45話 魔導鎧を着よう
フンスフンスと鼻息荒くルフさんは魔導鎧を見せびらかす。とっても嬉しいらしい。
部屋に置かれている西洋鎧は重装鎧という物なのかな。角ばっていて積み木を重ねたようなごつい見かけだ。青い装甲は分厚そうで、硬そうに見えるけど、手足も太くて着たら動きにくそう。
これが魔導鎧というものなんだね。初めてみたや。
「ふふふ、これは自分が頭をひねって、スルメを肴にお酒を飲んでいたら思いついた鎧です。いかにアウターの民が世界を傷つけずに、いえ、危険なる外の世界で、アウターの民が傷つかないようにするために設計したんですよ」
「私たちがルフ様の設計を現実にするために頑張ったんだけど?」
「ありがとう、ルフさん、マホさん。そんなに頑張ってくれたなんて……お礼をしなきゃね!」
えっへんと胸を張るルフさん。その言葉に感激して、僕はルフさんの手を包むように両手で、ぎゅうと握りしめてお礼を言うと、続いてマホさんの手も握りしめて頭を下げてお礼を言う。
たしかに外の世界はとても危険だ。そのために魔導鎧をつくってくれるなんて、優しい人たちだ。
「そうでしょう、そうでしょう。では、説明をよろしくお願いします」
「わかったよ。では説明を始めようか」
ますますルフさんが胸をそらして、得意げになり、マホさんはジト目でルフさんを見てため息を吐くと、僕へと顔を向けて笑みになる。
「これは僕らが儀式魔法で作り上げた鉱石、『マナタイト』を利用しているんだ。知ってのとおり、この鉱石の硬さは折り紙付きさ。で、それに儀式魔法で『魔神封印』をかけたんだ」
「封印? 子供が悪戯した時にお仕置きで封印されるやつだね! 『混沌封印』ってやつと同じかな?」
「お仕置きレベルで使われたくなかったけど、そうだね、そのレベルよりも低位だけど、この魔法を付与すると中から外には出られなくなり、内外両方からの魔法や物理攻撃に高い耐性を持つんだよ」
魔導鎧を人差し指でつつきながら、マホさんは説明を続ける。なぜかそっぽを向いて、汗をかいているけど暑いかなぁ。
「なので、この魔導鎧を着れば、マナタイトの硬さも加わり、だいたいの攻撃は無効化できるだろう」
フッと口角を釣り上げて、薄笑みを浮かべるマホさん。なるほど、外に出ても安全性の高い鎧なんだ。
「欠点は魔導鎧は封印の品物になってるから、空間に固定化されているんだ。だから、操るには中から『闘気』を流し込んで無理矢理動かさないといけないことだね。というか、普通は動かせない」
「あぁ、闘気で糸を作って操ることと同じかな?」
僕は手のひらから闘気を練って白い糸を生み出す。これはとても便利で斬糸から防御の盾、敵の動きを封じたりと色々と使い道があるんだ。糸を操るように闘気を流しこめば良いんだね。僕も『混沌封印』からこっそり出る時に使ってた。すぐにバレてお母さんに怒られちゃうから、いつもは出ないんだけど。
「そのとおりさ。糸を操るように鎧も操ってくれたまえ。問題点は、封印が常に存在を空間に固定化させようとするので、操るのは鉄のインゴットを粘土のように操作するぐらい大変だってことかな。なので普通は動かせない」
