25話 武道会に出席しよう
城内のやけにピカピカしていて豪華な内装の控室にて、そわそわと僕らは落ち着きなく待っていた。
「ねぇ、ヨグ、私の装い変じゃない?」
「可愛らしいよ。シュリは花みたい」
「もぉ〜。いつもヨグはもぉ〜」
牛さんに変身したシュリがバンバンと肩を叩いてくる。さっきから褒めるたびに、もぉもぉとシュリは鳴くのだ。照れる姿が可愛らしいから、もっと言うんだけどね。
「殿下、それほど緊張する必要はないかと」
「ゼノンさんは慣れてますよね。僕はこういう催しは初めてだから緊張するんです」
僕とシュリ、そして艦長コアさんがこの控室では待機していた。船長さんの名前はゼノン・アドミルということにしました。
僕とシュリは落ち着きなく、ソワソワしているのに、ゼノンさんはどっしりと貫禄のある落ち着きを見せているんだよね。どうしてこんなに落ち着いているのかなぁ。ちなみに陛下だとおかしいと思われるので、殿下呼びとなったよ。
「まぁ、場数を踏んでおりますから、殿下もすぐに慣れますよ」
「はぁい」
魔物退治よりも緊張するやと、僕はシュリと手を重ねて椅子にぽすんともたれかかるのでした。
◇
今日の歓迎パーティーは、ガルドン王国にとって極めて重要である。なぜならば、昨今の魔物の大量発生により南大陸との貿易ができなくなったために、ルルイエ王国との貿易は窮乏していた貴族たちにとっては、干ばつに降った恵みの雨だからだ。
貴族たちの殆どは貿易において、船を購入したり投資金を出したりと、貿易国家と呼ぶに相応しい仕事をしていた。だが、今や船は沈没し投資金は海に失われて、殆どの貴族は窮乏しているのである。
そのため、今日はにこやかな笑みの下に、飢えた獣のように目を光らせている。それは隣国などの大使も同じであり、人々は新たなる貿易相手に大きな期待と不安、野心や謀略を胸に抱いていた。
内心はどうあれ、歓談する人々はテーブルに並べられた料理を見て、感心の声をあげていた。
「ガルドン王国の本気がわかるというものですな、ご覧なさいこの料理の数々」
「牙猪の丸焼きが何個あるのか……いやはや、金を注ぎ込みましたな」
「これなど胡椒を使ってますぞ、どうやらかの国はルルイエ王国との友好を絶対に結ぶつもりらしい」
貴族も大使も料理と酒を愉しみつつ、ガルドン王国の出方を推し量っていた。おおよそ予想通りと言えたが、一つだけ不思議な事があった。
「しかし、なぜ庭園でのパーティーなのでしょうか?」
「そうですな。………なぜでしょう?」
「外でやる意味があるのでしょうか」
パーティーは庭園にて行われていたのだ。既に夜であるし、魔法光でパーティー会場を照らしても、なお薄暗いし虫も出てくる。石床ではあるが女性客は歩きにくそうだ。
不思議に思う面々であるが、そんな疑問が吹き飛ぶ司会の声が聞こえてきた。
「ルルイエ王国のラル・トルス・ルルイエ王が第二子ヨグ・トルス・ルルイ王太子殿下、グラス公爵のご息女シュリ・グラス姫ご入場!」
司会のよく通る声がパーティー会場に響き渡り、二人のまだ幼い少年少女が入ってくる。ヨグ王子は見目麗しく見惚れるほどで、シュリ姫は強き太陽のような元気さを宿す美少女であった。
気品があり、歩く姿だけでも、優雅さを感じられて生まれながらにして、王族であると皆が感じいる。
二人の整った容姿にも皆は多少驚いたが、それ以上に耳を疑うセリフが混じっていたことに、戸惑ってしまう。
本当なのかと、皆が顔を見合わせて迷いを見せる中で、いつもは穏やかな性格のガルドン王が慣例を無視し、司会の宣言もないのに、後から現れたことにより、さらなるざわめきを作り出す。
「おぉ、ヨグ王太子。遥々遠洋からの訪問に感謝を。余も新たなる友人との出会いを果たせて嬉しく思う。歓迎いたす」
大袈裟に両手をあげて、ガルドン王が初めての狩りに成功したかのような笑みを浮かべる。そのまま歩み寄り、少年と少女の手を順番に握りしめて、歓迎の意を示すことにより、ようやく出席者たちにも王太子であると言葉が真実であることが脳に染み渡っていった。
