54話 爆破の使徒対謎の騎士
「ブレイン」
突如として現れた騎士は、感情の籠もらない歳経た老人の声で返してきた。
「ブレイン………聞いたことのない名前だ。スルドルの部下の一人か?」
与えられた権能『構成爆破』と『神気』。その力を利用して、スルドルたちの軍勢を丸ごと吹き飛ばそうとしたところ、その構成を破壊された。遠距離攻撃とはいえ、まさか破壊されるとは思いもよらなかった。
権能を与えられた際に、十全に使えるように自身の頭には使用方法が存在している。誤った使い方をしたわけではない。
『構成爆破』は、全ての物質を爆破することができる。スルドルまで神気を伸ばし、発動しようとしていた。
たしかに遠距離構成は、自身の思念と切り離されてしまうので、破壊されやすいと頭ではわかっている。
だが、その構成は人間が簡単に破壊できるものでもないと、権能が囁いていた。
即ち、目の前の謎の騎士は只者ではない。
「私はスルドル王子の配下ではない。悪に操られた哀れな者の存在に気づき姿を現しただけだ」
「悪? 神を悪とは、この不信心者めっ!」
顔を真っ赤にさせて、激昂するゴライアスに、ブレインは肩当てをカシャリと鳴らして、肩をすくめる。
「無辜の民に分相応な力を与える存在が神だと? 自身の考えを他者に任せて行わせようとする者が正しき者だとも?」
「ぬぅぅぅ、神を愚弄する異端者め! 裁きを与えてくれるわっ!」
剣を引き抜き、息を吐き落ち着きを取り戻し、目を鋭くさせる。
「兄上、その神とはどこの者なのですか?」
スルドルが口を挟むので、鼻を鳴らして馬鹿にしたように睨む。
「知らんっ! 全ての神とかなんとか言ってたぞ。信心深い俺に力を与えてくれた神だっ。力を与えるから、正義と秩序を広げて邪魔する者は排除しろと仰られたのだ!」
「それ、騙されてますよっ、兄上! どこに信心深さがあるんですかっ!」
「知らんっ! それよりも……」
ゴライアスは再びスルドルたちを爆破しようと、遠距離での構成爆破を行おうとする。目には見えない神気の回路がスルドルたちへと迫り──。
そしてブレインとかいう騎士が騎士槍を振ると、空間が揺らめき、波に攫われるように回路は断ち切られて、構成は不発に終わる。
「ぬうっ、空間を操る騎士か」
与えられた権能が敵の防御方法を看破して教えてくれる。面倒くさい敵だと伝えてくる。遠距離での爆破は不可能であるということだ。
だが、対応策も同時に与えられて、ニヤリと不敵に嗤う。
「空間振動が来る前に作ればどうなる?」
自身からすぐに構成を編んで、爆破の塊を形成する。ゴライアスの目の前に拳大の光球が生み出された。光球が今度は邪魔されずに作れたことに、権能の伝えてくれることは正しかったと理解する。
「ガハハ! やはりな。それならばこれで終わりだっ」
『爆破球』
片手を振るい、光球を放つ。光球は矢のような速さでブレインへと飛んでいく。
だが、ブレインは細長い盾の下部先端を向けてくる。
「迎撃する」
『闘気光』
紅き光が一条の光線となり、盾の先端から放たれて、光球を貫く。貫かれた光球はバチリと放電すると、大爆発を引き起こした。辺りが逆巻く炎と、吹き荒れる爆風でめちゃくちゃとなる。
「こ、この威力は……極大爆裂魔法!?」
髪が暴風に煽られて、離れていても熱気が肌を熱する中で。スルドルがその余りにも強力な威力に呆然となり、迎撃したブレインは言葉を発する。
「ここは危険だ。全員退却しろ。ここは私に任せて撤退するのだ。早くしろ」
「しかし……この威力を………いえ、お言葉に甘えます。帰ったら、望む通りの報奨を与えると約束しましょう!」
悔しそうに食いしばり、スルドルは躊躇いをみせるが、すぐに踵を返して撤退を叫ぶ。ゴライアスの未知なる力にここは撤退して情報を集めようとでもいうのだろう。
しかし、すぐにこの騎士を倒し ゴライアスは追撃をして殺すと決めている。今の自身の力ならば簡単に追いつけると分かっている。
「なので、貴様にはあっさりと死んでもらおうか!」
ゴライアスの周りに光球が今度は10個も生み出される。全て先程と同じ威力の光球だ。
「ガハハ、この数を防ぎきれるかな?」
