経過していないけどね。今の島はこんな感じだ。


『ルフ島』

ルルイエ王国

資金105億1678万TP

毎月維持費:622万5千TP

多種鉱石埋蔵量99999999

レベル15/999

土壌レベル15/999

魔汚染レベル96/100

人口5000人

設置施設

豪族宮殿、TP変換神殿、樵小屋、製材所、大工工房、酒場


 たった一ヶ月で僕の王国は大きくなった。増えた資金はマナタイトゴーレムとストーンゴーレムを変換したからだ。これだけ立派になって満足です。あとはのんびりと修行だけをしていれば……。


「ジーっ。ジーっ。またろくでもないことを考えていませんか?」


「のんびりと修行をしていれば良いかなぁって思ってました!」


「隠して! 素直に答えないでっ! 私に優しさをください! 本音を語らないでくださいっ!」


 擬音まで口にして、僕を涙目で睨んでくるので、素直に答えたら怒られちゃった。


 たしかにたくさんの施設がまだ建設できそうなんだけど………全部グレーアウトしているんだよね。なぜなのかな。


「人口もピッタリ5千人で止まったし、他の施設は作れない。なんでなの?」


 不思議だねと、ルフさんに問いかけると、土埃をはたき落としながら、こほんと咳払いをしてきた。どうやらその問いかけを待っていたらしい。


「それはですね、『製鉄技術』がないからです! 製鉄技術がないために、発展は止められているのですよ」


 ビシリと僕に指を突きつけてきて、ふふふと笑う。


「ほほぉ〜、製鉄って知ってるよ。温めて溶かして固めるんでしょ?」


「ザクッとしたチョコレートの作り方の説明ありがとうございます。そのとおりです。ですが、この『アースワールドⅦ』では、孤島から始まった場合、他国との交流で、手に入るというシステムとなっています」


 ルフさんの答えは意外だった。なんと他国との交流かぁ。僕、他の国とか見たことないんだけど。昔に何回か外に行った人も何もなかったって、海だけだよって帰ってきた。


 たぶん僕らが物凄い辺境にいるからだろうと思われる。船がないと、流石にお腹が空くから、数日しか移動できないのがネックだと思う。


「そうか、今は木があるから船が作れるんだ! ということは日本に行ける?」


 忘れてたや。これなら日本に行けるだろう。どうやって……これか。


 アイコン一覧を確認して、目的のアイコンを見つける。1億TP『港レベル10』と1億TP『船ドッグレベル10』だ。


 ルフ島は切り立った不自然な湾口がある。海底までが深くできており、まさに港にするのに絶好の場所だ。


「閣下、1億TP『軍学校レベル10』と1億TP『兵舎レベル10』も設立をお願いします。これにより士官も作れて、艦隊を操作できます」


「はぁい」


 ペペイとアイコンを選択して、建設していく。村にはいた仲間が突然現れた施設にびっくりしてる。湾口にも石造りの港が作られて船ドッグが少し離れた場所に建てられた。


 なんか楽しくなってきた。これで船を作れば終わりかな? 船ドッグを選ぶと作れる船が絵付きで表示された。表示されたのは手漕きの船が限界だ。


「お待ちください、閣下。船を建設する必要はありません。ボーナスダウンロードコンテンツを選びましょう。100億TPで購入できます」


『100億TP精霊艦隊』


 おぉ、こんなのあったね。


「この艦隊はダウンロードコンテンツだけあって建造不可のチート船です。これを建造すればとりあえず、遠洋航海が可能となるでしょう」


「はぁい」


 ポチリと押下すると、港にザザンと水しぶきをあげて、何か金属製の船が5隻も落ちてきた。浜辺で遊んでいた子供たちが、突然現れた船を見て騒ぎ始める。


 かなりの大きさの艦だ。知ってるよ、あれは戦艦だよね!


