14話 製鉄技術を使おう
次の日である。『製鉄技術』を使用しての施設を作るためルフ島を散歩していた。
緑溢れる森林。鹿や猪や熊が時折視界に入る。空には鳥がパタパタと飛んでおり、豊かな土地だとわかる。草むらからうさぎが顔を出して、びっくりして逃げていく。
「これだけ動物がいれば、お肉には困らないね」
「ちょっと歩くと獲物が見つかるもの。でも牧場があるから、動物はあまり狩りに行く必要はないわよね。前なら見つけたら絶対に狩ったものだけど」
「魔物以外を狩るのは厳密な戦闘民族狩猟免許が必要になります。絶対にです。そうしないと狩り尽くすでしょ!」
木々の天頂を足場にして、微かに枝を揺らしながら僕たちは移動する。横にはシュリが並走しており、その背中にはルフさんが乗っている。なんでか、僕におんぶをさせたくなかったらしい。彼女は恋愛感情ではなく、面白感情で生きているから大丈夫なんだけどなぁ。
風のように木々を駆け抜けて、山の麓へと辿り着く。草木は生えておらず、山肌が見えている荒れ地だ。
「ここに鉄が埋まってるんだね」
「えぇ、そのとおりです、閣下。このルフ島は埋蔵量がTPを使えば回復します。無限に採掘できますので安心してください」
「はぁい」
空中にホログラムを映し出して、ピピッと押下する。施設はもちろん『鉄鉱山』だ。鉄以外にも少しだけ他の鉱物も採掘できるが、9割は鉄だ。
1億TPで『鉄鉱山レベル10』を選択する。サハギンキングと今も森の中から響いてくる戦闘で手に入るストーンゴーレム代で約8億TP。資金は充分だ。
押下すると、目の前の山肌が震動して崩壊していく。崩れるのではなく、スライムのように変化して、洞穴のようになったかと思うと、線路が敷かれてトロッコが空間から現れる。マトックが地面に転がり小屋が建った。
この間、約3秒である。街へと繋がる道も整備してと。マップに映る島内をなぞるように指を滑らせていく。木々が消えて土の道路ができていくのは何度見ても不思議な光景だ。
そして、コアさんたちが数人現れると、ぞろぞろと鉱山に入っていき、マトックを持ってカキンコキンと振るう。
「鉱山といっても、全然深くないじゃない」
シュリがコアさんたちと一緒に中に入るが、すぐに行き止まりのために、戸惑った顔となる。僕も同じだ。これが鉱山?
鉱山で働くことにしたコアさんたちは僅か10分で採掘が終わり、トロッコに鉄鉱石が水が湧くように現れて満タンになった。そして、荷車に箱を積み始めていく。とっても不思議な光景です。
「ゲーム仕様ですからね。でも、鍛冶工房まで運ばないといけないから、それなりに大変ですよ」
コアさんは5人。大人は良いけど……。安全第一と書かれたヘルメットを被った幼女コアタイプがいるよ?
