41話 再びの王城に入ろう
宴会はダリさんたちに任せて、僕たちは離宮へ来ていた。離宮の廊下を召使いさんたちが頭を下げて畏まっている中で歩く。
一緒に来たのは、シュリ、ゼノンさん、意次さんだ。
先頭を歩くのはなんとスルドル王子だ。レーナ王女が迎えに来ると思ってたら、少し女性は時間がかかりますのでと、苦笑混じりにスルドル王子が弁解してきた。
きっと船員の服装で迎えに来ようとしたのではなかろうか。なんかそんなイメージがあるんだよね。
でも、それだけではないだろう。予想であるが、聞いてみる。
「スルドル王太子になられたとか。おめでとうございます」
「ありがとうございます、多少国が混乱しておりますので、いち早く王太子の任命式を行うことになったのです」
予想通りだった。王太子が歓迎してますって、アピールのためでもあったんだ。
狐のような細い目で答えてくるが、ゴライアス王子のせいだろう。親子げんかにまでなってしまってるからなぁ。
それに村々を襲っているとか、悪いけど許せない。僕の村も同じ規模だからね。グレートガルドンを倒したことは悪いけど、ちゃんと謝れば良かったのにね。
スルドル王子も僕へと質問があったようで、歩きながら話を続ける。
「先程は………なにをなされていたのでしょうか? やけに人が集まっていましたが」
「僕の国は貿易で最初に得た稼ぎは、一部を使って周りの人たちと宴会をするのです。どうやら村々から逃れた人々が集まっていてようで、かなりの規模になってしまいましたね」
ニコニコと微笑む僕の言葉に、僅かに引きつった顔になるスルドル王子。皆がお腹を空かせていたのだから、新しい慣習を作っちゃったんだ。宴会を埠頭でやるのは迷惑だったかなぁ。
「そのような慣習があったのですね。民草は喜んておりました。感謝を。そして村々を襲っている大逆人ゴライアスは、すぐに討伐をいたします」
「村々を襲った理由はなんでしょうか?」
「ゴライアスは北部辺境を中心とした一部の領土を新王国などと宣言しておりまして。国境線を引くために邪魔な村々を襲ったらしいです。ですが、奴も人の心はあったらしく、死人は出しておりません。村人には退去するようにと命令してから、村々を焼いてるとか。どちらにしても許し難し暴挙ですがね」
「そうなんですか。それは大変ですね、すぐの解決となれば良いと僕もお祈りをしておきます」
スルドル王子がゴライアスさんの行動に呆れたようにため息をつくが、他にも理由があるかもね。
僕は軍学校で色々と勉強したからわかるんだ。これは計略だ。『隣の庭に雑草の種を撒いて荒らす』だったかな。
意味は豊かなる土地に雑草を繁茂させて、荒れ地へと変えるという意味だ。酷い話だけどこの場合、難民が種扱いになっている。
難民が増えれば、仕事もないので難民は犯罪に走る者が増えて治安は悪くなり、食料も足りなくなり、王都やその周辺の街は荒れる。それを治めるために四苦八苦している隙をついて時間を稼ぐか、戦争を仕掛けるかするつもりなのだろう。
この場合、ゴライアスさんは元王太子の立場から、自分がガルドン王国を手に入れようと戦争を仕掛けてくるはず。
たぶん時間稼ぎも理由に入ってる。数年の時間を稼いで軍を集めて、戦争をするつもりなのではなかろうか。
もちろん、僕でも簡単に予想できるんだ。スルドル王子もとっくにお見通しだろうね。
この計略の恐ろしいところは防ごうとしても防げないところだ。難民を街に入れなければ良いけど、自国の民に対してそんなことはできない。
「まったくゴライアスには困ったものです。国境線を引くためなどと……愚かとしか言えませんね」
スルドル王子は表向きの理由を話しているけど、他国には言えないだろうから仕方ない。
とはいえ、ゴライアスさんは軍略に秀でているらしい。自国の村々にそんなことをすると、たとえ国を奪っても国民は支持をしてくれないし、評判は悪くなるけど、たぶん北部の兵力は少ないんだろう。だから、時間稼ぎも含めている計略を使ったんだ。
お城を失い、王都には難民。この国はもしかしたら詰んでたかも。
でも、ゴライアスさんの予想外のことが一つ。
たぶん、僕たちがこんなに大量の貨物を持って訪れるとは思っていなかったはず。僕たちの持ってきた本来は数年分に相当する大量の貨物を売れば、財政難になっているこの国も一気に景気が良くなる。きっとお仕事もたくさん増えるよ。僕たちは毎週20隻ずつで持ってくる予定だし。
そうすれば、ゴライアスさんが時間稼ぎをすればするほど、ガルドン王国側が優位に立っていくだろう。
となると、後は食料かぁ……。ちょうどよい作戦があるかも。皆が笑顔になる作戦だ。
学校で覚えたことを思い出して作戦を練っていたら、謁見の間に到着した。
「到着しました、ヨグ王子殿下」
「はい、案内をして頂き、ありがとうございます」
スルドル王子にお礼を言いつつ、中に入る。一応形だけでも作れたのか、絨毯や旗、玉座とかも用意してあるちゃんとした内装の部屋となっていた。
