27話 学芸会をやろう
夜空を僕は駆けてゆく。シュリと共に空に闘気の板を作り、足場にして紅き流星のように、眼下に広がる街並みを目におさめながら、グレートガルドンを投げ飛ばした平原へと突き進む。
街では多くの人々が外に出て、どこから轟音が聞こえてきたのかと騒然となっているようだった。それはそうだろう、きっと街の人々は学芸会をやるなんて聞いていなかっただろうから、サプライズになっているんだ。
「見えてきたわよ、ヨグ」
せっかくのドレスのスカートをビリビリ破って動きやすい服装になったシュリが、楽しげに僕を見てくる。
「うん、皆に僕たちも演技ができるところを見せないとね!」
参加型劇というやつなんだから、張りきらないといけない。玩具を相手にするくらいはできるんだよと、僕たちの力を見せないとね!
街の外、ちょっぴり外壁が壊れていて、平原を勢いよく転がったグレートガルドンにより地肌が捲れ上がって赤土が見えている。
グレートガルドンは傷一つ負わなかったようで、ゆっくりと立ち上がるとこちらを正確に見据えてきた。その姿は星空の元でギラリと輝いて山のような大きさは威圧的だ。
『魔怠惰光線』
そして目を光らせると、ビームを放ってくる。閃光が空気を切り裂き、僕たちを焼き尽くさんと接近してくる。
トンと踏み込み、身体を投げ出すように加速して、迫る熱線を躱す。ブワッと熱気が肌に感じられて、その熱さが尋常ではないことを教えてくれる。
ビームは空を切り裂き光の輝線を残して、躱した僕らを追いかけてきた。僕らは追尾するビームを横目に身体を翻して、片手に闘気を収束させる。
「生半可な攻撃じゃ通じないと思うよ!」
「了解よ。あれをやるのねっ!」
「うん、やっちゃおう」
島で倒したマナタイトゴーレムよりも巨大であり、その金属製の身体は簡単にはヒビも入らないだろう。
だけど僕たちはちょうど対ゴーレム用に作った新技がある。ただのエネルギー弾じゃ、表面で弾かれておしまいだ。とはいえ、吹き飛ばす程のエネルギーを溜めるには長い溜め時間が必要。
なので、まずは敵の武器を破壊できる技を考えたんだ。千里の道も一歩から、雨粒は石をも穿つ。
溜めの時間が少なくて、かつ敵にダメージを与えられる技だ。
「はぁぁぁ!」
イメージは螺旋。全てを貫く形態だ。紅きオーラは収束しライフル弾のように流線型となっていく。
『オーラバンカー』
敵の光線が僕たちに当たる前に、投擲するように腕を振りかぶり、狙うはグレートガルドンの目である。
ヒュンと風斬り音が僅かにして、音速の壁を超えて衝撃波を撒き散らし、螺旋に回転する闘気弾はグレートガルドンの目に見事命中した。レーザーアイで追尾していたために、迫る闘気弾を視認できなかった模様。
間抜けな欠点を見事に露わにして、グレートガルドンは大きく顔を仰け反らして瞳に使われていた巨大な宝石が粉くずのようにバラバラになる。
「やったわね!」
「うん、練習した甲斐があったよ」
歓喜の表情で、親指を立てるシュリの笑顔に釣られて、僕も笑みとなる。『オーラバンカー』はたとえ分厚い岩盤の下に隠れていても貫ける恐るべき闘技であった。
とはいえ貫通力は高めていても、一点に力を集めてしまっているので、広範囲を破壊する力はない。あくまでも敵の武装や関節などを破壊するために作り上げたのだ。
予定通りにグレートガルドンはレーザーアイが使えなくなり、狼狽えたように顔を振る。
『まだだ。たかがメインカメラがやられたぐらいで!』
まだまだやる気らしい。機械音声が響くと、胸や肩に小さな光を宿す宝石が装甲が開いて出てくる。そして僕たちを視認できたのか向き直ると、両手を再び向けてきた。
ビカリと指先が光り、またもやレーザー攻撃が繰り返される。地面を溶かし、夜空を切り裂き、なんとかして薙ぎ続けて、命中させようと粘り強い。
