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里帰りは悋気と共に 4

 やや余所行きなドレスを来て臨んだ、リーンへ来て最初の夕食。そこでシンシアはなんとも微妙な気持ちを味わっていた。


 理由は今日、突然夕食に参加することになったレンブル夫妻だ。そのうちレンブル夫人がどうも、トーマスに好意を抱いているようなのだった。


 レンブル氏は弱冠20歳の優しげな青年だ。しかし、リーンからさらに馬車で2時間以上かかる田舎町出身ながら、王都の寄宿学校を飛び級で卒業し、トレシア王国へと留学した秀才なのだという。

 もちろん王都にも就職先はあったが、故郷に貢献したい、とレイクトン家を選んでくれたらしい。

 トレシア語はもちろん、ほかにも複数の外国語を操るレンブル氏。彼は以前から話はあったトレシアへの茶器の輸出時事業を成功させ、レイクトンに入って早々に、その評価を盤石にしたらしい。


 そんな彼の妻アリスは、絹のようなブロンドが長身に映える美人。歳の頃は20代後半ぐらいだろうか。トーマスとシンシアと同じぐらいの歳の差だが、家の事情が絡む結婚ではよくある年齢差でもある。


 事実彼らは政略結婚で、レイクトン家以上に困窮していたアリスの実家が、将来性豊かな青年に未来を賭けたのだという。

 そんな訳もあってか、彼ら2人の間にはトーマスとシンシアが結婚した当初のような微妙な空気感が流れていた。


「トーマスさんは大陸の方へ出かけた経験がお有りなのですよね? 私の夫も外国を相手とした商売をしておりますから、いろいろご助言いただきたいですわ」

「ええ、構いませんよ、レンブル夫人。後ほどサロンでご夫君も交えてお話いたしましょう」

「まあ! 楽しみですわトーマスさん。……ですが、夫は多忙なので……私だけでお聞きしても良いですわよ」


 食事中、アリスは幾度となくトーマスに流し目を送っている。まだ会って1時間程なはずなのに、彼女はトーマスを名前で呼び、少々親密すぎるほどの真っ直ぐな笑顔をトーマスに向けている。

 彼女は自分の美しさをよく理解しているのだろう。その笑みは自信に溢れており、シンシアはなんともむず痒い気持ちに駆られた。


「ああ……そうだ、ブラッドリーさん? 明日の午前中なのですが、早速我が家の客室を見てもらっても良いでしょうか? 一応修繕は済ませましたが、ティリアのお客様のお眼鏡に叶うかご意見をいただきたいのです」


 微妙な空気が流れた食卓で、なんとか軌道修正を試みたのはシンシアの父だった。


「ええ、もちろん。構いませんよ。妻も同行しても?」

「まあ!? シンシアさんは夫の仕事に顔をお出しになるの?」


 一も二もなく承諾したトーマスだが、その後に続いた言葉にアリスが大きく反応する。

 彼女はトーマスに不思議そうに微笑んで見せた後、シンシアを一瞬睨みつける、というなんとも器用なことをしてみせた。


「ティリアからのお客様は全員妻帯とお聞きしております。で、あれば女性の視線もある方が良い。レンブルさんも奥様を伴われてはいかがでしょうか?」

「い、いえ……私は……」

「私は午前中、別件がありますの」


 トーマスの提案を、アリスは美しい笑みでしかしピシャリと否定する。しかしその後彼女は蠱惑的な笑みをトーマスへ向けて見せた。


「……ですが、午後からは空いてますのよ? よろしければお近づきの印にお茶でも……」

「お誘いいただき光栄ですが、午後からは私に所用がありますので」

「あら……そう。では仕方ありませんわね」


 アリスはやや下を向いてそっと息をつき、それから吹っ切ったような笑みをトーマスに向ける。

 その表情、動作の一つ一つが計算されているようで、トーマスの隣に座るシンシアは気が気でなかった。


 夕食の後は、男女分かれて過ごすのがこの国の一般的な過ごし方だ。男性陣はシガールームでタバコや酒を楽しみつつ、カードなどに興じ、一方女性陣はサロンでお茶と菓子を手に談笑する。


 当然それぞれのホスト役を務めるのは、その家の当主夫妻。客人を家に招くにあたっては、夫と妻にはそれぞれに別の力が求められる。

 若いレンブル氏が歳上の妻と早くに結婚したのには、アリスの社交経験をかったという面もあるようだった。


 ただし、今日は少し事情が違う。レンブル夫妻がトーマスの助言を求めたこともあり、一向は揃ってサロンへ移動し、そのまま食後の茶会をすることになった。


 レイクトン家の料理人が焼いた茶菓子と、ブラッドリーのお茶を囲み、トーマスの海外経験の話に華を咲かせる。

 ただ、相変わらずレンブル夫人はそっとトーマスに流し目を送り、機会を見てはそっと彼の傍に寄ろうとする。


 それらの動きをトーマスは黙殺しているようだったが、とはいえシンシアにとって良い心地はしない。

 結局リーン一日目の夜を、シンシアは悶々とした想いを抱えながら過ごすことになるのだった。

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