61話 港町奪回作戦
ねむちゃんは『大航海ギルド』の一番のランクだ。昆布採りをたくさん頑張ったので、もうねむちゃんのランクは『ベテラン』である。
なので、平坦なお胸に『べてらん』と書いた名札をつけて、最近はぶいぶいと言っている。お友だちに子豚さんの真似上手だねと言われたくらいぶいぶいと言っている。
ママに作ってもらった名札がお気に入りなねむちゃんは、多くのお友だちと共に一大派閥『昆布採り隊』を結成してそのとっぷなのだ。
そして今、もう一つランクを上げちゃうぞと、新たなるみっしょんにつこうとしていた。
『そろそろ現地に到着しますよねむちゃん』
新型アウターアーマーに搭乗して、シリアスな雰囲気で、ポリポリチョコシリアルを食べていたねむちゃんは通信が入ったので、フッとクールに微笑んで小さな水筒に入れておいたサイダーをクイッと一口呷る。
「たんしゃん、無くなってましゅ」
開けてから暫くたっているから、炭酸ないやとしょんぼりねむちゃんだけど、それでもくーるにしなくちゃと、通信モニターを開く。
精霊技術が開発されたために、今のアウターアーマーは360度全天周囲モニターで、通信も魔導通信が使えるので、モニターにオペレーターしゃんの顔が映るのだ。
『あまりコックピットを汚さないでください、ねむちゃん』
「ちょっと汚れているだけでしゅ。後でおそーじしましゅよ」
コックピットはお菓子の袋や食べカスでちょっと汚れちゃっていた。ちゃんとそーじしましゅよ。とりあえずゴミは白いお部屋のガラスポットに転送しておこう。えいえい。
空間を開いて、すやすやと寝ているおっさんの横にゴミを入れておく。そうするとおっさんが片付けてくれる便利システムなのだ。
あっという間に綺麗になったので、むふーっと胸を張り、良い子でしょとモニターに目を向ける。褒めて褒めて。
『それバレたら後でママさんに怒られますよ?』
「自分のお部屋は、ちゃんとそーじしてるから大丈夫でしゅ。それよりもお仕事のお時間なんでしょ?」
『そうですね。そろそろ目的地に到着します。これを見てください』
ピコンと画面が切り替わる。どこかのちっちゃな港町だ。埠頭は木板だし喫水も浅い。漁港というやつらしい。
『この港町は魔王デカラビア率いるデススターたちに支配されています』
ピコンと再び画面が切り替わると、でっかいヒトデが表示された。ヒトデの真ん中には大きなオメメがついている。
『全長10メートル。多数の魔法を操り空を飛びます。討伐隊が攻撃をすると激しい攻撃にて被害を与えて、追い詰められると海に退却するとのことです。海中に移動された場合、討伐隊は手を出すことができません。配下のデススターも同様です。全長は5メートル程ですが、ミニマムデカラビアといった感じですね』
「今度はヒトデ狩りなんでしゅね! べてらんのあたちにお任せでしゅよ!」
『では、仕事の時間です。お任せします』
「あーい!」
片手をあげて、フンスと答えるとオペレーターしゃんはコクリと頷いて接続を解く。
これから真剣な表情となる。きりりと凛々しい表情になり、お腹が痛いんじゃない? と言われないように真面目な口調になる。
「準備オーケーでしゅ」
とりあえずかっこをつけるため、コンソールをペチペチ叩く。空間を歪曲しているため、見かけよりも遥かにコックピットは大きい。なのでコンソールとかレバーもつけてもらったのだ。ルフしゃんが言うには昔に使われたゲームシステムと言うやつの改造版らしい。
『了解しました。それでは潜水艦を浮上させます』
オペレーターしゃんの言葉に合わせて、ぐらりと揺れる。潜水艦が浮上を始めたのだろう。
外から見ればわかる。なにもない海の波間が膨れ上がり、海中から流線型の潜水艦が浮上を始める。銀色の船体の30メートル級強襲潜水艦『いろはにほへと』だ。
