わいのじ様
心地よい五月晴れの空を仰ぎ、私たちはベンチに腰掛け仲睦まじくしていた。パリっとした皮を噛みしめれば、舌に触れる冷たく滑らかなバニラアイス。時折り吹き抜ける爽やかな風を感じながら友と味わうアイス最中はいわく"青春の味"というものだろうか。
私にとって世間一般で指す青春時代とは苦々しいものであって、決して今このアイス最中のような甘美なる味わいではなかったが。それはリンダも同じようで私たちは慣れない心の高揚のこそばゆさからか、互いにぎこちなく微笑んだ。
リンダという小男は端的に言うとガキだった。精神の身長も150cmなかった。
得意気に勝ち誇った顔で刑法が類型が構成要件がと宣うリンダに対し、私は助手席に座りながら慌てて口を挟んだ。
「わ、ワイは助手席に座ってただけだべ!」
私の純然たる事実の主張に天下の論破王はみるみる顔を真紅に染めると、スプリンクラーのように唾を撒き散らしながら先ほどの倍速でさらに捲し立てた。
「は?何言ってんのお前?誰もお前がどこに座ってたなんて話してないけど?え?馬鹿なの?はあこれだから馬鹿は嫌なんだよ。あーあ馬鹿と話して時間無駄にしたわ。もういいや馬鹿とは話したくない」
ひと息にそう言い切ると論破王リンダはむっつりとした顔で黙り込んだ。
周囲に作業中のバキュームカーのような匂いが立ち込める。どうやら彼が興奮し体温が上がると肛門線から発するニオイのようであった。
──だがしかし、この時全ては些事であったのだ。私たちは互いの目、いやそのもっと奥、私は彼を覗き、彼もまた私を覗きこんだ。理解しあった。共感しあった。通じ合った。
"負けは負けを認めなければ負けではない"
喧嘩の真理である。私たちはその確固たる信念のもと、互いを認め合ったのだ。
私はガンダム号から飛び出しスマホを掲げる。リンダもまた同様にそうした。私たちはTwitterをフォローし合い照れたようにそっぽを向いた。
「アイスでも食おうぜ」
リンダが親指で背のコンビニを指しながら言った。すべての現金をはあおセンパイに徴収された私はそれでも力強く頷く。今ここでなら虎の子いや龍の子、プレミアム商品券を使っても惜しくはない、と。
「さっきはごめんな。なんかカリカリしちゃって。ベーコンみたいだったよな」
「気にしてねえべお。ワイのほうこそいろいろあってプリプリしてたみてえだお。海老みてえだったべお」
それから私たちはお互いの身の上を取り留めもなく語り合った。
H県に行くと言う私に、リンダは親切にも途中まで送ってくれるという。
「早く行こうぜ、急ぐんだろ?」
リンダは立ち上がると、ポケットに手を突っ込んで歩き始めた。私はその背を見つめながら友だちという言葉を思い浮かべ、つられるようにFの顔が過ぎるのを苦笑とともに振り払うと、リンダの後に続いた。
リンダがふと振り返り、少し拗ねたような顔で口を開いた。
「ワシたちってもう友──」
「おほほんおほほん」
私たちの間にパワー系のナニかがぬっと滑り込んできた。巨漢が身を屈め私たちの顔を舐め回すようにジッと覗き込む。洒落にならないほどの怖気を呼び起こすその眼差しは、いわくYの字であった。
「ぴちゅお?んほほぴちゅお?」
絶対に目を合わせてはならない。耳を傾けてはならない。言葉を発してはならない。その禁を破れば──
感動と衝撃のラストを用意していますが打ち切り濃厚です