「………やってみよう」
勝ち誇るゴライアスに、ブレインはゆっくりと盾を構えて、動揺もなく冷静なる声で返し……。
───戦闘を開始するのであった。
◇
「死ねっ!」
ゴライアスの端的な言葉と共に光球が飛んでくる。ブレインは冷静に足を前に踏み出すと闘気を発する。
『スラスター付与』
闘技を使うと同時に背中に搭載されていたウイングバインダーが展開されて、爆炎が噴き出すと、ブレインは弾丸のように加速して飛び出す。
空中を駆けてくる10個の光球に対して、ステップを踏み横滑りすると盾を向けてレーザーを撃ち出す。
ピッと光線が空を切り裂き、光球を撃ち抜く。大爆発が起こり、爆炎が光球を覆い隠すが、気にせずにブレインはスラスターから炎を吹き出させて、上空へと飛翔する。
爆炎に巻き込まれなかった光球が爆煙の中を貫くように現れて、ブレインを追尾してくる。
「てい」
ブレインは怯むことなく、残りの光球を正確にレーザーで撃ち抜き爆破させながら、スラスターを吹かせて、鋭角に移動して爆炎の向こうにいるゴライアスへと向かう。
「全ての光球を撃ち落としたのか!」
予想外だったのだろうゴライアスが驚きの顔になっているのを気にせずに、さらなる闘技を使う。
『アーバレストチャージ』
騎士槍を構えて、さらなる加速をする。スラスターから自身の背丈を超える炎が吹き出して、ブレインはゴライアスへと風の壁を突き破り、いかなるものをも貫く勢いで突進した。
ゴライアスは動揺で立っているままで、その身体に騎士槍は突き刺さると思われたが……。
「むっ!」
騎士槍はゴライアスの身体に刺さる寸前で白きオーラの壁に阻まれていた。ジリジリと放電して壁は騎士槍を完全に防いでいる。
『神気の衣』
咄嗟にゴライアスが防御障壁を張ったのである。
「ふ、ははは、見たか、神の力を! この障壁にはいかなる攻撃も通じぬわっ!」
さらにゴライアスは剣を横に構えると神気を使う。
『爆炎剣』
剣から炎が吹き出して、炎の大剣へと姿を変える。爆炎の剣を横薙ぎに振るい、ブレインはすぐに飛翔してその攻撃を躱す。
振るわれた爆炎の剣は空間を爆破して扇状に平原を焼き尽くし、大地を吹き飛ばしていく。
ブレインは空中で身体を回転させながらレーザーを放つが、先程と同じように純白の障壁がゴライアスへの攻撃を阻み、虚しく霧散していった。
「効かぬ、通じぬ、不毛であるっ!」
『爆破球』
「今度は20の光球だ。防ぎきれるかな? 俺の攻撃を防ぎながらっ!」
周りに光球を作り出すと、ゴライアスはブレインへと放ちながら、同時に燃え盛る剣を持ち、大地を蹴る。
剣身が伸びる炎の剣を振りかぶり、飛翔するブレインへと肉薄してくると、袈裟斬りに斬りかかってくる。
ブレインも騎士槍にて、迫る炎の剣を受け止めて受け流すが、後ろへと一気に下がっていく。そして、今までいた場所に光球が通り過ぎていき、空中で旋回する。
「勘の良い奴! だが、俺の『爆破球』は貴様を倒すまで永遠に追いかけるぞ!」
「むぅ……」
ゴライアスは爆炎の剣を連続で振るい、ブレインを追い詰めようとしてきて、ブレインは騎士槍でなんとか受け流すが、その間も光球は追尾してくる。
『加速』
ブレインの身体がブレて姿を消すと、一瞬のうちにゴライアスから間合いをとる。すぐさまレーザーを撃って光球を迎撃するが、撃ち落としていく間にもゴライアスは『爆破球』を作り出していき、その数を増やしていく。
「ガハハ! 時間は俺の味方である! こうしている間にも光球は増えていくぞ?」
撃ち落とすのが遅れてしまい、爆発が目の前で発生し、ブレインの鎧が少しだけ歪む。ブレインはスラスターを吹かして横滑りすると、滑らかな動きでレーザーを撃ち、ゴライアスが生み出したばかりの光球を狙い撃つ。
光球は大爆発を起こし、ゴライアスを巻き込むが………。
「あぁ、言っておくが俺に上手く誘導して光球を当てても無駄だそ? 無効だからな」
爆炎の中から傷一つないゴライアスが姿を現して、剣を振るってくる。どうやら光球での攻撃は無意味の模様。
ブレインは後ろにさがりながら、レーザーを撃っていくが、ゴライアスは気にせずに光球を生み出しながら突撃してきて、その障壁はレーザーを受けても揺らぐことがない。
