68話 2つの加護持ちと戦おう
神の加護を受けたオルフェウスさん。その力はたしかに強大なものだった。
「フハハハ、余の戦闘力は倍々になっていく。貴様はついてこれるかな?」
「よし、どちらがパワーで勝てるか勝負だな!」
父さんが楽しそうに外包する力を解放していく。
「閣下、そこは内包する、です。新語を作らないでくださいよ!」
「だって父さんの力の殆どは外なる世界においてるから仕方ないんだ」
「常々思ってたんですけど、閣下たちの本体って、ここにいないですよね?」
「そんなわけないでしょ。僕たちは人間だよ?」
「ソウデスネ、ニンゲンデシタネ」
なぜか片言になるルフさん。どうしてそんな変なことを言うんだろ?
僕たちが話し合っている最中でも、二人の闘気は膨れ上がっていく。
そして、観客は暇そうにしている。だって二人とも不可視の闘気を高めているからね。
「二人とも、うぉぉぉうぉぉぉって、叫ぶだけでつまんないでりゅ」
「とーふをたかめているんでしゅよ」
今夜は湯豆腐かな? とーふじゃなくて、闘気だよねむちゃん。それとよーこちゃんのセリフは地味に傷つくから、お口チャックね。
「叫ぶだけではなく、大地も揺れてますが!?」
「たぶん地震だよ。うちの国も結構地震が多いからわかるんだ」
レーナ王女か揺れが始まったので慌てるけど、地震だよ。日本も地震国と呼ばれているらしいけど、ルルイエ島もそうなんだ。
「でも、相手の戦闘力をコピーして、倍々になるなんて凄い加護ね。初めて見る能力だわっ」
「僕たちの固有スキルでも、そういう人っていなかったもんね」
シュリの言うとおりだ。それは最強の力になるんだろうけど………。
「その倍増する力って、どこからくるの?」
うぉぉぉうぉぉぉと皇帝陛下と父さんが叫んで、観客が戦えよと文句を言い始めるのを見ながらルフさんに尋ねる。
「そんなの決まってるじゃないですか。神から供給されているんですよ。加護を与えた人物からとなりますね」
キョトンとした顔でルフさんはあっさりと答えてくれた。そっか、とすると神はもっと強いんだね。
「神様と戦ってみたいなぁ。きっと強いんだろうね」
「そうね。もっと修行をしないといけないけど、今回の武道大会であたしもパワーアップしたし、もっともっと修行すれば強くなれるわっ!」
「だね! 僕もピンチに陥ったから昨日より20倍くらい強くなったし、これからも頑張ろう!」
「パワーアップの倍率がおかしいです」
ルフさんがジト目でため息を吐く。
「せめて、髪を金色にしてからパワーアップしてください。それとそこの幼女、戦えましゅよとか言わないように。まずは7罪の加護持ちを撃破後に自称神と戦うんです」
テンプレなんですよと、どこからかかき氷を取り出して、空間を開いているねむちゃんに手渡すルフさん。ねむちゃんはかき氷を喜んで食べ始めて頭がキーンとなっていた。
「こいつ、こやつっ! どこまで戦闘力が高められるんだ?」
「いや、これ以上はつまらないからやめておくぜ」
なぜか怯えた顔になる皇帝陛下がパワーアップしている中で、父さんはつまらさそうに途中で止める。
「見た目のパワーアップはもういらん」
「は、ははっ、そうだろう、もう限界だったのだろう! それでは、貴様の戦闘力の3倍で戦ってやろう!」
心底安心したような顔になり、皇帝陛下が拳を構える。騎士鎧はパワーアップしている中でも壊れていないから、とても頑丈みたい。
手甲がキラリと光り、不敵な笑みへと戻る皇帝陛下。その額はダラダラと汗をかいているけど、暑いのかな?