装備は魚雷発射管2門だけしかないが、ステルス性能に優れており、『姿隠』効果を搭載している。浮上後に組み立て式カタパルトを展開することができて、魔導鎧を射出できる強力な潜水艦である。
浮上を終えると、ゴウンと重々しい音がして組み立て式カタパルトが展開される。そして、潜水艦のハッチが開き、白くて四角い物が姿を現した。
『こちらはマホだ。その新型は君の要望どおり一個師団を相手にしても勝てるようにした追加武装パーツだよ。しっかりとその性能を確かめてくれたまえ』
「あい! 任せてくだしゃい!」
モニターに映ったマホしゃんがにやりと悪戯そうに微笑むので、ねむちゃんは安心してねと片手を再びあげちゃう。べてらんに任せてくだしゃい。べてらんでしゅからね、べてらん。
カタパルトが遠く離れた漁港へと向きを変える。ねむちゃんの乗るアウターアーマーがカタパルトに乗る。
カシンと機体がカタパルトに固定されて、射出準備オーケーと表示される。
ふんふんと鼻息荒く、ねむちゃんはオペレーターしゃんへと報告する。
「YC03でんどろねむ、いきまーしゅ!」
『YC03でんどろねむ、どうぞ!』
その言葉とともに、ガコンと機体が急加速する。一気に音速へと突入して、モニターに映る光景が物凄い速さで流れていく。
そして、でんどろねむは空へと飛び立つ。白くて四角い武装パーツは機体から外れて、ぽちゃんと海に落ちていった。
武装パーツでんどろねむは発射3秒で無くなった。
「………落ちちゃった」
あれぇと小首をコテンと傾げちゃう。武装パーツ落ちちゃったよ?
『ぶははは、やっぱり重力下じゃ無理だったか。そうじゃないかと思ってたんだ』
そしてモニターには腹を抱えて爆笑するマホしゃん。なのでほっぺをフグのように膨らませて文句を言う。
「むきゃー! 壊れると思ってたんでしょ! じゅるい、ばいしょーきんをせーきゅーしましゅ!」
『いやいや、君の言うとおりのスペックにしておいたよ。ぷははは。ひー、くるしーっ。請求書はちゃーんとつけておくから、120億TP』
「通信機器不調!」
べしっとコンソールを叩いて通信を切ると、もうでんどろねむは飽きたから記憶から消しておくことにして、真面目な顔でお仕事をすることにする。切り替えのできる良い子なねむちゃんなのだ。
でんどろねむって、なんだっけ? もう覚えてない。幼女は忘れっぽいのだ。
機体というか、魔導鎧は修復を終えており、猛禽のような騎士鎧風で、しっかりと武装も変えてある。前回のようなことはもう起きないし、負けないよと気合十分お尻フリフリとねむちゃんは目前に迫った港町へと目を凝らす。
埠頭はもちろんのこと、家屋や道路にもたくさんのヒトデの化け物がうじゃうじゃいて、少し気持ち悪い。たぶん大きさと紫色が気持ち悪さを齎しているのだろう。
流線型の蒼き魔導鎧は港町に接近する。ねむちゃんはこの機体に名前をつけてないやと思い出しつつ、レバーを握りしめる。
ピピッと、敵の姿を捉えた魔導鎧が次々とロックしていく。ねむちゃんは闘気を機体へと流し込んでいき、エネルギーを巡らせる。
「まずはこれでしゅ」
コンソールを素早く叩き、肩に搭載されているミサイルボックスを開く。魔導鎧の両肩には新たにミサイルボックスを搭載したのだ。
「はっしゃー」
『プラズマクラスター』
闘気がミサイルボックスの中でミサイルの形となると、発射される。その数は10発。紅き粒子を跡に残してミサイルは港町の上空へと飛来していく。
飛来したミサイル群にヒトデたちは気づいたのか、もぞもぞと蠢くがその動きはとても鈍い。
