【5】「挨拶もなしに出て行っちゃいました、。」《裏話》
前回のあらすじ
領主の屋敷に忍び込み、暗殺未遂みたいなことして逃亡。
「ただいまー」
私は扉を開け、家の中へ入る。バタンという音がなぜか私を凍えさせる。
でも次に待っているのは暖かい「おかえりだ。」
「おかえり、どうだった?」
私は首を横に振る、今日も来なかったというのはなんだか言いずらかったからだ。
「そっか、まぁ突然だったもんね。」
私は冷え体に持っていた薪をいくつか暖炉にいれ残りは近くに置いた。あの日から数ヶ月、夏だった日は秋を過ぎ、冬になった。でも昨年のようなとても寒い冬とは違う。今年の私たちは裕福に暖をとれる、そこまで硬くないパンや、野菜が多く入ったスープ、元気な姉。全てが揃っている。ただ一つあの日から姿を見かけていないお兄さんを除いて。
「お姉ちゃんのこれあげる。もっと食べた方がいいよ。」
「ふふ、ありがと。」
姉は今年の秋にアジットさんと結婚した、新居に移り住み夫婦として仲良く過ごしてほしい、というのが私の願いだったが、、私のことを気にかけて今日も夕飯を作りにきてくれている。私は一人で生活できると言ってはいるがそんなことお構いなしに姉はくる。嬉しくないわけはないのだが、、。姉にはもう少し自分の幸せを願ってほしい。
お兄さんが忽然といなくなった日から私たちの生活が変わった。丸々太っていた領主が私たちの村に来たときは怖くなった。アジットさんが言っていた言葉からお兄さんがしそうなことは想像に難くなかった。そしてそれゆえに領主がわざわざ来たという事実が怖かったのだ、、、ところが領主はとんでもなく変わっていた、姿も性格もだ、前は気持ち悪いという一言だけがピッタリな性格、形をしていたものだが現れた領主はやせ細っていて、前のような覇気はなく、とても優しかった。呪いをかけた姉に謝罪をし村の整備、などにとても力を入れるようになった、他の村にも同様なことをしている。思い切ってお兄さんのことを尋ねてみたところ、多くの感謝の言葉と行方知らずのことが直々に伝えられた、「彼のおかげで〜」っというのが領主の口癖となっていた。
それゆえに姉も私もお兄さんにお礼がしたかった。がそれももう3年前の話、今じゃ「さようなら」という一言を言いいたい、それだけだった。挨拶もなく風のようにさってしまったお兄さん、名前すら聞けなかった。
彼は私のことを忘れているのではないかと思い始めてきた。
コンコンッ。
扉を叩く音が聞こえる、アジットさんだろうか?。私は椅子を離れ扉の前に立つ。そして扉を開ける。
「、、、?」
しかしそこには誰もいない、自然に視線を落とす。茶色の紙袋に包まれた四角い紙?、誰からだろう。
そこに置いてあった、包みを拾い私は家の中へ再度入る。扉をしっかり閉める。
「誰からだったの?」
「わからない」
私はそう言う、ただ手紙だけが雪の中へ埋もれていただけだったからだ。姉は私の受け答えに何も疑問を感じていないようだった、まるで悟ったようだ。
私は椅子に座り興味本位から包みを開ける。
そこにあったのは手紙だった《メーネちゃんとメイルさんへ》と書いてある。ちゃん??
彼はそんなふうには言わないと思う。だがどことなく感じる、彼がこれの執筆者だと。
その夜私は遅れた「さよなら」をもらって眠りについた。
《ファーストメモリー》 –完–