6話 住宅地を作ろう
あれから、皆にも声をかけて急いで酒場からハンバーガーとかを持って、お腹を空かせている人たちに配った。
「うぅ……ありがとうございます、素晴らしき神なる陛下……」
「この状況で褒められても全然嬉しくないよ!」
ヘロヘロなのに飢餓状態の人たちは、僕が食べ物を渡すと喜んでくれるけど、お礼として返ってくる言葉がとっても気まずい! 国民を飢餓状態にさせる王様は素晴らしきとかいう枕詞はつかないと思うんだ。
「おぉ、こりゃ美味い、初めて食べたよ!」
「美味しいわ。ハンバーガーっていうの?」
「おいひいね、ママ!」
涙混じりに感激しながら、皆は夢中になってハンバーガーを食べて、ジュースを飲んでいる。
「うぅ……これです、自分の望んでいた光景はこれだったんです。ハンバーガーを食べて感激する人たち」
涙混じりに感激しながら、ルフさんもハンバーガーを食べて、ジュースを飲んでいる。感激の種類が違うと思うんだけど、もうツッコミしきれないや。
とりあえず、気になることがあるので確認しないといけない。ここにいる人々も僕が作ったのだろう。狭いので宮殿からは数十人を残して出て行って貰ってから、ルフさんに顔を向ける。
「で、この人たちは島を作った時に創造されたの?」
「はい、閣下。彼らは忠実なる貴方様の臣下でございます。イージーモードは国民の忠誠度は無し。反乱は絶対に起こしません。常に命令を聞きます。畑を耕せといえば耕し、敵を倒せと言われれば命を懸けて戦い、死ねと言われたら聞こえなかったフリをするでしょう」
なんだか洗脳しているような気がするけど、ゲームという遊びなら、そういうこともあるんだろう。忠実なると言うけど、命令を出さなければ人と変わらないのかな?
というか、気になることがある。
「ねぇ、この人たちをスタックと呼んだけど、人じゃないの?」
「良いところにお気づきになりました。ゲーム的に一つの島では1000スタックが最高です。スタックの意味ですが、そうですね、住人が1001人になっても数は1000スタックなのです。これは画面に人が密集してうざい感じを出さないようにとのシステム設計です」
よく意味がわからないよ? どういう意味なのかな?
「そうですね……では、実際にどうなるかといいますと……あ、ご飯を配給したので移民が発生しました。1051人になってますね。そこの人、閣下に見せてあげてください」
「はい、ルフ様」
ハンバーガーを食べていた男の人が立ち上がると、僕の前に歩いてくる。
「私は今は2人分をスタックしております。増えた住人分が重なっている形です」
『スタック解除』
男の人が呟くと、影から一人の女性が浮かび上がってきた。そうして、僕へと頭を下げると女性は微笑む。
「私はコアたる男性の虚像であり、住人でもあります。これが『スタック』。人格もありますし、生命もあるように見えますが、虚ろなる影なのですわ」
そう告げてくると、女性は影の中へと消えていった。ほへぇ〜……。不思議な生命体だ。群体生物?
「例外として『将軍』などのユニークキャラは一人として数えられますが、住民はこのような形ですね」
なるほどね。簡略化されたシンボル的な存在が住民なんだね。それじゃ、住民が増えていくと、一人が飢餓状態に見えても、実際はたくさんの人が苦しんでいることになるのか……。
「まぁ、あくまでもゲームということです。コアたる者が死なない限り、虚像が死んでも住民が増えれば再び生き返ることができるので問題はありません。なので、気楽に『アースワールドⅦ』をお楽しみください」
「我らは駒として扱いください。所詮はゲームなのです」
にこやかに言ってくるルフさんの笑顔に曇りはない。周りの人たちも同じようにコクコクと頷いている。
なるほど………。わかってきた、この人たちは現実ではなく、チェスやゲームの駒というわけなんだ。生命を持たない紛い物の存在。本人たちもそのことに疑問は持っていない。
食べ物とかは本物だから、あくまでもリアリティ満載のゲーム。そっか……。
皆の様子を見ると、ハンバーガーを食べ終えて、僕を見つめている。老若男女様々な人たちは、現実ではないとはとても思えない。それにさっきはご飯が食べられなくて、苦しんでいたし……。
「コアさんたち? だっけ。僕は皆さんを人として扱います。だからよろしくお願いします!」
フンスと拳を握りしめて、皆へと宣言する。
だからといって、駒となんか扱うことはできないよね! ゲームでも王様になったんだから、皆の幸せを目指すよ!