僕たちはグレートガルドンの周りを飛び交い、夜の闇の中で舞い踊る妖精のようにひらひらと光線を躱し続けて、オーラバンカーをどんどん撃っていく。
正確無比な狙撃弾は、グレートガルドンの指先に命中して、一本、また一本と破壊していった。爆発音が響くたびに金属片が作り出されて、地面へとチャリチャリと鈴の音のように音を鳴らしながら落ちていく。
遂に最後の指先が破壊されると、グレートガルドンは業を煮やしたかのように、肩をいからせて大往生するかのように四肢を踏ん張ると、その肩から無数のミサイル口が開いていく。
『ショルダァァミサァァイイルゥ』
なんだか人間じみた咆哮をあげて、無数のミサイルが噴煙をあげて肩から発射された。直上に飛んでいくと、クンと直角に曲がって僕たち目掛けて飛んでくる。
「あたしが全部叩き落とすわねっ!」
八重歯を剥いて、凶暴にして楽しげな笑みを浮かべて、シュリがスキルを発動する。
『超加速』
シュリの姿がブレると同時にミサイルが爆発する。見上げれば、瞬間移動のようにシュリがミサイルの真横に現れると蹴りを食い込ませて破壊していた。
音をも超える速度にて、シュリは分身するかのように、飛んでくるミサイル群の中に無数に姿を残して次々と蹴り落としていく。
ドカンドカンと爆発音がして、爆風と炎があとに残るが、シュリには届かず不毛なる結果と終わる。
グレートガルドンはすぐさまミサイル攻撃を諦めて後ろに飛びのくと、再び両手を向けてきた。拳を握り締めて、関節部分から噴炎が噴き出す。
『魔怠惰ロケットパーンチ』
その様子を見てとって、僕らは素早く身体を翻す。予想通りにグレートガルドンの腕が肘から分離して飛んでくる。
かなりの余裕をもって回避したのに、それでも纏う暴風で髪はなびき、服はバタバタとはためく。
しかも空中で旋回をしてきて、絶対に命中させるぞと追尾してきた。
『プラズマブレード』
さらに剥き出しの肘部分から緑に輝く長大なビームブレードを生やすと、グレートガルドンは空を飛ぶパンチと連携をして僕らへと剣を振るう。
実に見事な連携だった。ロケットパンチも肘から生やしたビームブレードも僕たちに致命的な一撃を与えられると考えているはずなのに、牽制とフェイントを使い、逃げ道を塞ぐように詰め将棋をするように追い詰めてきた。
巨大な質量はそれだけで脅威なんだ。掠るだけでも、怪我は負わなくてもロボットの巨岩の如し拳に比べるとたんぽぽの綿毛のように軽い僕らは吹き飛ばされる。体勢が崩れれば、あとは必殺の攻撃をバンバン命中させれば良い。
ゆえに、雑な狙いで速度を重視して、拳もプラズマブレードも繰り出してくる。要はあたれば良いからね。攻撃範囲が大きいから逃げ道を少しずつでも狭めて行けば良いと考えているのだ。
『加速』
キュイと空を擦るかのように踏み出して、残像を残して迫る拳から離れる。躱したロケットパンチは、勢いを減じることなく、噴煙を残して街の外壁に命中しブロックの玩具のように砕いていく。
「アハャァ!」
「に、逃げろ!」
「離れるんだ、速く!」
観客の兵士さんたちが、悲鳴をあげて慌てて壁から離れて逃げていくのが目に入る。参加型はこれだから面白いんだろう。
皆は恐怖の表情を演じて、鬼気迫る顔で必死になって走っているけど、あの程度なら当たってもちょっぴりのたんこぶぐらいですむんじゃないかな。なにしろ強い強いこの国の兵士さんだからね。
『雷神剣』
プラズマブレードを構えたグレートガルドンが回避した僕たちへと狙いすました攻撃を繰り出す。バチバチとプラズマ光が輝き、夜の闇の中で太陽のように辺りを照らす。
巨体ではあるが、その動きは速い。プラズマ嵐が現れたかのように、超高熱の嵐は周囲を燃やし尽くしながら襲いかかってくる。
剣自体も脅威だけど、この攻撃はさすがにまずい。学芸会のレベルの高さがわかるというものだ。やっぱり本物の王国は違うね!
