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ヨグの大航海 〜孤島の戦闘民族は国造りをしますっ  作者: バッド
1章 航海の始まり

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22話 歓迎する王女

 嘆息しながら、私は頬を膨らませて不満を露わに馬車に乗り兵舎に向かっていた。ガタゴトと車体が揺れて、窓の外を覗きながら愚痴る。


「別にどうでも良い仕事とは言いませんが、それでも扱いが酷くないですか? 重要な船の船員だとは理解しますが、私を向かわせるなんて。船員に思うことはありませんよ? お父様の私への扱いが雑だと言っているのです」


「これも大切なお仕事です姫。それにいずれにしても他に仕事を任されたかと。そうでもしないと、歓迎の席に紛れ込もうとするでしょうし」


 対面に座るオルケが苦笑をして、私はギクリと肩を震わす。たらりと冷や汗がこめかみから流れて、誤魔化すように窓の外へと顔を向ける。


「歓迎のパーティーがあるのに、姫様は最初の顔合わせの席にドレスを着て無邪気な笑みで加わろうとするのが、私にも想像はつきますぞ」


「まぁ、そういうこともあったかもしれないですね。えぇ、まさかドレスを用意していたなんてあるわけありません。だって私が最初に出会ったんですもの」


「そういう性格ですから、このような仕事をこれ幸いと命じられたのですぞ」


 反論は止めておきます。色々と言いたいことはありますが、風評被害というものなので我慢です。


「仕方ありませんから、さっさとこの仕事を終えて、宮殿に戻りますよ。私の笑顔であっさりと解決です。所詮はスリとのいざこざ程度の話ですしね」


 馬車が兵舎に停車して、私はエスコートも待たずに外へと飛び降りるのであった。


 頑丈な石造りの兵舎に入ると、待機部屋でのんびりと雑談していた兵士たちが私の姿を見て、隊長が驚きを露わに駆け寄ってくる。


「こ、これはレーナ姫様! ようこそ、えぇとなにか御用でありますでしょうか?」


「ルルイエ王国の船員がスリ被害にあったと聞いて、私が対応を任されたのです」


「そうですか。そのゴライアス王子は………?」


 私を見て、緊張して背筋を伸ばす兵士が不愉快なことを口にするので、僅かに不機嫌なことをしてしまう。


「お兄様はルルイエ王国の使者との話で忙しいので、私が来たのです。さぁ、船員の所に案内を………いえ、先にスリの集団に会わせなさい」


「へっ? いえ、スリの集団はつまらぬ相手ですが」


 だが、気まぐれに尋ねた提案に、兵士は動揺した顔で口籠る。……? なんでしょう、なにか変ですね? その態度に違和感を感じます。


「謝意を示すにも、スリの集団の顔を見るのと、見ないのとでは変わりますからね。さぁ、案内しなさい」


 気まぐれであったが、絶対に会おうと決意して、顔を顰めさせて兵士へと威圧するように強く言う。


「わ、わかりました。こちらです……」


 ようやく案内する兵士のあとに続き、オルケと顔を見合わせて不思議に思うのであった。

 

