広がる噂
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私が婚約者を譲ると宣言した途端、マデリーンが彼に向ける眼差し酷くは冷めたものに変わった。
妹ははきっとまたこの哀れな被害者を捨てようとするだろう。
そして私の新たな婚約者を奪おうと画策するのだろう。
でも今回ばかりは彼女の思い通りになんてさせない。
私を侮辱した報いを受けてもらう。
家族に復讐すると決めた私の行動は早かった。
沢山の婦人や令嬢の集まるお茶会で親しい友人にありのままの事の顛末を話したのだ。
まるで何も気にしていない様にマデリーンは今度こそ真実の愛を見つけたこと、姉としてその恋を応援していることを話すと、友人達はこぞって二人を責めたてた。
「信じられませんわ!!もう何度目になりますの?今度こそ貴方が幸せになれると思っていたのに……。」
友人の一人が目に涙を浮かべながら吐き捨てると、他の友人達も異口同音に、マデリーンが本気だなんて信じられないと言う。
「あの子は貴方の物が欲しいだけなのよ、きっと今回の婚約者も直ぐに捨てられるわ。」
「貴方も分かっているでしょう?それなのにどうしてマデリーンに譲ってしまうの?」
友人達は心から私を心配して、マデリーンや婚約者、そして私の家族に対して怒ってくれている。
他家の批判など、こんな人目に着く場所ですることではないと分かっているのに、感情を抑えきれずに想いを吐露する彼女達に胸が熱くなった。
そんな友人達を利用するようで申し訳ない気持ちになりながらも、私は復讐の為にマデリーンを陥れる為の毒を吐き出し続ける。
「皆、信じてあげて……、マデリーンは彼に本気なのよ。だって彼と一緒になる為に駆け落ちまでしたのだから……。」
「まぁ!!あのマデリーンが平民と駆け落ちを!?」
あり得ないことだと皆が騒ぐと、先程から聞き耳を立てていた周りの方たちも思わず………と言う様に口を押さえた。
「ええ。姉の私が言うのもなんだけど、マデリーンは箱入り娘だもの、貴族としての暮らししかできないと思っていたわ。だけどあのマデリーンが、平民の男性と駆け落ちをしたのよ?本気じゃなきゃできないわ。」
「何かの間違いじゃないの?本気じゃなくても駆け落ちのフリならできるわ、駆け落ちしたことにして実は迎えを待っていたのではなくて?」
鋭い指摘にドキリとしたものの、表情を崩すことなく、なおも言葉を重ねる。
「まさか!きっと私達が宿まで探しに行かなければあの日、二人はそのまま遠くまで旅立ってしまっていたわ。」
「宿?マデリーンは平民の彼と宿で見つかったの??」
「それって一夜を過ごしたってことじゃない?」
友人の一言にハッとした顔をすると、悲しそうに目を伏せる。
「それは私にも分からないわ、彼が紳士的にマデリーンと接してくれていたと信じるけど……。」
手をギュッと握り締めて俯く。
「無神経なことを言ってごめんなさい、辛いわよね。」
「どんな時でも前向きな貴方がこんなにも傷つくなんて………。」
友人達はあくまでも落ち込むフリをしている私を抱きしめ、慰めてくれた。
「私は傷ついてなんかいないわ、これが皆が幸せになる最善だもの。」
そう応えると、一層憐れみの視線が強くなった。
下準備は上場、でもまだまだ根回しが足りない。妹が彼を捨てる前に、早く準備を負えないと……。
私は急いで両親への根回しを始めた。
「結婚式をプレゼントする?」
お父様はすっかり窶れた顔で、オウム返しに私の言葉を口にした。
「ええ、私と彼の式場はまだ押さえてあるでしょう?あの結婚式をマデリーンと彼の結婚式に差し替えたいの」
私はにっこりと微笑んで、お父様に提案を伝えた。
「良いアイデアだと思うのよ。招待した方も、式場も、忙しい中で予定を組み立てて下さっているのですもの。こんな直前でキャンセルするなんて非常識だわ。」
非常識と言うなら花嫁が変わっているという事実の方がよっぽど非常識だろう。だけど、お父様は考えることに疲れたようで、それも良いかもしれないと、私の話を聞いていた。
「私に使うはずだった結婚資金や、持参金も使って盛大な式にしましょう。私からのプレゼントということにしておけば、円満な婚約解消と幸せな結婚を印象づけれますもの。ね、お母様もそう思うでしょう?」
お母様を振り返り、同意を求めるとお母様は首を振って難色を示した。
「結婚資金も持参金も貴方の為に用意したものなのよ、マデリーンに使うことは出来ないわ。」
急に母親らしいことを言うお母様に笑いそうになる。
確かにそれらのお金は私の為に用意されたものだ。マデリーンはマデリーンで同等の資金を用意しているだろう。だけど、今までの婚約者達も私の為に見つけて下さった方達の筈だ。
それをマデリーンが望むからと私から取り上げて来たのはなんだと思っているのだろう。
マデリーンだけではなく、婚約者自身が望んだから、私も直ぐに身を引いたから………、言い訳をするなら理由は色々あるだろう。
だけどマデリーンと同等に私を愛しているのなら、繰り返される婚約破棄のどこかで口を挟むべきだった。それをせずに私にお伺いを立てるに留まったから、味方の居ない私は譲るしかなかったのだ。
「お母様、マデリーンは貴族では無くなり商家に嫁ぐのです。お金はいくらあっても足りないでしょう?マデリーンに用意した資金はそのままマデリーンに上げてくださいな。私なら大丈夫です。こうなってはさずがに暫くは結婚の宛はないでしょうからまた少しずつお金を貯めて行けば良いのです。」
慈愛を込めた顔で微笑むと、両親は感激して涙をこぼした。
「シャーリーン……。お前は何て妹想いの優しい娘なんだ。」
「お父様の言うとおりね、不甲斐ない私達には勿体ないくらいの良くできた娘だわ。」
二人の涙を見ても、何の感情も湧かなかった。友人達の涙にはあれ程胸が苦しくなったと言うのに……。
「そんなことを仰らないで、お二人とも、私には過ぎた素敵な両親ですわ。」
心にも無い言葉を口にするのも………、何の罪悪感も感じなかった。
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