26話 余興を楽しもう
「ゴライアスお兄様! なんて馬鹿なことをっ!」
「大丈夫だ。既に城内の人員は避難している。ここは一か八かの勝負の時なのだ!」
「当たりがどこにもないです。一も八も外れてますよ! 神器『ガルドンの杖』を返してくださいっ!」
「馬鹿を言え。もう少しヨグ王太子に我が国の力を見せてだな、友好を結ぶのは我が国しかないと」
「馬鹿兄上っ! 馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、本当に馬鹿だったとは!」
レーナ王女ともう一人知らない人がゴライアス王子にしがみつき、マイクを取り返そうと揉み合い始めていた。
きっと学芸会というやつだ。僕も学校でやりたかったんだけど、半年間で小学生から高校までの知識とかいうのを身に着けさせられて、なおかつ礼儀作法とかも学んでいたから、やることはなくて話にしか聞いてないんだよね。
やっぱり本物の国は違う。
僕はシュリと一緒に余興を楽しもうと、ワクワクしながら料理を貰おうと思っていた。こういう余興は炭酸とポップコーンだってルフさんが言ってたんだよね。
周りの人々は、啞然とした顔でヒソヒソと話している。
「あれは500年前からガルドン王国を守ってきた守護神ガルドン。前回は80年前に起動したとの噂ですが……」
「私も初めて見ますぞ。あれだけの巨体が動くとは………なぜガルドン王国が不可侵と呼ばれているのかわかるものです」
「あの神器『ガルドンの杖』を使えば自由に操れるらしいですぞ」
なるほどこの人たちは、モブ役という説明をしてくれる人たちだ。ちゃんと僕たちにわかりやすいように仕込んでくれていた役者さんたちだろう。
レーナ王女たちは必死になって、噛み付くような顔で神器とやらを奪おうとして、ゴライアス王子は奪われまいと、杖を抱え込んで守っている。
そして────。
『バッテリーが尽きます。安全装置が発動しますので、オートモードに移行しない場合はバッテリーを交換するか、ロボットの電源を落としてください』
魔怠惰から声が聞こえて、ゴライアス王子の持つ杖のルビーが点滅をし始めていた。そろそろバッテリーが切れちゃうんだろう。
「待て待て、父上は金に糸目をつけずに華やかなパーティーを、我が国の武がわかるパーティーを開けと仰られた。ならば、ヨグ王太子に見せるは守護神ガルドンの勇姿しかあるまい。俺も見てみたかったしな」
「最後が本音ですよね! すぐにガルドンを元に戻してくださいっ!」
「そうです、これ程の馬鹿だとは思っていませんでした。恥を晒してどうするんですか!」
「この杖は渡さぬ、渡さぬぞ〜、一度使ってみたかったのだ! ヨグ王太子にその力を見せろグレートガルドン、そうだな目を光らせよ、ピカピカと光らせて……んん?」
魔怠惰より、グレートガルドンの方が名前はかっこいいかもと僕たちは眺めていて、ゴライアス王子は首をひねって杖をトントン叩く。
点滅していたルビーが色を失い、ただの石となる。どうやらバッテリーが切れちゃったらしい。新しいバッテリーを用意した方が良いですよと教えてあげた方が良いかな?
「ねぇ、バッテリーが切れるとどうなるのかしら?」
「オートモードって、どんな仕様なんだろ?」
シュリと僕はグレートガルドンを見上げると、その目が黄色だったのが赤色へと変化した。
『バッテリーが無くなったことを確認しました。本機を守る為にオートモードへと移行します。ターゲット『ヨグ』。攻撃を開始します』
わざとらしくガッツポーズをとると、グレートガルドンは僕を見下ろして、一瞬で拳を振り下ろした。
僕たちの頭上に岩山のような拳が落ちる。ドゴンと轟音が鳴り響き地面が大きく揺れて砂煙が吹き上がる。
土塊がバラバラと散らばって、テーブルがひっくり返り、人々の悲鳴が木霊する。慌てて逃げ始める人々と、呆然として死んでしまったヨグを見るレーナ王女たち。
「あぁ……な、なんということを……」
「これは、俺のせいではない。神器のちょ、調子が悪くてな……古い物だから壊れたのだっ!」
土塊が落ちる中で、蒼白の顔となり気絶して倒れ込む国王。もはや大混乱である。
そしてグレートガルドンはといえば、振り下ろした拳にさらに力を込めて押し込もうとしていた。その巨体を傾げて、城の質量を力に変えて、さらなる大穴を作ろうとするが、拳が浮き上がっていく。
逃げなかった腕の立つ者たちは、その様子を見て目を疑う。その拳は尖塔なのだ。重量はドラゴンよりも重く、金属製で持ち上げることは不可能だ。
普通ならば。
だが、その目は不可能だと思われた姿を映していた。
「うぉぉぉぉ」
少年が持ち上がるはずのない拳を持ち上げて、徐々に押し勝っていた。その身体に紅きオーラを纏わせて、食いしばり両手で押し退けている。
「はぁぁぁ」
隣に立っている少女も同じように両手を拳につけて力を込めている。
「とうりゃー!」
気合の言葉で足を踏み込むと、一気に拳を跳ね飛ばす。
グレートガルドンの身体が浮き上がり、拳が大きく後ろへと仰け反る。
「こんなロボットを余興に使うなんて、ガルドン王国は凄い力を持っているね!」
「どれぐらい強いのか試して見ないといけないわ!」
玩具にしても、このロボットは強そうだよ。これと戦っていいということだよね?