「それぐらいなら皆大丈夫だと思うよ。僕は器用な方だけど、それぐらいなら、簡単にできるもん」
「うん、テスターが操作できたので、問題はないのは確認している。普通は動かせないはずなんだけどね」
青の塗装がしてある西洋鎧が、マホさんの言葉を聞いたのか、ガションと手をあげる。そういえば、中には人がいるんだった。
「ただどうしても、闘気で操作するだけだから威力は大幅に下がる。それに中にいる存在は封印の影響で常に100倍の重力を」
「というわけで、安全性は確保されたわけです。これを着てくれれば、搭乗者は無傷となります。テスターさんがそれを教えてくれます。カモンテスター!」
マホさんの前にルフさんが挟むような身体を差し込み、ムフンと指を鳴らす。
ガションと西洋鎧が動き、胸が開き手足も解体するように分かれると中が覗く。真っ暗闇となっており、中の様子は見えないけど、ニュッとちっこい顔が現れると、元気よく手をあげる。
「あい! テストパイロットのねむ・鳩羽でしゅ! バイトして商人の資金ためましゅよ」
ふわふわピンクの髪をした、ぱっちりおめめの可愛らしい顔立ち、ちっこい体の可愛らしい幼女だった。南に住むねむちゃんだった。
「ねむだりゅ!」
「よーこちゃん!」
肩車をしているよーこちゃんが嬉しそうに手を振って、ねむちゃんも満面の笑顔で手を振る。同じ年頃なので、仲が良いみたい。キャッキャッとはしゃいでる。
「テスターとして5歳の幼女が鎧を操れるなら安全性は担保されているといっても過言ではないでしょう」
「たしかにルフさんの言うとおりだね。ねむちゃん、お母さんに許可は貰ったの?」
ドヤドヤ顔になって、ルフさんは傑作ができましたと自慢げだ。でも、ねむちゃんは両親に許してもらったのか気になる。
「うん! 最初にお母さんがこの鎧を着て、あらあらねむの修行にちょうど良いわって、許してくれまちた! ひと狩りしてきなさいって」
「それなら安心だね」
「うん、全然安心じゃない」
シュタッと手をあげて、ふんふんとねむちゃんは元気よく答える。お母さんの許可が貰えたなら大丈夫だね。なんでマホさんは不貞腐れたように机にうつ伏せになるのかな?
「まぁ、何でもいいや。まさかと思ったけど、たしかに必要みたいだから作って良かったよ」
「これを着ればパワーアップするの?」
僕も着てみたい。なんか面白そうだし。どんな性能かと尋ねると、マホさんは胡乱げな顔になる。
「いや、封印による空間固定と硬いだけだよ。後は全部自分の闘気を使ってほしい。ハッチみたいに開くのとかも全部自前だね」
ウィーンガチャンと機械音をたてて、鎧は開閉したけど全部ねむちゃんが行ったらしい。ねむちゃんは器用だね。なるほど、硬いだけでもかっこよいから良いよ。
「というわけで、画期的な強化外装封印魔導鎧ができたのです。名前は……オーラを使ってもマシンではないので没。アウターを核に使うので……単純ですが『アウターアーマー』としましょう」
ルフさんが魔導鎧『アウターアーマー』と名付けて、今後のアウターの民は外ではこれを着て、戦闘をすることが決められたのだった。良かった良かった。
マホさんは既に僕とシュリの分を製作中らしい。ワクワクだね!
