32話 魔導艦隊を作ろう
トンテンカンと船を作る音がする。
そして、完成した船が進水式をする。
ザバンと海に入って埠頭に移動する。
ルフ島の船ドッグにて作られた船は、埠頭へと停泊する。
所要時間30分で出来上がり。レストランの料理よりも早い船の建造でした。
見かけはモーターボートを大きくした感じ。大きさは全長100メートル。魔鉱石製であり、黒船みたいに船体が黒く塗られている。帆は存在せずに、スクリューもない。船尾に魔法水晶が嵌め込められて、水精霊の力を推進力として進む。
最大90ノットまで出せて、武装は魔導カノン砲が片側40門。両舷合わせて80門が搭載されている。
ハリネズミのような船である。ガレオン船とモーターボートを合体させた感じがしてワクワクする。やっぱり玩具はロマンだよね。玩具じゃないけど、魚とり程度しかできない豆鉄砲なんだ。
その名は『魔導艦ガレオン型』だ。初期の魔導艦らしい。
ヨグは埠頭にて、どんどんと建造される船をルフさんたちと一緒に眺めていた。
ザザンと波頭が埠頭で弾かれて、ギャオーとガレオンアホウドリが空を飛んでいき、キシャーとフライガルドがアホウドリを狙って追いかけていった。その後ろから狩りに出るアウターが飛んでいく。
ほのぼのとした平和な空の下、僕たちはのんびりと新たに作られていく艦隊を珍しそうに見つめている。
「この魔導船を新しい艦隊として使うの?」
「はいミャア。これ以上の武装はまだまだ時期尚早。警戒されるのは、最低限であるべきミャア」
ペレさんの頭に乗っているもふもふなリスターがぴょんぴょんと飛び跳ねて、ルフさんがジト目で口を挟む。
「そうですね。今までの流れだとそうなりますが、毛玉は本当にそんなことを考えてます?」
「……たしかに精霊艦隊でも良いレベルミャン。でも、アウターの民は数が少ないミャア。数は力だから、最終的には押し負け……ることは絶対にないけど、そうしないとゲームとしてつまらないミャン?」
リスターが尻尾をフリフリと答えてくれるけど、ルフさんの困り顔と同じ顔になってる感じがするよ?
「まぁ、たしかにそのとおりなんですよね。ゲームとして遊んで貰えないと、自分の存在価値がなくなりますし、そこは割り切ることにしましょう」
嘆息しつつも、ルフさんは諦めた表情で肩をすくめる。なんだかよくわからないけど、ゲームは楽しまないといけないよね。
30分に一隻が建造されていく中で、ふむんと僕は考え込む。
「一隻につき、200人の乗員が必要なんだよね? 何隻必要かな? 人口は4万人ちょい。たくさん建造しても使える船は少ないから、そこは留意しないと」
「たくさん作れば良いってわけじゃないのね。船って面倒くさいわっ」
シュリが頭の後ろ手にして、つまらなそうに地面を蹴る。本人としてはズラリと艦隊を並べたかったのだろう。
たしかに艦隊がズラリと並ぶのは壮観の一言だ。僕もワクワクしちゃうよ。でも、実際はそこまで多くは建造できない。
「ヨグ様。一隻につき5人のコアが必要。だから、とりあえず100隻建造する」
「えっと2万人も使っちゃうの!? コアさんは500人も?」
ぼんやりとした顔でリスターの背を撫でながら、ペレさんが僕を見てくる。半分以上のコアさんたちを船に配置しちゃって良いのかなぁ?
ルフ島の仕事は大丈夫なのかな? 魔法大学はもちろんのこと、農場や牧場、鉱山、醸造所に魔導製鉄所、魔法大学に船のドッグと他にもたくさんのお店とかがある。
コアさんたちは千人しかいない。手が回らないのでは?
「全然大丈夫です、閣下。現在の必要なコアは30人足らずです。余裕ですね。たぶんぎっしりと施設を作っても200人程度のコアでしょう」
予想以上に少なかった。それだとコアさんたちはいつもは何をしているんだろ? 虚像を使わずに働いているのか。たしかに皆は自分で働くから変だと思ってたけど暇だったからなんだ……。
「一気にTPを稼ぎましょう。100隻に満載すれば、かなりの儲けになりますよ。そうすれば各施設のレベルも島レベルに追いつくことができます。きっとガルドン王国も大喜びするはずです!」
「それは良いね! TPはいつもカツカツだし、それ採用! 砂糖や香辛料類をたくさん持っていけば、きっと皆喜んでくれるよね!」
なぜかウフフフと笑うルフさんのお尻から小悪魔の尻尾がピコピコ振っているように見えるような感じがするけど、こういうのって、エフェクトに凝ってるって言うんだよね、僕知ってるよ!
