あの日々を永遠に
救いのないバッドエンド、注意。
明るい話を書いていた反動で溜まった闇を吐き出しました。
怪我をしても一瞬で傷が塞がる私を、誰もが気味悪がって疎んだ。
両親も例外ではない。
六歳のあの日、木登り中に転落しておかしな方向へ曲がった腕が、心配して駆けつけた両親の目の前でメキメキと音を立てながら治っていくのを見た時の表情は忘れない。
厄介払いに売られた見世物小屋では、誰もが嫌悪と好奇心をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせた不気味な瞳で私を見て、そして傷付けた。
元から痛みにも鈍いようで、それだけは救いだった。
でも、痛みがないわけじゃない。
そんな月日の中で、あなただけが私を必要としてくれた。
私の能力が欲しいと、安くはないお金まで払って、私を家へ迎え入れてくれた。
幸せだった。
鍵のかけられたカビ臭い地下室は、見世物小屋の檻よりもずっと広い。
幸せだった。
あなたは好奇心と探究心でいっぱいの、輝く瞳で私を見つめてくれる。
幸せだった。
脚を切り落とされても、皮を剥がれても、死にそうなほどの大怪我をしても、たちどころに治る私を見て、あなたが喜んでくれるから。
幸せだった。
私にはあなたしかいなくて、変わり者のあなたにも私しかいなかった。
幸せだった。
二人だけの、『実験』の日々。
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ある日地下室にやってきたあなたは、いつもの青白い頬をわずかに紅潮させていた。
実験中もどこか上の空で、腕を焼くはずだったのに脚を焼かれてしまった。
どうしたのかと聞くと、あなたは饒舌になって教えてくれた。
しげく通う薬草店に、新人の少女が入ったのだと。
明るく分け隔てない態度で、こんな自分にさえ笑顔で対応してくれるのだと。
薄暗い薬草店の中で、彼女のまわりだけが日だまりのようだと。
ああ————果たして私はどうすればよかったのだろう。
地下室の扉に、もう鍵なんてかかっていないことを知っている。
従順な私は八年間、一度も外に出ようとしたことなどなかったから。
足音が十分遠ざかったのを聞いて、私は初めて地下室を出た。
そこは実験器具置き場だった。
刃物や工具が並ぶ棚を越え、薬品棚の前で足を止める。
いつかあなたは言っていた。
「なんだ、内側からの毒は治癒しないのか」と。
膨大な薬品の中からあの日見た小瓶を探せば、宝石のように輝いてガラス扉の中に収まっていた。
きらきらと揺れる蒼い液体は、いつか見たあなたの瞳によく似ていた————。