「では、余の力の片鱗を見せよう!」
『鶏解体拳』
皇帝陛下が手のひらに力を溜めると、一気に踏み込む。地面がすり鉢状に一瞬で陥没して、皇帝陛下は父さんへと肉薄する。
父さんは裏拳で軽く皇帝陛下の拳をパリングする。だが、皇帝陛下は右脚を支点に切り返して、アッパーを繰り出す。
その力は弱く速度重視だ。躱されることを想定して次なる攻撃に繋げるフェイントだった。
パシッ
だが、父さんはアッパーを手のひらで受け止めて肩からタックルで入る。
「ぐおっ!?」
皇帝陛下はその衝撃を受けて身体が空中に浮く。その隙を逃さずに、食い込むような蹴りを父さんは放つ。
すぐに腕をクロスして防ぐ皇帝陛下。反撃に移ろうと目を光らせるが、目の前には既に父さんはいない。
一瞬で転移したかのように、皇帝陛下の後ろへと移動した父さんがソバットを決める。
「ぎゃぁぁぁっ」
悲鳴をあげて、皇帝陛下は飛んでいき、壁へと勢いよくめり込んだ。
「うぉぉぉ、すげえ!」
「まるで見えないわ」
「なんだあの動き!」
観客は地に足をつけて、首をコキリと鳴らす余裕の父さんに対して驚愕の歓声をあげる。
同様に僕たちも驚いていた。
「皇帝陛下の拳を見た?」
「ええっ、信じられないわ……」
シュリと顔を見合わせて、ゴクリとつばを飲み込む。
「まるで体術ができていないよ!」
「まるで体術ができていないわねっ!」
「そりゃ、あの加護は知識系統の加護ではないですからね。知識系統は『強欲』ですが、あれって人気あるので転売ヤーが買い占めて手に入らないんですよね〜。たぶん自称神は買えなかったんですよ」
ポリポリとポップコーンを食べながらルフさんが感想を言う。だからルフさんは7罪の時に強欲だけ口にしなかったのか。
「転売ヤー?」
「えぇ、結構儲かるんです。私も常に3個は確保してます」
なるほど、ルフさんは持っているらしい。
なるほど………?
「ルフさん、あの人に強欲を付けてあげて! あれじゃつまらないよ!」
「そうよっ! あれじゃ子供の駄々っ子パンチの方がマシよっ!」
「なんで戦闘民族はいつもいつもナメプになるんですか! なめこの仲間ですかっ! 倒せる時に倒しましょうよ!」
僕たちのお願いに、ルフさんが断固拒否とポップコーンを貪る。
でも………。
「うぉぉぉ、これならどうだ!」
『闘気砲』
壁から飛び出してきた皇帝陛下が、連続でエネルギー波を放つ。ボッと音がして、手のひらから強力な光線が放たれるが、父さんは人差し指を光に向けて受け止める。
そしてエネルギー波はシュルルと父さんの人差し指に吸収されていった。
「ほら! 父さんは敵の波長に合わせてエネルギーを吸収する技が得意なんだ。命中するギリギリまで常に波長を変えないと通じないよ!」
ルフさんの肩を揺さぶってお願いする。全然つまんないよ、これじゃ!