「あれは大和でしょ!」


「いえ、波動砲はついていません。あれは精霊の力を利用した中型精霊艦です。さ、港まで行きましょうか。早くしないと、戦闘民族が玩具だと思って壊そうとするはずです」


「父さんたちはそこまで見境なしじゃないよ!」


 背中に飛び乗ってくるルフさんに、抗議をしながら地面を蹴る。一歩で空高くまで飛び上がり、港まで落下していく。


「よっと」


『空歩』


 闘気を板状に変えると、踏み台として空を駆ける。あっという間に艦隊が停泊している埠頭に辿り着き、その全容が目に入る。


「全長150メートル、200名の乗員可能のマナタイト製精霊艦です。前部に精霊三連装戦艦砲、後部に追尾式精霊投槍18門、氷結機関砲40門搭載。100センチ装甲に精霊障壁搭載。最大180ノットで移動できる超高性能艦ですね。名前はご自由に付けられます」


「何か凄い性能なのはわかったよ!」


 流線型の美しい艦だ。船体の色は海のように蒼い。たしかに強そうだ。ルフさんの話を聞くに、ダウンロードコンテンツとかいうのは、現在の保有戦力を大幅に上回るものを作れるんだろうね。


「これならばマナタイトゴーレムと互角に戦えるはずです」


 ふむふむ。一般的な魔物と互角に戦えると。そこそこ強い戦艦なんだね。


 トッと埠頭に降り立つと、シュリたちも集まっていた。ほほぉ〜と戦艦を見て、珍しそうにペタペタ触ってる。


 僕に気付いて、ワクワクした顔で父さんが声をかけてくる。


「なぁ、ヨグ? これどれぐらい硬いか殴ってみても良いか?」


 前言撤回。僕の仲間は見境なしだった。


 ルフさんが、どうです、私の言ったとおりでしょうと、後ろでニヤニヤとしているのがわかる。反論できないや。


「でも、これはいったい何? 大和?」


「戦艦は皆大和だと思わないでください。これは精霊艦隊。右から『プリンセスルフ』、『グレートルフ』フギャッ」


 シュリの問いかけにルフさんが答えるので、背中から落としておく。名前は後で決めると言ったでしょ。


「名前は後で決めるんだけど、この船に乗って、外海に行く予定なんだ。他の国と交流したいしね」


「ついでに作物も売りにいきます。TP変換するなら魔石が良いので、作物を売ったお金で魔石を買い込みましょう」


 おぉ、なんか国っぽいね! 何かワクワクしてきた。


「作物はたくさん採れているから、ちょうど良いね!」


 何しろ『開墾』、『種まき』、『育成』、『収穫』の4日で収穫できるものがあるし、さすがに食べきれない量が山となっている。


 画面では20万人分の小麦や米、じゃが芋やトマトにきゅうりなどなどが保管してあると表示されているのだ。少しくらい売っても良いだろう。


 ちなみに宮殿の倉庫に収めてあるはずだけど、倉庫は空っぽで作物は腐らない。出すときは倉庫で祈れば出てきます。


「外に行けるのか! ……遂に日本か……」

「おぉ……強敵がたくさんいるんだよな」

「毎週国が滅ぶ敵が出るらしい」


 嬉しそうに皆が騒ぎ始める。屈伸を始めたり、今にも艦に飛び乗ろうとしている人たちもいるぐらいだ。


 しかし、そうはさせじと艦隊の前に立ちはだかるルフさん。


「ストーップ! 戦闘民族の諸君、精霊艦隊に乗せるには条件があるのですっ!」


「む? なんだそりゃ?」


「むちゃくちゃに、こほん。『軍学校』を卒業しなければ艦隊には所属できないのです! 乗組員も育てないといけないので、出港まで一ヶ月、それまでに卒業試験をクリアしたものだけが士官として艦隊に配属されます!」


 フハハとどこかの悪役幹部のように高笑いをするルフさん。その自信満々な態度に、皆が怪訝な顔になる。


「そもそも海軍というのはエリートの集まり! 脳筋では戦艦には搭乗できないのです! 貴方たちがこの試練を乗り得ることを、自分は切に願います」


「良いじゃねぇか! それじゃ一ヶ月後に正式に搭乗してみせるぜ!」


 頭を下げて、皆へと語るルフさんの口元が邪悪に歪んでいるのに気づかずに、父さんたちは軍学校に入学するのであった。


………そして一ヶ月後。


 合格者は僕だけだった。


 皆の敗因はテスト直前に現れたレアモンスターを倒しに行っちゃったせいだろう。レアモンスターはいなくてデマだったけどね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 【悲報】マナタイトゴーレムさん一般的な魔物扱いされる ここまで脳筋過ぎる主人公がいただろうか(´ω`)
[一言] 船の名前はクトゥルフにします!
[一言] 酒場のハンバーガーは犠牲になったのだ…
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