 そして、兵士が動揺し案内を躊躇っていた理由を理解した。


 そしてゴライアスお兄様が動揺していた理由も自然と悟った。


 そして、私も青褪めて動揺をしていた。


 皆で動揺していたりした。私にいたっては血の気が引く音も聞こえたような気がします。


「……なるほど?」


「…………」


 牢屋に入っていた者たちには見覚えがあった。ちらりと兵士を見ると、気まずそうにそっぽを向く。


 ちらりと牢屋に入っている面々を見ると、気まずそうにそっぽを向く。


 ちらりとオルケを見ると、気まずそうにそっぽを向く。


 私もそっぽを向いて、現実逃避したかった。……が、現実逃避できない状態ですね。


「なぜ風の騎士団が……。いえ、この者たちがスリの集団ですか。では、魔法戦士による鞭打ち10回で釈放しなさい」


「はっ! ……よ、よろしいので?」


「もちろんです。すぐに刑を実行するのです」


 躊躇う兵士へときっぱりと強い口調で命じる。鞭打ち10回はスリの初犯に行われる刑です。特段なにも変なことはありません。


 軽い刑に聞こえるが、実際は皮は破れて肉が抉れ、ひどい痛みで一週間はまともに動けなくなる。


「レーナ姫、僕はにんもがもが」


 まだまだ子供のスリが抗議をしようとするが、他の者が慌てて口を塞いで発言を許さなかった。ここでの発言が己の不利にしかならないことを理解しているのだ。


「それでは、すぐに刑を執行しなさい。私は船員へと挨拶に行きます」


「畏まりました、レーナ姫様」


 兵士が敬礼をし、牢屋からスリの集団を出していく。ぶぜんとしたものや、悔しそうにする者などがいるが、子供以外は素直に兵士の後についていく。


 私の横を通り過ぎていく途中、気になったことを呟く。


「何人にやられたんですか?」


「たった二人の船員です、レーナ姫」


 偶然にも集団のリーダーらしき者が私の呟きを拾い小声で独り言を言う。その呟きを聞いて息を呑むが、特に立ち止まることなく去っていく様子を見送るのだった。


「では、その船員に挨拶をします。案内をしてください」


 内心の動揺を隠して、私は案内をする兵士についていく。廊下を歩きながら、先程の面々を思い出し、拳を強く握りしめる。


 あれは風の騎士団の副団長と愚連隊と呼ばれる一隊に似た者たちだった。子供の方は団長の一人息子で、子供であるのに大人の騎士を遥かに上回る神童と呼ばれた者に見えた。


 子供はともかく、ゴライアスお兄様の私兵とも揶揄される怪しい噂の絶えない者たちだった。


「姫様、あの者たちは……」


「わかっています。大きなスリの集団だったようですね」


 それ以上は口にしないで欲しいと視線で伝えると、深刻そうにオルケは頷く。


 言われなくてもわかる。船員が数名寄港地で姿を消すのは珍しくない。大金を手に入れたから、これ以上命懸けの航海をしたくないから、港で他の船の仕事を見つけたから……理由には事欠かない。


 それを利用して、船員を拉致して国のことや航路のことを聞き出そうとしたアホがいたのだ。どうりで焦っているはずです。


 自分のしでかした事が、今の現状ではかなりまずいことだったと焦ったに違いない。それもまずいが、極めてまずいのがたった二人の船員に負けたことだ。


「スリの集団を殺さずに制圧できる者……どのレベルだと思いますか?」


「将軍レベルでしょう。迂闊でしたな、恐らくは船が奪われないように武力の高い者たちは船長と共にいなかったのかと推測します」


「それは高位貴族の可能性がありますね?」


「さて……一概にそうとは言えませぬ。たしかに高位貴族のマナ量が高いのは周知の事実ですが、それが強さに直結しているかというと……甚だ疑問ですな」


 オルケが迷いながらも、正直に自分の感想を言う。たしかに高位貴族はマナ量の高い者と結婚を繰り返してきたために、だいたいの者は何もせずとも強い。だが、努力をしない者はマナ量が多くても、ある程度の強さで頭打ちとなり、スリの集団を制圧できるほどの力は持てない。


 とはいえ、そんなことを他の高位貴族の前では口にできないが。でも、それなら可能性はあるのだろうか。


「それなら凄腕の平民……はないでしょうから、下級貴族であることを祈りましょう」


 高位貴族ならば、国際問題へと発展する可能性がある。が、よくよく考えてみれば、スリに遭うような場所に高位貴族はいかないものだ。下級貴族ならば、なんとか穏やかに話をおさめられる。