「陛下……。我らは皆、陛下の忠実なる臣下です!」
虚をつかれたのか、ぽかんと口を開けて唖然とする皆。でも、すぐに僕の周りに集まってきて、何か感動した表情で頭を下げてきた。ちょっと照れちゃいます。
「うぅ………テンプレ、テンプレです。これこそテンプレ。臣下を大切にすることを決意する優しい王様と、それに感激した住民たち」
目頭にハンカチを押さえて、オイオイと泣くルフさん。ちっとも涙は出てないけど。
「たっだいまー。見てみて、ヨグ。こぉんなにストーンゴーレムを倒しちゃった」
「お、なんだこの家?」
「ハラ減った〜。なにかないかぁ?」
「くっ、あの戦闘民族が全てを台無しにしている……。もっと弱ければ、ゴーレムとかのバトルで力を合わせて絆が高まったり、見たことのない食べ物で感動するのに、するのにっ!」
石の残骸を担いで、どやどやとやってくるご機嫌なシュリたちに、ケッと舌打ちするルフさんである。なんとなくだけど、ルフさんの言いたいことがわかる。うん、なんかごめん。
まぁ、バチバチとシュリたちを睨むルフさんは放置して、皆へと宮殿とかの説明をする。新しい住民のこともだよ。
「新しい住民かぁ、まったく構わないぞ、よろしくな」
「ありがとう。我らはストーンゴーレムと戦える力はないのでよろしく」
「おぅ、それじゃ修行あるのみだな!」
ニカリと父さんが笑って、コアさんと握手をする。シュリたちも笑顔なので問題はないらしい。
「止めてください、この人たちはか弱いゲーム人なのです。修行は絶対にさせないでください。閣下も絶対に修行を許可しないでくださいね? ヤスリがけされるように、人口が減っていきますからね?」
父さんたちはあっさりと新たなる住民を歓迎した。早くも修行を勧めて、必死になってルフさんが止めている。修行は駄目なのかなぁ?
「それじゃ新たなる同胞のために、家を建てないとな」
「だね。それじゃ『貴族屋敷』を選択して」
綺麗なお屋敷を選択しようとすると、ルフさんが僕の手に飛びついてきた。
「ストーップ! それを選択しては駄目です。屋敷は1000万しますよね? しかも住めるのは10人ぐらい。住宅はお金がかかるので、住宅区画を作るんです!」
なるほど。ちゃんと住める人数も考えないといけないのか。細かいアイコンとかも読まないと駄目なんだね。
「でも、住宅区画? 家を建てれば良いんじゃないの?」
「その区画内で家屋を建てようとすると、資材の重さがゼロになり、木やコンクリートも乾きやすくもなります。その代わりに住民が建てないといけないのですが、お金がかからないので、貧乏な時はこれ一択ですね。ついでに農業区画も作りましょう。土壌レベルも関係しますが数倍の早さで作物が育ちますし、品質も高くなりますよ」
ふんふん、それじゃ、宮殿の周囲を住民区画にと。この島は結構大きい。僕の住んでいるルルイエ島の3倍はある。色々と作れそうだ。
「宮殿の周囲を住民区画にしたよ!」
「外に出てみましょう。住民区画は黄色のラインで囲まれているはずです」
ルフさんの言葉に従い出てみると、たしかに黄色の光が配置した土地を囲んでいた。この中なら木も乾くと。
「それじゃ、家を建ててあげよっか!」
「お〜!」
皆と共に手をあげて、家を建てることにする。うちの島なら簡単だ。ポイポイと木々を切って椰子の葉を重ねて小屋を作れば良い。
でも、この島は植生が違うんだよね。そういえば気候も違う。熱帯ではなくて、穏やかな気候だ。不思議だなぁ。
「あの黄色の中なら簡単に作れるのよね?」
「うん。この木を切って……建てられるのかなぁ?」
シュリと共に森林へと入っていき、木々を前に迷ってしまう。見事に真っ直ぐに天へと伸びる木々は、うちの島のように細い幹ではない。たぶん杉とかいうやつだ。
「そうね……。これって重ねて作るのかしら? 前に見た教科書だと、こういうのを使った家があったけど難しそう」
シュリも迷った表情だ。僕もよくわからない。
「ふふふふ、そうでしょう、そうでしょう! ゲームチートを見せる時! 『大工工房』を作れば、時間はかかりますが家を建てる大工が」
と思っていたら、後ろからルフさんの得意げな笑い声が聞こえてきた。
「『建築』スキル持ちのおばさんに頼みましょうよ」
「そうだね。おばさんに頼めば一瞬だし」
「しかし、大工が必要なくとも、鋸や木材を運ぶための荷車が」
『闘気剣』
闘気の剣を作ってサクサクと木を切っていく。枝葉を落として丸太にするんだっけ。シュリが僕の切った丸太を纏めて担ぐと、てってと運んでいく。
「うわーん! チート持ち禁止っ! ちょっとは私に活躍させてください! というか、もう少し普通に国造りをしましょうよ! 昨今のチート持ちには一言申したいっ! チートとは本来は禁じられた技だと!」
ルフさんが泣いてしがみついてくるので、苦笑しちゃう。だって、ほとんどのことは自前でできるんだもん。
「それにこのままでは、ニートを量産するだけですよっ! 大工や樵、製材所、鉱山に港、船のドックに施設を繋げる道作り、そして農家や牧場と、たくさん仕事を作らないと無職で困っちゃいますよ。魔汚染を防ぐハンターは……いらないと思いますが」
おぉ、そんなのがあるんだ。なんか大変そう。
「ゲームを楽しみましょう! 立派な王様は失業者を作らないものです。あの人たちはお金がなくなって、また飢餓に困りますよ。仕事を作るのは王様の義務です!」
「え〜っ! それは困るよ。どんどん作っていこう」
さっき誓った言葉だもんね。
ルフさんに促されるままに、ポチポチと施設を作っていく。流れるように施設を建てていく。
たった一日で、ルフ島には様々な施設が生まれることになったのである。