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二話目 パックマンの勉強

帰路についた。

 桜と武史は一緒に帰ることになった。

 武史にとっては幸い駅の路線も同じ方向だった。

 ただ、駅の本屋に寄りたいと武史が言うと

「いけないんだー。校則違反」

 と桜はちゃちゃを入れ、コロコロと笑った。

 確かに入学初日に寄り道をするのも中々柄が悪いかもしれない。

 柄の悪い寺川の影響を受けたか。

「あのLINE、交換しない?」

 武史は思い切って言った。

「ほら、将棋のこととか、色々教えてもらいたいしさ。」

「いいよ、QRコードでいい?」

 武史は内心ガッツポーズをした。今日の将棋で勝ったことくらい嬉しいかもしれない。

 本屋には桜もついてきた。

 結局、「桜も校則違反しているじゃないか。」などと野暮なことは言わない。

 こうやって本屋デートもどきが出来るだけで望外なのだ。

「なんの本探すの?」

 桜が訊くと

「パックマン戦法の本…」

 と武史は答えた。なんだか気恥ずかしい。

「え、じゃあ、将棋部、一緒に入る気になってくれたんだ!」

「いや入らないよ」

「え?」

 桜が言った。

「将棋が面白いのは分かったけど、今年から数学オリンピック日本代表になるのが目標なんだ。だから、将棋やっている暇はないんだ」

 そういながら趣味のコーナーにたどり着いた。

 将棋コーナーは将棋の本だけで1つの棚を占領するほどたくさんの種類があった。武史はこの国で将棋というものがこんなにも人気であることに少し驚いた。

 その中でパックマン戦法を取り扱っている本はたった一冊だけだった。『奇襲破り事典』をレジで購入した。

 そこで、自分がやっていることと発言に矛盾があることに気づいた。数学オリンピックのための勉強はどうした。

「パックマン、勉強するんだ。がんばってね」

 桜が言った。

 まあ、気分転換も大事か。



 帰宅。

 武史の今日の収穫、桜のLINE。それから、入部試験での勝利。

 まず桜のLINEをゲットしたこと。これは僥倖と言えるだろう。あのクラスでLINEを手にした男子は武史が一番早いだろう。まあ、クラスLINEから手に入れる方法もあるが。意を決して直接聞き取ったことに意味があるのだ。

 

ただ、それ以上に、武史は将棋というものに興味が湧いてきていた。先輩たちがパックマンだ、パックマンだと騒いでいたので、武史も調べてみたのだが、その進行は自分で指した対局によく似ていた。

 将棋における定跡と言うなれば数学の公式に当たるのだな、と武史は解釈した。例えば2倍角の公式は自分で導くことができるが、それでは時間がかかるし、試験の時間内に収めることができない。将棋も時間制限があるなかで序盤に時間をかけすぎると良くないらしい。

 そこで、武史は将棋ウォーズというアプリを入れてみることにした。

 ちなみにパックマンは角道を開けている方が取ってこなかったら普通のノーマル振り飛車にするか、居飛車なら雁木、矢倉、場合によっては穴熊囲いになるそうだ。

 武史は桜におすすめされたのもあって、パックマンをして歩を掠め取られなかった場合、ノーマル四間飛車を組むことにした。

 この戦法は組みかたがとても分かりやすく、初心者にもおすすめされているようだった。

 武史は将棋アプリで敵の強さを少し強い設定にして対局に潜ってみた。

 その結果は2勝1敗。1級、1級、初段だった。最後の初段はパックマンの歩を召しとってくれず、武史は初めて指すノーマル四間飛車を指すことになり、うまく指しこなせず、負けた。

 ノーマル四間飛車、勉強してみるか。

 武史は数学用に普段使いしているノートを取り出して、勉強を始めた。

 



「俺が勝ったら、入部してもらう。お前が負けたら、別に入らなくてもいい」

 翌日、寺川は自信満々にそう宣言した。

 なんて理不尽な。

 武史は昼休みに屋上に呼び出された挙句、無理難題を強いられた。

「それって将棋が強かったら必然的に将棋に興味があるから、入部したくなるし、将棋が弱くても入部しないといけないって矛盾、起きていません?」

 武史は不平を唱えた。

「ルールは平手。先手後手は振り駒で決める。振るのは俺。」

 寺川はそう高らかに言った。

「あの、その勝負って私もやりますか?」

 桜は恐る恐る質問した。

「いや、和田はすでに入部すると言ってくれているから、対局はしない。問題はこの聞かん坊だ。」

 何が聞かん坊だ。

 聞かん坊は憤慨した。

「そんな不公平な勝負、飲みませんよ」

「おっと、逃げるのか。」

「そんな安い挑発、乗りませんよ」

「そんなこと言っていたら、この先の人生でも逃げ続けることになるんだろうな。それで、ふと30歳、40歳になった時、思い返して、『ああ。あの時、あの試合を受けておけば良かった。将棋部に入ってさえいたら、人生変わったのになあ。』と振り返ることになるんだろうな」

 寺川はおおげさな身振り手振りでのたまった。

 武史はそんな挑発を見てかえって冷静になるのを感じた。

「でも、私も入って欲しいけどな、将棋部。」

 そこで桜が一言、言うと

「仕方ないですね、勝てば入らなくていいんですよね?」

 武史は仕方なさそうに肩をすくめていった。


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