この間と同じように、僕たちの名前が呼ばれて、てくてくと謁見の間を歩くと、前回とは違って貴族さんたちは3割程しかいない。急に来ちゃったから仕方ない。
僕たちを見る目は様々だ。怯えや警戒、好奇心や好機だというあまり村では見たことがなかった視線だ。村では敵と戦う時は爛々と目を輝かせていたくらいかな。
本来は先触れがあるから、数日は準備などで時間が空くはずだけど、大艦隊で訪れた目的を皆の前で聞きたいのだろう。
ふふふ、今日の僕は頑張って考えているんだ。精神修養で、覚醒できるかもしれないからね。
「おぉ、ヨグ王太子。遥々ルルイエ王国からの訪問、歓迎しようではないか」
しかも、ガルドン国王は玉座に座らずに壇上を降りて、立って待っていた。満面の笑顔だけど、その目は少し緊張を見せている。
「ありがとうございます、ガルドン国王陛下。最新鋭の艦隊がようやく編成を終えたので、練習航海も兼ねて、こちらへとお邪魔しました。突然の訪問になり申し訳ありません。その代わりといってはなんですが、たくさんの貨物を運んできました。倉庫をお借りできれば助かります。貨物を積みすぎて、船員はぎりぎりになったくらいですので」
「友好国となったのだから、まったく問題はない。すぐに倉庫は手配しよう」
僕の言葉に、やや顔を緩めて緊張が和らぐとまわりへと顔を向けて話を続ける。
「皆は少し驚きすぎだ。ヨグ王太子は慈愛に満ちて、誠実な人と成りをしている。これでよくわかったであろう」
その言葉に安堵する人や警戒を解かない人など、いろんな反応が返ってくるけど、総じて重い空気は薄れたと言える。たぶん侵略に来たのではないとわかったからだろう。
「一人、新しい者がいるそうだが、そちらは?」
「この者は第3艦隊の提督、意次・スワンプと申します」
「お初にお目にかかります。ガルドン国王陛下。意次・スワンプと申します。第3艦隊提督といっても、私はこの通りの図体です。文官としてヨグ王子のお手伝いが多少なれどできればとついてまいりました」
「さようか。遥々ガルドン王国までようこそ、スワンプ殿。歓迎しよう」
ニタリと笑い、意次さんは頑張って狸のふりをしてポンと肥えたお腹を叩く。ガルドン国王は意次さんへと笑顔を向けて、その目はギラッと不穏に輝いた。貴族の何人かも同じように目を光らせる。
どうやら、意次さんは狸だよポンポコリン作戦は上手くいきそうだね。
「簡単にではあろうが、ヨグ王子も疲れておろう。これにて謁見は終わりとし、友好を深めるためと応接室にて話そうではないか」
謁見はあっという間に終わり、僕達は再びてくてくと応接室に移動した。他の貴族さんたちが話しかける隙を与えない素早さだった。貴族さんたちの何人かは悔しそうにしていたけどね。
「慌ただしくて申し訳ない。ヨグ王太子たちの艦隊が皆には衝撃だったようでな。無論、私は貿易のための艦だとはわかっていたのだが、雀たちは鳴くことに意味があると固く信じているのだよ」
「私もヨグ様が交易に訪れたと説明したのですが、やはり実際に会わないと信じてくれない貴族は多いのです」
明るく笑顔でガルドン国王が親しさを示し、その隣に座るレーナ王女が悪戯そうに謝罪をしてきて、スルドル王子は黙っていた。侍女さんがことりとジュースをおいて下がる。
僕はもう疲れたので、ジュースを飲みます。その代わりにと、意次さんが主導権をとるように身を乗り出して、頬を弛ませてホッホと笑う。
「皆様のお気持ち、この意次も痛いほどわかりますとも。ですが満載してきた荷物を実際に見れば、すぐにご納得して頂けるでしょう。私からも皆様へと誠意あるお話をしたいと考えます」
お金の話は私にと遠回しに言ってくれる名優意次さん。ガルドン国王たちは僕をちらりと見てきて、よいのだろうかと確認してくるけど、ジュースって美味しいよねと、コクコク飲んでいます。僕の役目はここでジュースを飲むことなんだ。
「では窓口はスワンプ卿で?」
「えぇ、意次卿にお任せします。半分はこの王都を中心に、皆への宣伝も兼ねて商会を置いて売りたいのですがよろしいでしょうか? 商会として人も雇用したいと思います」
スルドル王子が意次さんを観察するように見てから僕に聞いてくるので、コップから口を離して答える。
「積み荷は大量にあります。一時に全てを買い取るのは少し大変かと。いくらあっても金というものは手元に残りませんしな」
「………そうだな。残念ながら我が国は少し厳しい状態だ。わかったヨグ王子。その代わりに関税以外にも商会としての税があること、ご了承頂きたい」
「もちろんです。それらも書面にて契約しましょう」
フフンと意次さんが目を向けると、ガルドン国王は少し躊躇いを見せてから僕に話しかけてくる。もちろん、僕も問題はない。
「わかった。それならば良いであろう」
税金対策はきちんとしないといけないねと、僕は喜んで笑顔になる。
これで地盤が作れるかな。商会をやるとはいっていたけど、どんな商会をするかは───。
秘密だよ。ゲームらしくやるつもりです。