でも、これを倒したら周りの人々や家屋が潰れるんじゃないかな? 大騒ぎになりそうだけど、うまくやらないと駄目だよね。
見上げるは城が変形した巨人だ。その力は未知数で内包するエネルギーは生命体でないのでわからない。グレートガルドンは僕たちへと顔を向けて、目をピカピカと光らせる。
『敵の戦闘力を解析します………戦闘力300……1000……3000……8000……12000』
ボンとグレートガルドンの目が爆発し、煙を吹き出してグラリと揺れる。
『解析能力を上回る敵だと判明。最高出力での戦闘を開始します』
どうやら僕の戦闘力とやらを測ってみる凝りっぷりだ。凝ってるなぁ。
余興であるなら倒さなくては白けてしまう。島での宴会でも同じようなことはしたからね。ガォーと大人が魔物のふりをして子供に襲いかかるふりをして、子供に倒されるふりをするんだよね。子供を楽しませるために、大人が宴会の時だけやってくれるんだ。
宴会の時にしかやってくれないのは、地形を元に戻すのが大変なんだ。大穴が開いたり、森林が吹き飛んだりするからね。
きっとグレートガルドンも同じなんだろう。倒さないと、なんで遠慮をするんだと、歓迎会をせっかく開いてくれたのに、がっかりさせちゃうのは不本意だ。
自分の生命力を闘気へと変えて、身体能力を高めていく。細胞の一つ一つを強化して、人間の皮膚を肉を骨をも全てダイヤモンドよりも硬く、スポンジよりも柔軟に、マグマよりも莫大なエネルギーを宿し、拳を掲げて半身となり構えをとる。
「シュリ、余興には応えないといけないと思うんだ」
吐く息は竜の息吹よりも熱く、鋭き視線はいかなる剣よりも鋭い。本気にならないと勝てそうにない雰囲気を感じるんだ。
闘気は隠すつもりだったけど、こんなロボットを余興に使うほどにガルドン王国と力に差があるなら、少しでも僕は戦えるところを見せないといけないと考えを変えたんだよ。
「それじゃあ、フルパワーでいくのね?」
「僕たちはまだ父さんたちのように『覚醒』がつかえないからね!」
シュリと二人で気合いの雄叫びをあげると、闘気を解放する。
「はぁぁぁっ!」
僕たちを中心に渦巻くように闘気が噴出し、竜巻のように辺りを暴風が吹き荒れる。バタバタと土埃が飛んでいくと、紅きオーラを身に纏い、戦士へと僕らは意識を切り替える。
『戦闘力の大幅な上昇を確認。攻撃開始!』
グレートガルドンが両手の指を向けて、指先を光らせる。ピカリと閃光が奔ると、レーザーが撃ち出された。
『紅蓮閃光』
チュインと音を立てて、レーザーは正確に僕らを撃ち貫こうとする。高速思考へと切り替えて、ゆっくりとした緩やかな時間が流れる世界で、レーザーが迫る姿を観察し、その軌道を読んで身体を翻す。
『加速』
風よりも速く駆け出して、小首を僅かに傾げる。顔の横を熱線が通り過ぎ、髪が僅かに熱くなる。タムと足を踏み込み、ステップにて二撃目を躱し前傾姿勢となり、さらに前へと突き進む。
ステテと駆け出して、後ろに熱線が走っていくのを無視して突き進む。地面が燃えだし石床がドロリと溶けていく。
『超加速』
「これでもくらいなさいっ!」
高速思考の中でも、突然現れたかのように、シュリがグレートガルドンの足元へと移動すると蹴りを入れる。
城へと蹴りを入れても、人間程度の力ではせいぜいがヒビを入れる程度であるのに、その足は大きく削れて石塊を抉りとる。グラリと揺れてグレートガルドンが傾き隙を見せる。
「このまま倒れると、家屋が砕けちゃうよね!」
『タイガーアタック』
オーラを虎へと変えて、僕は飛び上がる。虎が城へと噛みつくように、体当たりをするとグレートガルドンの身体は大きく後ろに押されて倒れていく。
グレートガルドンに比べると、ちっぽけな僕はグレートガルドンの胴体へと両手を牙のように構えて突き出す。
ガチリと胴体を噛みつき、グレートガルドンの身体へと闘気を押し流して固めていくと、獲物に噛みついた虎のように持ち上げていく。
「とぅりゃぁ〜!」
巨大な体のグレートガルドンを気合いの声を入れて、そのまま投げ飛ばす。
グレートガルドンが夜空へと飛んでいき、街の外までまるで石ころのように落ちていった。
遠くからでも、轟音が聞こえてきて空気が震える。
「そ、そんな………グレートガルドンを投げ飛ばした?」
「し、信じられない」
ノリノリのレーナ王女たちが、驚く演技をしてくれて、他の人たちも目を剥いている。
皆、演技が上手いなぁ。少し照れちゃうよ。
トンと空へと足を踏み出して、駆けてゆく。これからが本番だから、見栄えのする演技を見せないとね!




