第二十五話 従兄弟、ドワーフ一家を連れて帰る
(おいおい!なんだこの押しの強い髭モジャ親父は!!)
リュークたちはドワンと名乗った一家を連れてとってあった宿へと移動することにした。
なぜなら酒場で話すにはミスリルという話題は非常に危険だからだ。
なお、不用意にミスリルという言葉をポロリしたコクガにはネールスロースへ帰った後容赦ないお仕置きが待っている。
「で、改めてミスリルの話が聞きたいんだったよな?」
3人仲良くソファーに腰かけたドワーフ一家はそのまま自己紹介を始めた。
「儂はドワン。さっきも言ったがドワーフで鍛冶については誰にも負けん自信を持っちょる。もともとは妖精国グリムで鍛冶屋をやっとったんじゃが、最近は面白い依頼がなくての。大陸一の帝国に来たら何か面白いことがないかと思ってやってきたところじゃ」
この髭モジャで140cm程度のゴツイ男は名をドワンといい、妖精族の一種であるドワーフであるとのことだった。彼の説明によると、ケルヌンノス獣国よりさらに奥にある妖精国グリムの出身で珍しい鉱石を目当てにこのルードヴィング帝国にやってきたところだったらしい。
「私はカーラ。この人の妻で同じくアクセサリーなどの細工師をしてるわ。」
同じく140cm程度で髭はなく、旦那と違いシュッとしている彼女は旦那と同じく鉱石を扱うものの、武器ではなくアクセサリーを専門としているとのことだった。
話してみるとおしとやかそうではあるのだが、彼女もミスリルの話を酒場でした時は目が血走っており、普通の女性ではなさそうである。
「ん。あたしはローラ。鉱石をイジれるならなんでも構わない。」
最後は二人の娘のローラで、旦那と違い小柄で可愛らしいのだが、やはり両親の血なのだろう。
鉱石に目がなく、鍛冶も細工も両方をこなすとのことだった。
「ドワンたちがなぜ俺たちに声を掛けてきたかはよくわかったぜ」
(本当に鉱石が好きなだけみたいだし、何よりドワーフだからな。どっかの回し者って線も薄いだろうな。これはコクガのお手柄かもしれんな。あとでネルスにはお仕置きは程ほどにと頼んでおくか)
リュークが考えていることがわかったのか、コクガはリュークを縋るような目で見つめ懇願するように何度も頭を下げている。
「本当にミスリルを持っておるのか?」
しかし、鉱石大好きドワーフ一家は早くミスリルを見たい気持ちが先走っており、現物を見せろと圧をかける。
なんといっても酒場からここまでお預けを喰らっているのだ。
3人はもう我慢の限界まできていた。
「わーかった!わかったから!落ち着け!ブーム頼む」
そんな様子にリュークもタジタジですぐさまブームにミスリルを出すように伝える。
その声に応じて、ブームも鞄の中から持ってきていたミスリルを取り出し、机に置く。
「うおー-ミスリルじゃ!本当にミスリルじゃ!何年ぶりかのう!」
「綺麗なミスリルね!これならきっと素敵なネックレスが作れるわ!」
「ん!どっちでも構わないから早くイジりたい」
ミスリルを前にリュークたちをそっちのけで盛り上がる3人に対し、リュークたちは完全に引いていた。
(やっぱり鉱石キチガイじゃねえか。おい責任取れよコクガ)
(面目ねえでやんす。でもこれは手に負えないでやんす)
(リューク様がなんとかするしかないモ)
あまりもの勢いの3人を前に部下の誰かに相手を任そうとしたリュークだったが、部下たちもお手上げだと匙を投げた。
「お前たち3人は珍しい鉱石があればそれでいい。で、頼んだら武器やアクセサリーを作ってくれるって理解でいいんだな?」
「なんじゃと!これを儂らに任せてくれるというのか!」
「まぁ素敵ね!」
「ん、間違いない」
「あぁ、ただこの街じゃなくてネールスロースってちょっと危険な辺境の街に行かなきゃなんねぇんだがそれでもいいなら鉱石は任せるぜ?」
「行く!行く!儂らは絶対に行くぞ!」
「もちろんよ!行くしかないわ!」
「ん!はやくいく!」
(こいつら鉱石バカ過ぎてすぐに詐欺にあいそうだな)
あまりに単純なドワーフ一家を見て一抹の不安を持ったリュークではあったが、諦めていた職人を3人も確保出来たことで内心ではガッツポーズをしていた。
その話し合いから1週間後。
ドワーフ一家を連れたリュークはネールスロースのネルスの屋敷にいた。
シュバーベンからネールスロースまでは普通の人の足で10日ほどかかるのだが、鉱石に目が眩んだドワーフ一家の速さは凄まじく、黒豹族までとは言わないものの驚異的な速さでネールスロースまで辿り着いたのだった。
なお、初めてネールスロースについて客人は外壁の大きさや住む人種の豊富さや珍しさといったものに目を惹かれるのだが、筋金入りの鉱石バカのこの一家はそういったものには目もくれず、一心不乱にネルスのもとを訪れた。
「俺がこの街の領主をやってるネルスだ。話はリュークから聞いたよ。ミスリルを扱うことが出来る上にこの街に移住してくれるんだって?」
「その通りじゃ!鉱石の加工は儂ら一家に任せて欲しい」
勢いよくバサッと頭を下げる3人を前に、ネルスはこれなら任せてもいいかと思案していると隣に座っていたフランメが驚きの声をあげる。
「なんじゃ!3人ともユニークスキル持ちではないか!」
「「なに!ユニーク持ちだと!」」
驚きのあまり声を揃えるネルスとリュークを他所に、いきなりユニークスキル持ちであることを言い当てられたドワーフ一家は初めて警戒の色を見せる。
「なぜ一言も言っておらんのにわかるのじゃ」
「(なんだか他の者に“じゃ”と言われると調子が狂うのう)それは我が爆炎龍で龍眼を持っておるからじゃ」
その後はいつもと同じくフランメが爆炎龍であることを説明し、なんとかドワーフ一家もそれを受け止める。
なんでも3人は鉱石好きということもあったが、ユニークスキル持ちの一家ということで周囲が煩わしいこともあって妖精国グリムを出国することにしたという事情があったらしい。
しかし、ここにはネルスやフリードリヒ、おまけに爆炎龍がいると聞いてユニークスキルが珍し過ぎないことを聞くと安心したらしい。
「正式に移住することも決まったし、これから商業区にある保管庫に案内しよう」
そうして保管庫に案内されたドワーフ一家だったが…
「天国じゃ!天国がここにあったぞ!」
「これならいくらでも作れるわ~!」
「ん、天国。一生ここに住む」
大量の鉱石を前に狂喜乱舞し、正気に戻ったのは翌日のことだった。
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