でも、ただプラズマ嵐により服が焼き尽くされる訳にはいかない。
「頑丈なる鉄の棒!」
亜空間倉庫に入れておいたこの間作った刀モドキを取り出すと、僕の闘気を注ぎ込む。刀モドキは灼熱のマグマのように紅く輝き、刀モドキをオーラが纏う。
『闘気刀』
そして、まるで樹木が育つかのように、オーラは刀モドキから伸びていき、新たなる刃となって闘気の刀を作り出していく。
闘気で作る剣身は自由自在。僕の意思に従い、グレートガルドンのプラズマブレードに負けない長さへと伸びていき、その刃はいかなる聖剣、魔剣よりも鋭き切れ味を持たせる。
重さのない闘気刀は50メートルはある長大な剣身を持ち、内包された膨大な闘気力により空間を蜃気楼のように歪める。
「たりゃー!」
そして、迫る雷神剣へとぶつけるために、僕はすぐさま闘気刀を振るう。
カンと剣が打ち合う音ではなく、バチッと爆発音を立てて、お互いの剣がぶつかり合い、プラズマと闘気の衝撃波が生み出されていく。
打ち合いは互角で、バチバチと爆発音が響くたびに、僕とグレートガルドンは剣撃を繰り出していく。
右からの薙ぎ払いを、闘気刀を繰り出して弾くと、左からの連撃に刀を引き戻して下から掬いあげる。諦めずにグレートガルドンは雑な振りで繰り返し攻撃をしてくるが、速度も切り回しも僕の方が速く正確だ。
これだけの大きさの敵だと、振り切る前に攻撃をしても、多少の力の減衰程度では体勢を崩すこともないし、威力もあまり変わらない。
なので、僕はひたすら打ち合い押し勝っていくのみ。
「ヨグ、あのロケットパンチはあたしに任せなさい!」
グレートガルドンが、打ち合いの中で僕を狙おうと空飛ぶロケットパンチを向かわせてこようとするが、シュリがそれを許さない。
身体が紅く輝くと、シュリは『超加速』を使って、闘技にて上乗せすると、カモシカのようなしなやかな脚を構える。
『流星脚』
シュリが特訓していた必殺の技。彼女は流星となり光条が空間を奔る。迫るロケットパンチに激突した瞬間には周囲に軌跡が生まれて、まるで星座を描くように空を駆り、光の幾何学模様を作り出した。
流星の蹴撃が巨大な拳に幾条も刻まれていき、グレートガルドンの拳は先に進むこともできずに、空中で徐々に装甲を削り取られていった。
僕もシュリの援護を信じて、闘気刀に全力を込めて猛然と斬りかかっていく。闘気により底上げされた身体能力から繰り出される刀撃は、もはや風よりも速く、振るう姿もかき消えている。
紅きオーラがフィンフィンと振動音を鳴らして、グレートガルドンのプラズマブレードを弾き返し、一瞬の隙に胴体へも攻撃を命中させていく。
グレートガルドンは不利を悟ったのだろう。プラズマブレードを振るいながら、後ろへとジャンプして、間合いを大きくとっていった。
そして、ガッツポーズをとると胸の装甲を開く。装甲が開かれた中には巨大な宝石が嵌められており、少しずつ光が増してくる。
ピンときちゃった。きっと必殺技だ。と、すると……こちらもチャンス!
「どちらの必殺技が強いか、勝負だ!」
闘気刀を振り上げて、僕はスゥと深呼吸をすると闘気へのイメージを変えていく。
父さんに習ったマナタイトゴーレムを切り裂いた技。
溜め時間が長いし、躱されやすく、超大型の敵にしか使わないようにと強く言われていた絶技。
闘気を変換させていく。鋭く鋭く、なおも鋭く。あらゆるものを切り裂く鋭さを。
強く、強く、世界の理すらにも打ち勝つ強さを。
全てを切り裂く必殺奥義。
「ひっさーつ!」
『空間断絶剣』
闘気刀は天にも昇るほどに長大に伸びて、紙よりも薄く半透明な刀身となる。
天からの断罪の一撃にも見える刀撃を僕は振り下ろした。
対するグレートガルドンもエネルギーの収束を終えて、胸から極太の熱線を放つ。
『魔怠惰プラズマブレイク』
撃ち出される敵の光線は、空気を熱し爆風を生み出し、莫大なエネルギーを伴って僕へと迫ってくる。あの攻撃を食らえば僕もただではすまない。服は燃えて身体には火傷ができちゃうだろう。
僕の振り下ろした刀撃と、グレートガルドンの熱線がぶつかり────。
ピシリと熱線に糸のように細い筋が縦に入った。
熱線は空間ごとずれて、あっさりと散っていき、グレートガルドンの胴体にも軌跡は入っていた。
ズルリとグレートガルドンの胴体がズレる。頭から唐竹割りをされて、綺麗な断面を残し、膨れ上がったエネルギーが胸の宝石から漏れ出して、地面へとズズンと二つに分断された金属塊は転がる。
そしてバチリと放電すると、大爆発を起こして吹き飛ぶのであった。
「参加型は大変だけど、上手くできたかなぁ」
「あれが玩具なんて、世界は広いわねっ」
炎上するグレートガルドンの残骸を見ながらハイタッチをする。
「世界は楽しそうだよね。こんなに歓迎会が凝ってるとは思わなかったよ」
「そうね。まだ数日なのに思い知ったわ」
「これからの航海はきっと楽しいよ!」
やりきった満足感と、これから出会う様々な事を思い浮かべて、僕とシュリは楽しげに笑い合うのであった。
ところで、あの機械音声は大魔法使いのご先祖様にそっくりだったけど、きっと気のせいだよね。




