黄昏れた空の下で
少女が一人、黄昏れた空の下で歩いていた。
歳の頃は、十代半ばと言うところだろうか。
黒い髪は短く切り取られている。そう表現したのは、刃物で大雑把に切り落としたとしか思えない様子からである。
髪質は枝分かれ、ぼさぼさとしていて、艶があるとは言い難い。
目つきは無感情にニュートラルで、取り立てて鋭さもなければ、甘さもない。少女らしい溌剌さなどは、欠片もなかった。
瞳は黒々として、透明な世界をありのままに映しながら、固い意志を秘めている。
頬は薄く土汚れていた。短髪も相まって、少年かと見紛うほど、精悍な顔立ちをしている。
線は細く、体の輪郭はまったく子供じみていて、女性らしさというものをほとんど感じさせない。
自立した一人前を漂わせる風貌ながら、小さな身体には、どこか危うさというか、ちぐはぐな印象を与えるのだった。
右手の薬指には、複雑な文様の刻まれた白いリングが、一つだけ嵌められている。
少女は、大きな迷彩色のリュックを背負っていた。中には水や食糧など、生きていくために必要なものだけが不愛想に詰まっている。
左腰には緑色のポーチを備え付けている。こちらは主に、探検に適した小道具が入っているようだ。
右足にはいつでも抜けるよう、括り付けたシースにナイフが刺さっていた。
少女は、おそらく――旅をしていた。
果たして行く当てがあるのか、ないものか。じっと前方を見据える瞳を窺うだけでは、何もわからない。
静寂な世界に、のどかな河川風景が広がっていた。
夕暮れの薄明かりを美しく照らして、小川が流れている。耳をすませば、羽虫の鳴く声や、小鳥のさえずる声が遠くに聞こえるだろう。
だが少女はまったく無関心に、断固として歩み続けていた。
行く道の向こうまで、腰の丈ほどもある草が、もうもうと生え茂っている。
かつて土手と呼ばれた人類の営みは、わずか細い獣道を残すばかりとなってしまった。
やがて一番星が瞬き、陽光は彼岸に去って、夜の帳が下りてくる。
もうすぐ、日が沈む。
少女はそこで、初めて足を止めた。
脇を見やれば、崩れ去った栄華が、ほとんど大自然に呑まれつつある。
少女は一つ小さく頷くと、再び足を速める。
土手沿いの進路を逸れ、猛る草を強引に掻き分けて、思い切りよく坂道を下っていった。
夜は巨大な蟲や、夜行性の猛獣が支配する世界だ。脅威から身を隠し、暖を取るに適した場所を探さねばならない。
蔦に覆われた瓦礫の迷宮へと、少女は力強く歩を進める。
後ろ姿が薄闇に溶けて、そして消えていった。