第十一話 寝る皇子、爆炎龍を街へ連れて帰る
「フォッフォッフォ。まさか人化出来るとはのぅ。」
「ヒュー別嬪じゃねえか。」
「お前、爆炎龍だよな?女だったんだな。」
「そうじゃ。我が爆炎龍フランメじゃ。旦那様よ。」
「「ブッ」」
フランメの唐突な旦那様呼びに噴き出してしまうリュークとヒョウガ
「おいおい、待て!旦那様ってのは俺のことじゃないだろうな」
「お主以外にいるまい。我を無理矢理押さえつけるなぞ他の【四龍】でも至難の業じゃぞ?我は旦那様の強さに惚れたから番になるのじゃ。それが我の願いじゃ。」
「ワハハハハ。いいじゃねえか、これで中央のくだらねえ権力争いに巻き込まれることもねぇし。それに貴族の娘どものお前や俺に対する目は気に入らねえし。」
ネルスやリュークは皇族ということもあり、幼い頃から許嫁にという話は多々あった。
しかし、怠惰なネルスと大雑把なリュークを見た令嬢たちはあまりいい視線を彼らに向けることはなかった。
なによりネルス本人はどこか貴族から娶ると貴族のバランスが崩れる問題恐れがあることから、結婚するつもりはなかった。
「フォッフォッフォ。爆炎龍を妻になど、流石は若ですな。」
「ネルス様おめでとうンモ」
「大将の嫁ならドラゴンじゃないと務まらねえかもな。シッシッシ。」
「お前だけ抜け駆けかよ!おれも相手見つけてやるぜ。」
「どうやら我は認められたようじゃな。末永くよろしく頼むぞ旦那様。」
「おい、おれは認めてないぞ。」
「往生際が悪い奴め。こんな別嬪でめちゃくちゃ強いんだからいいじゃねえか。」
「若が異種族と結婚するのは今後のネールスロースの発展を考えるといい見本になるかもしれませんな。」
「はぁ~わかったよ。こっちこそよろしくな、フラン。」
こうしてネルスたちは新たに爆炎龍フランメを仲間に入れネールスロースへ戻っていった。
フランメはネルスの腕にピッタリと絡みつき、満面の笑みを浮かべていた
ネルスもやれやれとは言ってはいるものの、本気で引き離そうとしないあたり、フランメを憎からず思っているようだった。
「ところでどうして俺たちがユニーク持ちだとわかったんだ?」
「我の龍眼を持ってすれば相手の魂の色を見れるが、ユニーク持ちは魂の色が違うのでな。そっちのジジイのはスキル名までわかったが、旦那様はわからんかったんじゃがな。」
龍眼はスキル名はおろかユニークスキルですら見通すことが出来る龍王が持つユニークスキルに含まれる権能だ。
「しかし我の龍眼でも見通せないなど初めてのことじゃ。旦那様のユニークスキルは一体なんなのじゃ?」
「【理外の才】といってな、一般的に考えられている理に囚われないというスキルだ。それに含まれる権能に【完全耐性】ってのがあって、俺に毒や薬、鑑定の類は一斉通じない」
ユニークスキル持ちが少なく、わざわざ公表する必要もないことから秘匿されているが、ユニークスキル持ちには毒や麻痺、睡眠剤といったものは効果をなさない。
なぜならばユニークスキル持ちは必ず【状態異常耐性】という権能を有しているからだ。
しかし、ネルスの場合【理外の才】によって強化された【完全耐性】へと進化しており、鑑定でスキルの有無すらも相手に悟られないようになっているのだ。
この【完全耐性】が原因で帝国内ではネルスは無能、つまりスキルを一斉持っていないと思われてしまっているのだ。
「それはまた破格じゃの。旦那様に本気で敵対せんでよかったのじゃ。」
「見えてきたな。あれが俺たちの街ネールスロースだ」
「ほぅ。これが出来たばかりじゃと?」
ネールスロースはネルスがぐうたらしている間にたくさんの家が獣人たちとミノタウルスが協力して建てていたので既に街として最低限の形は出来ていた。
ネルスたちが帰ってきたのを見つけた門番が声をかけようとして見慣れぬ人物がいることに気付き戸惑っている。
「おう、お疲れさん!あれは大将の嫁さんで爆炎龍だ。ちょっかいかけたら消し炭にされるから他の奴にも言っとけよ」
「へ?爆炎龍?大将の嫁さん?」
門番は想像以上の情報量の多さに理解が全く追いついていない
「おい、ヒョウガよ。我は旦那様の配下には手を出さんぞ。あんまり酷い時は別じゃがな。」
門番はその獰猛な笑みを見て目の前にいる美女が爆炎龍であることを本能的に理解する。
「も、もちろんですぜ。大将の嫁さんに手を出す奴なんざいやせんぜ。」
その後も会う街人のみんなに声をかけられながらネルスの屋敷へ辿り着く。
「お帰りなさいませ、ネルス様。そちらがお噂の奥様ですか?」
引き続き獣人のまとめ役をやっているチュータロウが出迎える
「そうだ。チュータロウも働き過ぎるなよ?俺たちも一休みしたら食堂へ向かうとするよ」
ネールスロースでは大きめの食堂が作られ、そこで街全体の食事を作って皆がそこで食べていた。
食堂は娼館で働いていた28名の獣人の女性たちが中心となって働いており、エミリーがまとめ役を務めていた。
今日のメニューはビッグボアをつかったトンカツだ。
「なんじゃこれはーーー!美味い、美味過ぎるのじゃ!旦那様はこんなものを食べておったのか!ずるいぞ、ずるいのじゃ!」
フランメは滝の様な涙を流しながらトンカツをほうばっている。
周囲はその光景に呆気に取られ手が止まっている
「好きなだけ食っていいからゆっくり食えよ。喉につまらせたら大変だぞ。ドラゴンが喉を詰まらせて死ぬとは思わんがな。」
「おかわりじゃ!ん?ドラゴンが喉につまらせるなどゴホッゴホッ、水、水をく、れ」
「言わんこっちゃない。ほら、ゆっくり飲めよ」
「ゴクゴク、っはー。生き返ったのじゃ。しかしこれが料理か。もう焼いただけの肉など食えぬのじゃ。」
「こちらこそよろしく頼むぜ?奥さんよ。」
「お、お、奥さんじゃと。も、もう一度言うのじゃ。おい、聞いたかギリー!」
顔を真っ赤にしたフランメは隣にいたギリーの首を掴み前後に振り回していた。
「お、おいやめろ!ギリーが死ぬ!」
街にまた賑やかで個性的な仲間が加わったのだった