高空からミサイルは鋭角に曲がると、地上へと急降下していく。降下していく中で、ミサイルは何百もの小型ミサイルへと分裂すると、ヒトデたちへと豪雨のように降り注ぐのであった。
命中したミサイル群が大爆発をする。連鎖的にプラズマが爆発していき、港町に超高熱の暴風が吹き荒れる。
「ギィギィ」
ヒトデたちの悲鳴が響く中で、ねむちゃんはもう片方のミサイルボックスへと闘気を送り込む。カタンとミサイルが形成されて、装填完了と表示された。
「続いてはっしゃー!」
ポチッとボタンを押すと、ミサイルが発射される。先程と同様に町へと落下するとプラズマの嵐を巻き起こす。
「せんせー攻撃は成功でしゅね!」
町全体がプラズマ嵐に覆われて、高熱の暴風が機体を撫でる中で、むふふとねむちゃんは微笑む。
これで雑魚は全部倒しただろうと満足ねむちゃんだ。ついでに港町も吹き飛ばしたが、細かいことは幼女なのでわかりません。
「おっとっと」
クイとレバーを引いて、機体を加速させる。プラズマ嵐の中から、極太の光線が飛んできたのだ。
見ると、嵐の中からでっかいヒトデがぼろぼろになって姿を表していた。
「オノレ、ニンゲンメガ! コレホドノチカラヲ!」
デカラビアとかいうやつだ。胴体の真ん中についた目玉が怒りに燃えて、ねむちゃんを睨んでいる。
『デカラビア:レベル50』
敵のレベルが表示される。魔王といっても、そんなに強くはなさそう。
「ワ、ワガナ、我が名はデカラビア! 魔王なり!」
言葉をアジャストしたデカラビアが名乗ってくるので、ねむちゃんも答える。
「ブレイン」
一言答えると左腕に搭載している流線型盾を構える。
『闘気光』
ピピッとレーザーを放つと、デカラビアはくるくると身体を回転させて、空中を飛んでいく。そして、自身を守る障壁を作り出す。
『水王障壁』
膨大なマナを内包させた強力な水の障壁だ。
レーザーはデカラビアの手前に作られた水の障壁にぶつかると波紋を作り防がれてしまう。やっぱりレーザーは駄目でしゅねとねむちゃんはしょんぼりしちゃう。
「その程度の攻撃で魔王たる我を倒せるか」
「それじゃ、今度はこれでしゅ!」
『全力加速』
せせら嗤うデカラビアに対して、ねむちゃんは一気に急加速する。風を切って、デカラビアへと迫ると両手をあげて───。
「うぉぉぉ!」
両肩のミサイルボックスを取り外すと、デカラビアへと思い切り投げつけた。
「グヘッ、ぶ、武装を取り外すとはトリッキーな、ギハッ」
「ウォォォ、うぉぉぉ」
怯むデカラビアへと、ドンドコミサイルボックスを投げつける。なぜ投げ続けることができるかというとだ。
『闘気創造:ミサイルボックス』
闘気でドンドコ創造しているからだ。白くて四角い物は創造するのが得意なねむちゃんなのだ。単なる闘気の塊とも言う。
「ちょ、ちょっと待て、貴様、そんな戦いの仕方で良いと」
「うぉぉぉうぉぉぉ」
なにかをデカラビアが言っているが、楽しくなったねむちゃんは夢中になってミサイルボックスを叩きつける。幼女は一つのことに夢中になると、周りが見えなくなっちゃうのだ。
「これが敵のバリアを打ち破るあたちの新戦法でしゅ!」
「どこが戦法、ゲハァッ」
ミサイルボックスの攻撃を喰らい続けていたデカラビアが耐えきれなくなり、遂に一瞬身体が揺らぎ朦朧となる。
「トドメでしゅね!」
隙ありと、腰に搭載した騎士槍を素早く手に持つ。
『アーバレストチャージ』
そして闘気を送り込み、紅き閃光となってデカラビアの身体を貫くのであった。
デカラビアが地面へと落ちていくのを見て、フッとねむちゃんは微笑む。
「新戦法はいけましゅね! 任務終了!」
燃えゆく港町の上空でねむちゃんはうふふと笑うのであった。
後日プラズマ系統の武器は禁じられた。
解せぬでしゅ。