「運ぶでしゅ、運ぶでしゅ」
んせ、んせと、幼女鉱山コアちゃんは鉄鉱石を両手に抱えて運ぶ。とっても大変そうだ。
「虚像を使えば良いんじゃないのかな?」
「虚像を作るごとに、力が弱くなるでしゅから、これが一番効率良いのでしゅよ。今なら5人分の力を使えるでしゅ」
エヘンと胸を張る幼女鉱山コアちゃん。なるほど、そういう仕様なんだ。
「見た目が問題よ、見た目がっ! ほら、虚像を使いなさいっ!」
でも罪悪感が湧くようで、シュリが幼女鉱山コアちゃんの頭をぐりぐりとする。
「え〜、リアルモードは人が多すぎて大変なんでしゅが……仕方ないでしゅね〜」
ぷにぷにほっぺを膨らませて不満そうにするが、それでも素直に幼女鉱山コアちゃんは青年四人を影から出す。と、鉄鉱石の箱も5倍に分かれて、荷車も5台に増えちゃった。
どうやら虚像を使うリアルモードは、しっかりと量も増えちゃうらしい。しかも幼女鉱山コアちゃんの分の荷車はしっかりと残っているよ……。
「あ〜、もう仕方ないわねっ。ほら、私が運んであげるわよ」
「シュリは優しいね。それじゃ僕が木箱を運ぶよ」
「流石にこれだけ小さいと可哀相でしょ、バカッ」
世話好きな幼馴染は、面倒だと口にしながらも鉄鉱石の詰まった木箱を担ごうとするので、僕が代わりに持ち上げる。
シュリは頬を少し染めてプイと顔を背けると、幼女鉱山コアちゃんを背負おうとする。そのためにルフさんは鉱山にポイ捨てするように放り投げて、ズササと土にめり込むリアクション芸人さん。
「ガバッ、なんという扱い! 幼馴染キャラのテンプレをいく少女なのに! 暴力キャラは流行りませんよ!」
「手が滑ったわ!」
トロッコを蹴っ飛ばすシュリ。ルフさんの横を砲弾のように勢いよく通り過ぎて、ルフさんは真っ青になる。
「ちょっと殺すつもりですかっ!」
「ちょっと痛いぐらいでしょっ!」
「戦闘民族と同じにしないでください! 私の身体は胸のように柔らかいんです。あ、貴女ではわかりませんでしたか」
「決闘って、六回ぶてば良かったのよねっ!」
言い争いをする二人は放置して、さっさと鍛冶工房に行こうかな。幼女鉱山コアちゃんは、よじよじと僕の背中に乗っかって、ふんふんと楽しそうにするので、運ばれる気満々の模様だった。
◇
街へと戻ると次は鍛冶工房である。さっきと同じ要領で1億TPで『鍛冶工房』を建築。ポムと石造りの工房が建てられて、待ってましたと、コアさんたちが中に入っていく。そして、待ってましたと僕の村の人たちも期待でワクワクしながらついていった。
「とりあえず武器が必要ですからね。船員たちが丸腰とかありえません」
たしかに初の航海では、皆武器を持ってなかったや。ちょっと失敗だったかも。
「うん、闘気を使えないと武器も創造できないし、なにより御先祖様もしっかりと準備をするように注意していたしね」
結局、シュリの背中におんぶされて運ばれてきたルフさんが鍛冶工房を眺めているので、僕も苦笑いをして新しい建物を見る。
『鍛冶工房』は数百人は入れる大きさだ。中には鍛冶場が何基も設置してあり、コアさんと虚像が早くも鉄を打っている。
「パパ、なにしてるの?」
「あぁ、私たちも自分専用の武器が欲しくてな。自分で打ってみたいんだ」
シュリのお父さんたちが鍛冶場に集まり、ハンマーを片手に楽しげに話し込んでいる。おじさんたちも武器を作る模様。
「あれですよね、戦闘民族って趣味的なものはやりたがる感じですよね……」
「趣味だといくらでも凝るしね!」
否定はしないよ。僕も打ちたいもん。鉄の剣とかかっこよさそう。
「鉄の武器など戦闘民族には不要ですよ。あれを見てください」
ジト目となるルフさん。その視線の先には炉に鉄鉱石を入れているおじさんたちの姿がある。
どこも変なところはないように見えるけど?