そのことが理解できた途端に、他国の大使が足早にまず近づく。
「ガルドン王、ヨグ王太子、シュリ姫。ご挨拶をご許可頂けないでしょうか」
満面の笑顔であるが、その瞳は金貨袋となっている。その行動にガルドン王は厳しい目つきとなるが、気づかない鈍感のフリをして大使は、ヨグ王太子に話しかける。
なにせ自国も貿易が出来ずに困窮しているのだ。その中で新たなる国のしかも王太子が訪問したとあれば、ここで遠慮をするつもりはまったくない。我が国にも是非に訪問をとなんとか約束を取り付けようとする。
貴族たちは貴族たちで、ここで友好を結べればと、国王の視線など目に入らないかのようにヨグ王太子に話しかけるのであった。
国王を気にしない時点で、かなり王権が弱まっていることを示しており、後から王子や王女が入場しても、誰も気にしない点でガルドン王国はかなりの危機であると第三者の目には映ったのである。
そして、その事を深刻に受け止めたのが一人いた。誰もが気にせずにいて、無視されることに慣れていない男が。
「────ヨグ王太子!」
その声は聞き慣れたものであり、皆の耳に入るドスの入った大声であった。しかも怒りと屈辱を微かに感じさせるが、得意げでもあり、皆が嫌な予感を感じて振り向く。
そこにはゴライアス王太子が立っていたのである。しかもひと目でわかる魔力の籠もったワンドを片手に持って。
◇
夜に魔法の光で煌々と照らされる庭園。噴水からサラサラと水が流れて、花々は魔法の光に照らされて陰を宿し幻想的だ。見たことがないたくさんの料理、着飾った大勢の人々。
圧倒されてしまい、僕は笑顔を頑張って作るしかなかった。ニコニコと微笑んでいれば相手が都合の良いように勘違いしてくれると、「愛のスパイ大作戦教本」にも載ってたしね。
「ヨグ様の髪の毛はとても綺麗ですね。瞳も吸い込まれそうなほど神秘的でわたくしの心までも持っていかれそうですわ」
なんとかのなんとかの少女が、おホホと顔を染めながら笑ってきて、ウフフと隣の少女が顔を染めながら笑い返す。二人の頬が染まる意味がまったく違うのは気のせいではないと思います。代わる代わる女の子たちが同じように頬を染めて、話しかけてくる。
シュリはそろそろウフフから、ゴゴゴに擬音が変わりそうなので、僕は危機感を感じて少女から貴族のおじさんへと話しかける相手を変えておく。
「王太子自らが未知なる大陸に、危険なる遠洋航海をするとは、正に英雄譚となるでしょう。我が国は文化に力を入れておりましてね。吟遊詩人が謳う歌はなかなかのものです。是非に訪問をとお願いできればと」
「大使。ガルドン王国との友好を深めるパーティーであるぞ。少し押さえて頂きたい」
「これは失礼を。芸術を愛するあまりに、ついつい強引であったかもしれません。では、次の機会に披露できればと思います。美姫による舞は周辺国の中で一番ですよ」
なんとか王国のなんとか大使が国王の牽制を無視して、美姫がどれだけ美しいかを強調してくるので、僕は苦笑をしてしまう。このままだと、話し合いができない予感。
周りの人々も同じ目的のようで、ギラギラと目をギラつかせている。マッハイエナみたいな鋭い目つきだけど、なんとかの大使と同じ用件かな。
一先ずはどこか一つの国と友好を結びたいのだけど……。
「───ヨグ王太子」
野太い男の声が聞こえて、僕も皆も声のした方へと顔を向ける。そこには大柄な体躯の男がいて、僕の方を見ていた。
「歓迎しよう、ヨグ王太子。俺の名は、ゴライアス。この国の王太子だ。どうだ、楽しんでいるか? 俺がこのパーティーを準備したのだが、金に糸目をつけなかった。古今東西合わせてもこれだけ立派なパーティーをできるのは我が国ぐらいだろう」
手に銀色の小さな杖を持って、ゴライアス王太子は八重歯を覗かせてニヤリと笑ってくる。まるで猛獣が獲物を見つけたかのような獰猛な笑みだけど、歓迎してくれているのかな?