「削りきれぬか……」
ブレインはポツリと呟くと、レーザーを撃つのを止めて、鎧に闘気を流し込むことに集中する。蒼き鎧の色がルビーのように紅くなり、ブレインはスラスターを最大出力で稼働させる。
『全力加速』
くるりと身体を翻すと、突風を巻き起こし、残像すら残さぬ速さで後ろへと後退していく。平原をソニックブームが奔り、高音が鳴り響き、みるみるうちにゴライアスを突き放す。
「逃がすものかっ! 俺の覇道を邪魔する者は死あるのみ!」
狂気にも似た傲慢なる笑みを浮かべて、ゴライアスは光球と共にブレインを追いかけてくる。
しかし速度は圧倒的にブレインの方が速かった。僅か数秒であるが、大きく距離をとったブレインは地面に足をつけて土に大きな溝を作り、急ブレーキをかけて振り返る。
「脳筋だな、ゴライアス」
腰を落として盾の先端を追いかけてくるゴライアスに向ける。盾へと紅き粒子が流れ込んでいき、その先端が二つに分かれる。
「ぬっ、なにを!?」
ゴライアスが慌てて立ち止まろうとするが、既に遅かった。
盾に膨大なエネルギーが流し込まれて、放電を始めて、紅き光が辺りを照らす。
「一直線に追いかけて来たのが貴様の敗因だ」
『紅流塵芥』
二股に分かれた盾の間から紅き光線が発射される。先程の細い光線などではない。発射されると同時に膨れ上がり、その紅光のエネルギーは10メートルは太さがある全てを呑み込むビームとなった。
途上にある大地を触れた瞬間に消滅させて、空気を燃やし、砂埃すら発生させない。
一直線に追いかけていたゴライアス、そして同じく一直線に追尾してきた光球はそのビームの奔流に呑み込まれる。
「う、うぉぉぉ、そんな技がっ!」
強大なエネルギーに呑まれて光球は全て消滅し、ゴライアスは絶叫する。地を一直線に紅きビームが奔っていき、やがて力を失い消えていった。
後に残るのは消滅した半円形の大地の溝と、パチパチと火の粉が舞う空間。──そして膝をつくゴライアスであった。
体から煙を出しているが、まだ傷らしき傷はない。しかしその顔は驚きと動揺で埋め尽くされており、無敵のはずの『神気の衣』は消滅していた。
「お、俺の『神気の衣』が……。無敵なる衣が……」
その呟きを無視して、ブレインは騎士槍を構えてスラスターを吹かせる。
「これで終わりだ」
『アーバレストチャージ』
ブレインが自身を矢と化して、膝をつくゴライアスへと突進する。トドメの一撃がゴライアスを貫くだろうと思われたが──。
接近するブレインへと、動揺を打ち消して、ゴライアスかニヤリと嗤う。
「むっ!」
ブレインはその笑みに嫌な予感を感じた。だが止まることなくさらに加速して勝負を終わらせようとする。
そして、ゴライアスの眼前すれすれに槍が迫り、ゴライアスの身体が光る。
『神気変貌』
ゴライアスの身体を中心に、純白のフィールドが生まれて一気に広がっていく。槍は弾き飛ばされ、ブレインはフィールドに呑み込まれて吹き飛ばされてしまう。
その威力は強大で、まるでボールのように地面を跳ねながら、ブレインは転がって倒れ伏すのであった。
「ガハハ。驚きだ。まさか真の姿を見せるまでに追い詰められるとは。しかし『神気変貌』の際に生み出される強力なエネルギーに巻き込まれては、ただではすまなかったようだな」
騎士槍は折れて、盾も歪み、全身鎧も大きく破損しているブレインはなんとか立ち上がろうとするが、限界が来たのか、片手を地面につけて力を入れようとしても立ち上がることはできなかった。
ゴライアスはその背中から、純白の金属製の翼を生やし、ばさりと広げる。
そこには機械の翼を生やし、全身に回路のような光を巡らせる機械天使が立っていた。
「人の身でよくぞ使徒たるこの俺、憤怒のゴフェッ!」
『流星脚』
そしてセリフを最後まで言えずに吹き飛んだ。ゴスッと地面にめり込んでズササと転がっていく。
「ちょっと何あれ?」
「わからないよ。でも、強敵なのは確かみたいだね」
「むむ、これは強敵の予感です、閣下」
トンッと足を地に着けて、ヨグとシュリ、そしてシュリに担がれたルフが到着するのであった。