「ば、ばかなっ! この身体は18万以上の戦闘力を持っているはず! なぜ力が出ないっ!」
皇帝陛下は自分の手のひらを見て、わなわなと震えている。
「ほら、身体を奪ったカエルみたいな間抜けなセリフも吐き始めたわよっ! これじゃ観客もがっかりでしょー」
シュリも同意してルフさんにお願いしてくれる。
「ちょっとレーナ王女たちに聞こえるじゃないですか! 私が『色欲』の力で記憶操作していなければ大変なことになってますよ!」
ルフさんが嫌そうな顔で返してくる。
「『色欲』も手に入れたの?」
「えぇ、記憶操作の加護は人間にしか使えませんからね。アウターの民に使っても通じないのでつまらないですし、結構便利なので盗んできました」
「あたちが案内しまちた!」
「肉串をあげてお願いしておいたんです」
えっへんと胸をそらすねむちゃん。テヘとちっこい舌を出して悪戯そうな笑みをしている。買収されたらしい。
「そんなことはどうでもいいや。お願いだよ、ルフさん〜」
僕たちが必死になってお願いすると、ルフさんは試合場をちらりと見る。
見ると皇帝陛下がぼこぼこにされていた。速いけど、力任せなので簡単に受け流されて、カウンターのパンチで殴られている。負けは確実だった。確かにこれではつまらない。
「はぁ〜、仕方ないですね。3つの加護を人間に与えるのは危険なんですが、3分程度なら大丈夫でしょう」
ルフさんがホイッと人差し指を振るう。チカッと光って皇帝陛下の動きが変わる。
「むっ!」
繰り出した拳は、足の踏み込みから腰のひねり、腕の振り方までが流れるように行われて、見事に力が込められている。
父さんがパリングを止めて、トンとステップをして回避すると、皇帝陛下はニヤリと笑い摺り足で間合いを詰めて、鎌のように鋭い蹴りを放つ。
「動きが変わったな!」
「ソノトオリダ! セカイノシハイシャノチカラヲオモイシレ」
なぜか片言になっていた。でも、動きは滑らかで鍛えられた動きだ。
二人は演武のように見惚れるような戦闘を続ける。
「すごいや、ルフさん! 皇帝陛下の動きが見違えるように変わったよ!」
「ちょっと今忙しいので、後で褒めてください」
真剣な表情のルフさん。インカムを耳に付けてコントローラーを手に持ってガチャガチャと忙しく指を動かしている。忙しいみたいだから、後で褒めようかな。
「ミヨ、コノチカラヲ」
皇帝陛下が下がった父さんに合わせるように、自身も後ろに下がると両手に闘気を溜めていく。
『超技サイクロンシュート』
両手から竜巻が螺旋のように生まれて、父さんに向かう。地面は削られて、空間が軋む。だが、その暴風は周囲には影響を与えず、完全なる操作をされていた。
『異界防壁』
父さんが竜巻を受けて初めて闘技を使う。混沌の壁が盾となり竜巻を受け止める。みしりみしりと軋む音が響き、押し合うエネルギー。
「おぉ、やるじゃないか。この竜巻、常に波長が変わってやがる」
「ふははは、そうでしょう。ちょっと無理をして使った技です。これはパパの技の真似なので吸収することは不可能です!」
何故かルフさんが得意げに笑うけど、たしかに強い技だし、見たことがない。僕の目でその技を見ても構成が読めずに真似ができない。
「すごいや、これが真の皇帝陛下の力なんだね!」
「てやぁぁぁ」
ルフさんが夢中でボタンを連打しまくって、僕の言葉をスルーしてるので少し寂しいけど、戦闘に集中しないとね。
パリンと混沌の壁が破壊されて、父さんを竜巻が巻き込む。ビシピシと暴風の刃が父さんの肌を傷つけていく。
「それじゃあ、俺からもお返しだっ!」
『異界双烈波』
このままだと負けると感じた父さんが、皇帝陛下の真似をするように両手に闘気を溜めて解き放つ。
空間が歪み、混沌の力が竜巻へとぶち当たる。お互いの力がぶつかり合い、ゴゴゴと世界が震える音がしてくる。
「俺の技で破れないとはなっ!」
「コレシキノコレシキノ、ガーガーピーピー」
だが、打ち合いは力が尽きたのだろうか、突如として皇帝陛下の身体がカクンと折れたことにより終わりを告げた。竜巻はかき消えて、それを見た父さんも闘技を止める。
「ああっ! やはり人間程度の身体では出力に耐えられませんでしたっ!」
「もっと良い素体が必要でしゅね」
「そうですね、ちょっと面白くなってきましたよ。格ゲーって、面白いんですね、食わず嫌いでした」
「あたちもやってみたいでしゅよ」
ルフさんがいい汗かきましたと額の汗を拭い、ねむちゃんがコントローラーをガン見してる。
「しょ、勝者、ルルイエ国王、ラル・トルス・ルルイエ殿っ!」
そうして、父さんの勝利で武道大会は終わるのであった。