 杞憂ですねと思いながら、兵士がドアの前で立ち止まって、こちらへと顔を向けてきたので頷く。


 恐る恐るといった顔で、ドアを開ける兵士。ギィとドアが開かれていき、隙間から見えた人物に顔がピキリと凍りつく。


「あ〜、ヨグ殿。今回のスリの事件において、畏れ多くもレーナ・オル・ガルドン姫様が参った。ありがたく思うように」


 どことなく挙動不審であるが、それでも胸を張って虚勢を張るように兵士が中で待っていた人物へと告げる。


「そうなんですか。それは光栄です。スリのような事件にまで顔をお出しになる姫様に最大の謝辞を」


 粗末な何もない石造り内装、傾きかけたぼろいテーブルがあり、古ぼけた椅子が置かれているのが見えた。明り取りの窓は小さくて日があまり射さなくて薄暗い部屋で、椅子に座っていた子供が立ち上がって優雅に礼をする。


 その方は薄暗い部屋でも輝くようで、思わず目を奪われた。サラサラと艷やかな銀髪を伸ばし、その顔立ちは少女に見える可愛らしい者だ。


 優雅な礼をするその姿は宮殿にいるのではと錯覚させる。凍りついた頭脳を必死な思いで復活させながら、なんとか気を取り直すと、兵士を脇に退けて私も前に立つ。


「ガルドン王国の第一王女レーナ・オル・ガルドンです。お久しぶりですね、ヨグ・トルス・ルルイエ様」


 スカートの裾を摘み、こちらも優雅にカーテーシーで返礼すると、ニコリと笑いかける。


「あたしの名前はシュリ・グラスよ。こんにちは、レーナ王女様」


「初めまして、シュリ姫。お会いできて光栄です」


 ヨグ様の隣に座っていた水夫も、ヨグ様と同じように優雅に膝を曲げて礼をしてきた。その姿は幼いなりに淑女であり、水夫の服を着ていても、隠しきれない高貴さを見せていた。


「どうやらお忍びのところをお邪魔してしまったようですね?」


 顔が引きつらないように全力で表情筋に力を込める。オルケはというと、驚きで固まっているし、兵士は脚がガクガクと震えて、今にも倒れそうだった。


 この二人はまったく役に立たないと捨てておく。私も固まって、ヨグ様たちが帰るのを見送りたい。


 だが、そうはいくまい。だって、副団長ほどの力の持ち主が拉致しようとしていたことに、王族が気づかないわけがないです!


「この国の治安の悪いところを見せてしまい、お恥ずかしい限りです。ご容赦を願えますでしょうか?」


 ここは謝罪の一択だ。ここで、ヨグ様がなにを要求してくるのかはわからないが、誠意を見せるしかない。王族を狙う他国に誠意があるとは私も思いませんけどね。ゴライアスお兄様には王太子の座を降りてもらいます!


 戦々恐々とヨグ様の様子を窺うと、ニコニコと邪気のない笑顔で予想もしない言葉を口にしてきた。


「スリぐらいはどこにでもいるものですから、気にしないでください。レーナ王女が謝ってくれるだけで、ガルドン王国の誠意がわかります」


「ありがとうございます」


「チンピラリーダーと戦ったのも面白かったですし。では、僕たちは帰っても良いですよね?」


 予想外のヨグ様の言葉に固まっていると、そのままするりと横を通って行こうとする。


「わ、わわっ! お待ちください、ヨグ様。ここで出会ったのもなにかの縁です。どうか歓迎させてくださいっ!」


 このまま放置はできない。恥を晒すだけとなり、これがこの国の重大な瑕疵となる。どうにかして、さり気なく謝罪とお詫びをしなくてはいけない。


 それに……私が歓迎会をできますし! お父様もお兄様たちもざまあみろです。


 なので危機感半分、罪悪感4割、喜び1割の気持ちでヨグ様へと、私は身を乗り出して必死になってお願いをするのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 高位貴族ではなかった!よかったよかった!
[一言] 風の騎士団団長が息子の仇を取りに来る展開、来るか!? それにしてもヨグくん強いですね。戦闘民族ルルイエ最強っぽいパパは一体どれほどの強さなんでしょうか。 アレより強い敵とかいるのかな(´ω`…
[気になる点] 「僕たちは帰っても良いですよね?」 別の意味に聞こえてたりしてw さぁ、よその国に行かれたら大変だよ王女ちゃん!
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