どことなく自慢げで高慢な人を見下ろしてくる感じがして、あまり良い印象じゃない。
「こんばんは、ゴライアス王太子。今日は素晴らしい歓迎パーティーを開いて頂きありがとうございます」
でも、第一印象で決めたら駄目だし、このパーティーの準備をしてくれた偉い人らしいから、お礼を言っておこう。
僕がニコリと微笑んで礼をすると、ハッと薄笑いをして得意げにゴライアス王子は胸を張る。
「すまぬ、ヨグ王太子。あやつは今日のパーティーの準備に張り切っていてな、褒められて少しばかり得意げになっているのだ」
「いえ、これだけの準備をするのは大変だったと思います。無理はありませんよ」
慌てた様子のガルドン国王様だけど、そういう理由なら仕方ない。きっとゴライアス王子様はとっても苦労したんだろうし。僕の国なら皆で適当にご飯を作って宴会だもんね。
「寛容な言葉に感謝の言葉もない。そう言ってもらえると助かる。少し待っていてくれ、すぐにゴライアスを───」
安堵の表情となったガルドン国王様は、ゴライアス王子へと顔を向けて、恐ろしい目つきになり、口を開こうとするが、ゴライアス王子の方はまだ話を終えていなかった。
「ふふん、わかってもらえて嬉しいぞ。では、余興としてガルドン王国との友好を結んだ方が良い証拠を示そうではないか!」
ゴライアス王子は、そのまま銀の小さな杖を握りしめると、先端に付いたルビーへと口を近づける。
「ま、待て、ゴライアス! 貴様、その神器をどうやって持ち出した!」
なんだかガルドン国王様が慌てて止めようとするが遅かった。ゴライアス王子が握る杖が輝き、先端のルビーから紅き光が漏れ出す。
そしてゴライアス王子は、轟くような大声で叫んだ。
「目覚めよ、絶対無敵矛盾ロボグレートガルドン!」
ゴゴゴと地面が激しく揺れ始めると、眼前のお城の中心の尖塔が目のようにキラリと光り、両脇の尖塔が浮かぶ。そうして城が浮き上がると、尖塔が手足へと変形をして、ガションガションと合体をするととんでもなく大きな人形へと変形するのであった。
見上げると小山のように大きな人形だ。尖塔がトゲトゲの装甲となって、分厚い金属製なので硬そうだし、なんだかとっても強そう。
『絶対無敵矛盾ロボグレート魔怠惰〜!』
ガッツポーズをとるとロボから大音量で名前が名乗られるのであった。どうしよう、ロボットの名前が違うや。そして、どこかで聞いたことのある名前だよ?
「見たか、ヨグ王太子。これこそがこの舞踏会の余興。絶対無敵矛盾ロボグレートガルドンだ!」
フハハとゴライアス王子は高笑いをして、ガルドン国王は真っ青になって倒れそうだった。余興にびっくりしすぎたに違いないよね。
皆もぽかんと口を開けて、目の前に現れたロボットを見ている。
「さぁ、少しヨグ王太子に力を見せてやれ! 目の前の地面にパンチだ!」
「たいだー」
魔怠惰が腕を振りかぶり、庭園にパンチを打ち込む。ドスンと音がしてグラグラと地面が揺れて悲鳴があちこちから響いてくる。
魔怠惰が手を引き抜くと、クレーターが生まれており、底が見えなかった。
これを余興のために作るなんて、世界って広いね! 僕は目の前の魔怠惰を見て、感動してぱちぱちと拍手をする。
「もう少し力をお見せしよう。うーむ、被害の少ない方法で………」
ゴライアス王子が考え込み始めて、魔怠惰がまたもや叫ぶ。
『命令マイクのバッテリーが尽きそうです。新しいバッテリーに入れ替えてください。バッテリーが切れた場合、安全装置が発動しオートバトルモードとなります。繰り返します───』
ありゃりゃ、バッテリーが切れそうだって。新しいバッテリーが必要だけど持ってるのかなぁ? って、そういえば、魔怠惰の声って日本語だけど、やっぱり日本語が共通語なんだね!