「王様は破滅を気にせずに浪費するからミャア……。恐れ知らずとはこのことミャア」
「ヨグは常に最善をとるのっ! 効率的な行動が得意なのよ。前にはクラーケンの脚を切るだけで、倒さない養殖の方法を考えたしねっ」
呆れた口調で、リスターはペレの頭の上でころりと転がり、お腹を見せる。シュリがフフンと胸を張り、自慢げにリスターのお腹を無でる。
ミャンミャンとリスターは気持ち良さそうに、手足をパタパタと振って、目を細めて寝そうになる。というか、すよすよと寝ちゃった。可愛らしいペットだよね。
「さて、クラーケンの話は他では話さないと規則に決めることにして、補給基地まで艦隊を率いて行きましょう。そうしましょう。今度は自分も上陸しますよ!」
「むぅ。出港前に艦隊のコアたちにも名前をつけるべき。きっと皆の士気はストップ高。毎日ストップ高で、ヨグ様の株価は鰻登り」
ペレさんが僕の裾をクイクイと引っ張って、むふんと鼻を鳴らす。その瞳には懇願の色が見えるので、なにか必要なことなんだろう。
「なら、皆に名前をつけよう! コアさんたちにね! ネーミングセンスは僕はないから、希望の名前にするよ!」
「さすがはヨグ様! そこに痺れる憧れる!」
バンザーイと、両手をあげて宣言する。名前をつけるくらいたいしたことじゃないしね。ペレさんも珍しくぼんやりとした目を輝かせて、満面の笑みでバンザーイと手をあげた。
「えぇっ! コアの名付けは一大イベントなのに……ぐぬぬ、いちいち規格外。こういうところで規格外なところはほしくなかったです」
ガクリと膝をついて嘆くルフさん。でもあんまり気にしないで良いことだろうと、これまでの経験からわかっているので、スルーして僕はコアさんたちの名付けを行うこととしたのであった。
そして、皆に名付けるイベントを終えて、僕たちは補給基地に向かうことにしたのだった。
艦隊の慣熟航行が必要だったから、三ヶ月後になったけどね。
名付けのイベントは大宴会となって、大騒ぎだったよ。虚像の人たちもなぜか笑顔だったしとっても楽しかったよ。
◇
精霊艦隊はルルイエ島に残しておいて、僕らは魔導艦隊で補給基地に向かう。水平線にズラリと並ぶ大艦隊はかっこいい。
補給基地までは約一週間だ。最高速度で航行しても、やっぱり精霊艦隊よりは遅いけど、揺れる船が航海している感じがして楽しい。
魔鋼鉄製の甲板の上で、潮風に吹かれて靡く銀髪を押さえて、僕は航行する艦隊を見ながら呟く。
「ブリッジがないのは寂しいね。ゼノンさんも寂しくない? 艦長席もないし」
「まぁ、これも楽しくて良いかと思います。潮風を肌で感じることなどブリッジにいるとあまりないですからな」
ダンディーな笑みを浮かべて、制帽に手を添える。ピッシリとした軍服を着て、隙のない立ち方でいかにも艦長という感じ。
操船のメンバーは精霊艦隊と同じだ。ゼノンさんに、ダリさん、ペレさん、幼女オペレーターのよーこちゃんだ。
「父さんも来れば良かったのになぁ」
「なんでこなかったりゅ?」
サマーチェアに寝そべり、パラソルの作る日陰の中でサイダーをクピクピと飲みながらよーこちゃんが尋ねてくる。フリルのついたワンピース型の水着を着て、完全に寛ぎモードだ。
その隣では、同じくサマーチェアに寝そべるペレさんとシュリとルフさん。通信士はほとんどやることがないらしい。
「今はブームが来てるんだ」
「なんのりゅ?」
「変身ブーム」
僕の答えに、ブーッとサイダーを吹き出すのは、サングラスをして黒いビキニを着ているルフさんだった。なぜか顔を引きつらせている。
「あの話、本気にしたんですか!」
「今は第一段階で増幅させるパワー倍率を上げようとしているよ。面白い修行があると、皆は夢中になっちゃうんだよね」
だから、誰もついてこなかったのだ。僕も修行したかったんだけど、冒険心が勝ったんだよ。
「わかりました。無の気持ちでスルーしておきます。えぇ、もはや私は釈迦。悟りを開いたもの、最強の闘士なんです。それよりも補給基地が見えてきましたよ、閣下」
なぜか悟った瞳になったルフさんが立ち上がると、水平線を指差す。その先にはぼんやりとだけど島が見えてきた。補給基地に使用している島だ。
と、僕も喜んで舳先に飛び乗って手を額の前に翳して見るけど、今さら気づいたことがあった。
「艦隊全部を停泊できるかなぁ? 建造系のゲームの力は届かないんだよね?」
「大丈夫ですよ、閣下。『魔法技術』を過小評価してもらっては困ります。ブルドーザーなどの工業機械はまだ作れませんが、それでも魔法の力で作れるものがあるのです」
ドヤ顔である。悟りを得たルフさんは早くもどっかに消えたらしい。胸をアピールするように腕を組んで、説明をしてくれる。
「コアの何人かは既に補給基地に送っておきました。彼らは召喚系統の魔法使い。ストーンゴーレムを作り出して、埠頭を建設中です。そして錬金術士が『水面岩』を作り、防波堤を作成。艦隊が停泊できる基地を既に建造し終えているでしょう」
なんか僕の知らないところで、ルフさんは動いていたみたい。僕がプレイヤーじゃなかったっけ?
まぁ、別に良いけど……。
「ねぇ、その補給基地なんだけど……魔物が押し寄せてきてるよ?」
「へ?」
近づいてくるとわかったけど、なにやらウヨウヨと埠頭に集まっている。どうやらタコさんらしいけど、上半身裸の女の人がタコさんの脚を生やしていた。先端が狼になってる変わってる魔物だ。
「あぁァァ〜! 私がドヤ顔で説明をしようとした補給基地がスキュラに襲われてます!」
はわわと慌てて、甲板を走り回るルフさんが空中にボードを映し出す。
『ルルイエ第一補給基地』
『魔汚染:40/40(スタンピード中)』
どうやら早くも戦闘らしい。魔導艦隊の力を見せる時だね!