「それじゃあ、次は俺だな。大航海ギルドは何をすればいいんだ?」
「認識票を仕舞っておけば、とりあえず良いと思うよ」
「おう! それぐらいなら任せておけ」
以上、大航海ギルド設立終了。物事は簡素化した方が良いんだ。
大航海ギルドと聞いて、ねむちゃんがペチペチと鎧を叩いてアピールする。
「あたち! あたちがギルド員に登録しましゅ!」
「お、それじゃあ、この本に書いてくれ。アウター用の認識票はないから、自分で闘気の波長は決めておくんだぞ?」
「あい、わかりまちた!」
『アウター大全』をルター兄さんが渡すと、ねむちゃんは目を輝かせながら、名前をカキカキと書く。書き終わったら満足して、むふーっと息を吐き嬉しそうにする。
「これでねむは『見習い』スタートだ。しっかりと働いて……なぁ、ヨグ? どんな仕事をするんだ?」
「それは後でにして、魔導鎧を動かしてくれると嬉しいんだけど、お願いできるかな?」
腕を組み首をひねる兄さん。たしかに仕事といっても、思いつくものがここにはない。なので、魔導鎧の起動から見てみたい。
キラキラした目でねむちゃんにお願いすると、エヘヘと微笑んでねむちゃんは片手を魔導鎧に添える。
「それじゃあ、起動シークエンスを見せるでしゅよ」
ぱちぱちと拍手をして、ワクワクと見ていると、ねむちゃんは闘気を練っていく。
「少し純度の高い闘気にしましゅ。白い闘気だと簡単になるから、こんなふうに暗闇に流し込むの」
鎧の中身、暗闇へとねむちゃんが闘気を注ぎ込んでいく。純白の闘気をどんどん流し込んでいくと、暗闇はスゥと白くなっていき、遂には透明のシャボン玉のように変わっちゃった。
「この状態で乗り込みましゅ」
うんせとよじ登り、手足をパタパタと振りながら懸命に入り込む。ようやく鎧の真ん中に立つけどブカブカだ。魔導鎧は全長2メートルちょい。ねむちゃんの背丈は1メートルぐらい。
手足を頑張って伸ばしても、首をのばそうとしても、鎧の胴体部分にすっぽりと全身が入っちゃって、鎧の手足にはちょこんと手や爪先がかかるぐらい。
でも、ねむちゃんは気にせずに純白のオーラを鎧に流し込んでいく。空間が歪み鎧が水面のように波打つと、青い装甲に光の線が無数に奔っていった。
「ふーいんを、あたちのものだよって考えて闘気で侵食させましゅ。そんで、えっと、空間にこてーかされてるから、とやって柔らかくして引き剥がしゅの」
青い全身鎧が淡く輝くと、ねむちゃんはおっきな叫びをあげる。その小柄な身体から闘気が吹き出し、闘技が発動する。
『人機一体』
そうして、不思議なことに鎧の中がマジックミラーのように透明となり、外の様子が分かるようになった。
「『人機一体』でしゅよ。これでこの鎧はあたちの手足同然。思念で考えるだけで、自由に動きましゅ」
鎧が閉まり、ねむちゃんが姿を消す。ガションと重々しい音をたてて、アウターアーマーは動き始めて、すぐに人間のように軽やかで滑らかな動きへと変わった。
「しゅごいでしょ! ただ『覚醒』の影響は受けないし、闘気だけで動くからパワーは着ていると落ちましゅ。でも、防御力は格段にアップしゅるの!」
「うん、凄いや! これなら魔法も防げるんだね! ルフさん、マホさん、これでアウターの民もなんとか外にお出かけできると思う」
手足を振って、踊り始めるアウターアーマー。その鎧の装甲表面は空間が歪んでおり、見るからに硬そうだ。
「ハッハッハ、もうね、よくわからない存在だけど、まぁ、面白いから良いだろ。ちょうど良い枷になると思うよ。おっと変声魔法だけは付与しておこうか。中身がねむちゃんだとバレないようにさ」
「ありがとうございましゅ! 頑張りましゅよ!」
なぜか吹っ切れた顔でマホさんが笑い、ねむちゃんはぴょんぴょんと飛び跳ねて大喜びだ。
「では、お祝いにギルドの仕事を自分が考えますよ。そうですね……『昆布を10キロ採取せよ』で良いでしょうか? 簡単な採取クエストですよ」
「しゅごい! ギルドっぽい! やりまーしゅ!」
ルフさんが優しい顔で紙に依頼票を書いて、ますます喜ぶねむちゃん。なるほど、そういう仕事を出せばいいんだ。勉強になったよ。
「それじゃあ、鎧の準備諸々を終えたらガルドン王国へと出発だね!」
「おーっ!」
掛け声をあげて、僕たちは万全を期し、一ヶ月後にガルドン王国へと向かうのだった。
────一ヶ月間で、ねむちゃんは『一人前』にまで上がっちゃったけど。
「採取クエストをすると、必ず強い魔物がでたんでしゅ!」
なんか大変だったらしい。