「炉に手を突っ込んでいるのに、火傷一つ負ってないんですよ! なんで粘土を捏ねるように溶けた鉄を捏ねてるんですかっ!」
たしかにおじさんたちは、赤熱している鉄をこねこねしてる。どんな武器にするか楽しそうに話していた。冷えてくると、炉に再び鉄を掴んだ手ごと入れてるよ。
「闘気を纏えば、あれぐらいの熱ぐらいは大丈夫」
「大丈夫のラインが天元突破するぐらいに高いです!」
絶叫するルフさんだけど、これぐらい軽いと思うんだよね。おじさんたちは、酷く芸術的な剣とかにして嬉しそうだ。
「それだと鉄を打って鍛えていないから、強度も問題です。耐久力がなさすぎですね。ちょっとお貸しを」
「そうなのか?」
真っ赤に燃える剣をおじさんから手渡されて、ルフさんは平気な顔で翳して眺める。あれ? ルフさんも平気じゃん。
「私はゲームにおいて不滅の秘書なので、いかなる物でも傷を負うことはありません。なので、燃え盛る鉄でも、反物質兵器でも平気なのです。なので、本来は無敵なのですよ。本来なら、ですが。僅かに痛みは感じますけどね。なぜか戦闘民族の攻撃はとてもとても痛いですが」
珍しく妖艶な笑みを浮かべると、ルフさんは剣をつつく。ピロンと音がすると、空中に剣の性能が表示された。
『最高品質の鉄剣:レベル3』
「ぬぐぐ、ハンマーよりも強い荷重により最高品質になってる……つくづくチート民族ですね。最高の耐久力です。むぅぅ」
ワナワナと震えて悔しそうである。最高品質なんだから良いと思うんだけどなぁ。
「お、私の剣が最高品質か、少し照れるなぁ」
「俺らも作ったけどどうだい?」
おじさんが頭をかいて照れて、他の人が芸術的すぎる剣を手渡す。それを確認して、ようやく嬉しそうな顔に変えるルフさん。
「これは失敗作ですね。レベル0です、すぐに壊れます。本職の鍛冶職人でなければ、良い武器は生まれません」
ウヒョーと、呪いの踊りを踊るルフさん。心底嬉しそうな顔である。かなり鬱憤が溜まっているようだ。
僕も作ってみようかなぁ。えっと鉄鉱石を炉に突っ込んでと。だんだん柔らかくなっていくので、こねこねと捏ねていく。鉄が溶けるまでの熱はなさそうだ。まだレベルが低い炉だと言うことであろう。
「やっぱり刀かなぁ? 御先祖様曰く、『刀はかっこよい』」
「形だけ整えても駄目じゃないの? 刀を作るには、なんだっけ? 何回も鉄を折りたたむ?」
僕が座って、こねこねと刀の形に変えていくと隣に座ったシュリが首を傾げる。たしかにそのとおりだ。四角く畳んで、何層にも変えてと。
それらしき形になんとか整える。見かけは刀となった。でも、ルフさんはそれを見て顔を顰める。
「切れ味ゼロじゃないですか、閣下」
『頑丈な刀モドキの棒:レベル0』
「やっぱり駄目かぁ。切れ味ってどうやって作るの?」
がっかりである。たしかに手で捏ねても刃はできないや。手に持って掲げるとキラリと輝いて綺麗な刀に見える……刃ないけどね。
「鍛冶職人なら作れますよ。ですが、日本刀って、一回斬ると刀身は曲がり使い物にならなくなるんです」
「そこらへんは現実準拠なのですよ、陛下。日本刀を使いたいなら、せめて魔鉱石に変えないと駄目ですね」
鍛冶職人コアさんが、気を回して作った刀を渡してくれる。手渡されたけど、たしかに脆そう。つつくだけで壊れそう。
「魔鉱石って、なぁに?」
「『魔法技術』を手に入れてから建てられる『魔法研究所』で作れる魔法合金ですね。条件は『友好国を作る』です」
「友好国?」
「はい。その国の王、もしくは王族から感謝の言葉を貰えば良いのです。ただ普通の感謝の言葉ではなく、その国自体に多大な利益、もしくは救援などを行った場合に限ります」
ふむ、それは少し厳しい条件かもしれないね。……どうしよう。
僕が考え込むと、ニマニマとルフさんは笑みを見せる。なにか方法があるらしい。
「では、『将軍』を作りましょう。名前付きのユニットは頭が良く、力も人間を遥かに超えて……はいないかもしれませんが、役に立ちます。『将軍』を作ったら、また航海です」
「はぁい」
「次の航海はあたしも行くわよっ!」
「胸を張っても、張らなくても同じですね」
シュリが話に加わり、フンスと胸を張る。その胸を見て、ヘッとルフさんが鼻を鳴らして殴られていた。傷つかないと聞いて、遠慮がなくなったみたい。
二人が仲良くて結構。
さて、将軍のことは後で聞くとして、僕はこれからのシナリオを考えるかな。
やっぱり酒場をランクアップさせるのが良いかな? そろそろレベルアップが必要だと思うんだよね。




