第二十話 皇后、帝都に帰還する
ネールスロースを出て半月、エレーナたちはようやく帝都へと帰還した。
そしてエレーナはその足ですぐに皇帝の執務室へ向かった。
コンコンコン
「誰だ?」
「私、エレーナです。只今ロストアースより帰還しました」
「おお、戻ったか。入ってくれ」
エレーナが扉を開けるとコーネリウス・ユリウス・リチャードの予想通りの3名が部屋にいた。
「帰還報告ぐらい休んでからでもよかったのに」
もちろんエレーナたち視察団が帰還したことは城内の衛兵たちから聞いていたので皇帝たちは知っていたが、まさか着替えもせず直接自分の部屋に来るとは思わず少し驚いていた。
「なんだか楽しそうですね母上」
「うふふ。流石はユリウスちゃんね。その通りよ。ネルスちゃんの街はすんごく楽しかったわ」
「なんだか報告を聞くのが怖くなってきた…」
これまでの真面目な態度から一転し、いつも通りの家族の前での崩れた口調で楽しそうに話すエレーナを見て皇帝は頭を抱えた。
「荒唐無稽過ぎて信じてもらえないと思うんだけど、ネルスちゃんはすごい街を築いていたわ」
「それはいい意味ですごい意味なんだな?」
なんだか悪い予感しかせず、恐る恐る尋ねる皇帝
「もちろんよ~」
「ちょっと待ってくれ。一度心の準備がしたい」
そう言うなり、深呼吸を始めた三人組
「「「よし、聞こう」」」
いくつか話さないといけないことがあるんだけどねと前置きしつつ、エレーナは自身が体験したことを一つずつ説明を始める
「ロストアースに着いたと思ったらね、真っ黒の巨大な壁に覆われた壁が見えてきたの」
「真っ黒な壁ですか?」
「ユリウスは見たことがなかったな。恐らくフレデリックの権能だろう。なんとも贅沢な城壁なもんだ」
まだフレデリックが権能を使うところを見たことがなかったユリウスに対し、コーネリウスはあっさりと正解を告げる
「そうなのよ。それが外壁になっていてね。内側には畑や果樹園、家畜などが行われていたわ」
「おお。街の運営としてはうまくいってるようじゃないか」
「それがね…。」
「「「それで?」」」
「そこで採れた野菜や果物がとっても美味しいの」
「「「美味しいのは良いのでは?」」」
「ネルスちゃんはなんでもないような顔で出してきたけど、あの味は異常よ。あれが市場に流れると他の野菜や果物は売れなくなるわ」
「エレーナが言うなんてとんでもなく美味いんだろうな」
「しかし、作り方をネルスに教えてもらえば市場を破壊せずに、農業の向上を目指せるのでは?」
「それがね、ロストアースの濃厚な魔力を含んだ土と空気が影響してるらしいのよ。だから他では無理よ」
「なるほど。ではロストアースの武器となりそうですね」
「あ、そうそう。ロストアースの街は『ネールスロース』と名付けたそうよ。」
「ネールスロース…ネルス、いや寝る皇子に怠惰か…。ネルスらしいネーミングだ」
「話を戻すわね。その畑や果樹園を超えるとまた真っ黒の壁に囲われた街が現れてね、700人近い人が住んでいたわ」
「「「700人!?」」」
3人組は予想していたよりも倍以上の数字を告げられ、思わず声を上げる。
「一体どうやってそんなに集めたんだ?」
「大半は予想通り旧トランプ連合国から集めた獣人たちだったわ。向こうへ移った次の日には街を襲撃したって言ってたわ」
「「「行動力があり過ぎる」」」
「ここまでは問題ないの。これからが問題でね。まずは黒豹族と象人族というほとんど聞いたことのないような伝説の獣人がいたわ」
「黒豹族に象人族だと…」
「象人族はあの大きさ故に目撃情報もこれまで数件ありましたが、黒豹族など目撃情報もほとんどなかったはず…」
「これは素直に報告を上げると義姉上が嘘を報告したと思われますな」
「でしょ?あとはね、魔物もいたわ。ミノタウロスが」
「「「ミノタウロス!?」」」
この日何度目になるかわからないほど驚き続ける三人に対し、エレーナは心の中でそのあまりにも息の揃った声に若干引いていた。
「え、えぇ…ミノタウロスがゴロゴロいたわ」
「あのAランクのミノタウロスがゴロゴロか。ミノタウロスに黒豹族、象人族。おまけにフレデリックと化け物ネルス」
「どこの国と戦争するんだって超戦力が揃ってますね」
「こりゃ義姉上が急いでここに来るわけだ」
「でね、最後にもう一つ。ネルスちゃんに婚約者が出来ていたわ」
「「「ネルスに婚約者!?」」」
「信じられん。あのネルスが婚約者を作っただと」
「もちろん母上はお会いになったんですよね?」
「ええ、会ったわよ。とても凛々しくて可愛い娘だったわ」
エレーナはここで初めて意図的に報告を誤魔化した。
表向きは爆炎龍を妻になどと言うと、隠していても三人にぎこちなさが出てしまい、外に漏れる恐れがあるとしていたが、その実は三人がネルスを自分に黙って辺境へやったことに対する意趣返しだった。
(ふふ。嘘はついてないわ。嘘わ)
「ちなみに種族は?黒豹族か?それともミノタウロスか?」
「それは会ってからのお楽しみよ。とても高貴な身分でネルスちゃんの奥さんとしても申し分ない、とだけ言っておくわ」
それを聞いた三人は思わず顔を見合し、エレーナがまだ前回の件を根に持っていることを知った。
そしてどうせ新年の挨拶にネルスが連れてくるだろうと聞き、そこで確かめればいいかと納得してしまった。
あんなことになるとは思いもせずに。
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