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黒世廻者達〜マヨネーズ〜  作者: 鯛の倒立
篇首草創の章〜邂逅祭編〜
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第四十四話 邂逅祭・次


「獅子の顔に五本の脚……間違いないわ、あれは悪魔ブエルよ」


 ランドたちと合流し、共に魔物から距離を取ったアリナがその知識を披露する。


 アリナは街中央から魔物が(あふ)れ出してきたとき、咄嗟(とっさ)に東側に飛び出し、同じく東側で防衛線を築くことになった『宮廷騎士団』の者たちと協力して、魔物たちが街中に溢れ出すことを防いでいた。


「状況は理解出来てる? 多分街の四方の門は全部閉じられているわ。“赤備え”は皆を南に誘導してるけど、南門も同じだと思うわよ」


 悪魔(ブエル)の動きに目を配りながら、ランドからもアリナに情報の共有を働きかけた。


「少なくとも、オレがアサラに戻った時は門は開いてたぜ。それよりメロディが行方不明で今テオフィルが……」


「――アリナ姉っ!」


「おい待て、一人で行くと危ないぞ!」


 突として現れたのはテオフィルと、その後を追いかけるロルフの姿であった。


「テオ! あなた何でここに……」


「申し訳ございません団長。不覚を取りまして、あの娘……」


「待てロルフ、ある程度の事情は承知している。お前にも唄声は聞こえたか?」


「ちょっと待てお前ら、お喋りは後だ!」


 ランドが悪魔(ブエル)を指差し、振り向きざまに人間たちを横目で見る悪魔(ブエル)の左目と全員の視線がぶつかった。


 目が合っただけで猛者たちの全身に悪寒が走り、テオフィルに至っては(ひざ)が崩れそうになるのを辛うじて堪えていた。

 次の瞬間、悪魔(ブエル)(たてがみ)が撃ち放たれたように宙へ舞うと、地を揺らすほどの獅子の咆哮が周囲に衝撃波をもたらした。


「来るわよ――!」


 アリナが言い終えるのを待たず、放たれた(たてがみ)は無数の矢と化し、夜闇に(おお)われた頭上から雨のように降り注がれた。

 命中精度こそ高くはないが、その数はとても避けきれるものでなく、皆は全身でもってその攻撃を受け止め、一様に大地に倒れ込む。


 口から血を(したた)らせながらも顔を上げ、悪魔(ブエル)(にら)みつけながらランドが吐き捨てた。


「クソ団子が、なんだ今のは」


「大丈夫テオ!? あなたは退りなさい!」


「だ、大丈夫だよ……アリナ姉……」


 アリナの呼びかけにテオフィルは応じようとはしなかった。

 自分の不注意でメロディを見失い、戦闘においてまで足手まといになるわけには行かない。


 圧倒的な攻撃力を身を持って思い知らされた一同に、さらなる絶望が追い打ちをかける。

 そのことに最初に気付いたのはシュトルンであった。


「おい、奴の脚が……」


 先程三人がかりで刻んだばかりの悪魔(ブエル)の脚の傷が、蒸気を発し見る間に回復されていく。


「悪魔め……」


 シュトルンが苦虫を噛み潰したような顔で巨大な獅子の顔を(ののし)ったとき、援軍に駆けつけた部下たちの声が彼の耳に届いた。


「団長ーっ!」


 だがこれだけの脅威を目の前に、人の力を多少寄せ集めたところで、事態の改善につながるとは到底思えなかった。

 ロルフが制止を命じ、ひとまず建物の陰に身を隠すよう皆に呼びかけると、シュトルンがさらにアリナに対し指示を飛ばす。


「アリナ・シュミット、お前もその少年を連れて先に退がれ!」


「何言ってんの、私が居ないと(おさ)えきれないでしょう! 神の下に男も女もないのよ!」


 ()と言う言葉の響きが、ランドに再び魔力の流れを思い起こさせた。

 この街全体から沸き立ったかのような膨大な魔力は、街の中心である悪魔(ブエル)の立つ場所に向かって集約されているように思え、先程メロディの存在を探知したときよりも、今いる場所のほうがより強い魔力の密度を感じさせた。


 獅子顔の悪魔は、人間たちに予断を許しはしないと言わんばかりの勢いで、急速に体の旋回速度を上げ、一気にランドたちに対し正対した。

 悪魔(ブエル)の耳辺りから生えていた一本の脚が、振り返った勢いで三階建ての領主館に当たり、崩れ落ちた外壁がアリナのそばに降り注ぐ。


「キャーッ!」


「アリナ!」


「アリナ姉っ!」


 駆け寄ろうとするランドの前にテオフィルが飛び出した。

 その動きに反応したのか、悪魔(ブエル)が再び(たてがみ)を舞い散らし、身を打ち付けるような咆哮を轟かせた。


「危ねぇっ!」


 咄嗟(とっさ)にランドはテオフィルに(おお)いかぶさり、身を(てい)して(たてがみ)の矢から少年を護った。


「ラ、ランド兄……」


 テオフィルからは見えなかったが、ランドの背に無数の(たてがみ)が被矢したことは想像に難くなかった。



「団長を護れー!」


「副団長を援護しろー!」


 建物の陰から騎士たちが飛び出してきた。

 彼らの上官たちは遮蔽物のない場所で、再び先の矢の雨を浴びてしまっている。


 何か打開策はないか、せめてここから離れる時間だけでも稼げればと、赤毛の指揮官は仰向けに横たわったその身を起こしつつ、周りを見回してみた。


「あれは……」


 シュトルンの目に留まったのは、アサラ領主館の崩れた三階部分であった。

 外壁を失いむき出しとなった一室からは、まだ逃げずに残っていた人物が垣間見えた。


 余りにもの突然すぎる状況の変化と未知の事態に、その対応に追われ、シュトルンでさえその人物の存在を失念していた。

 それは『宮廷騎士団』にとって、その程度の関係性でしかなかったとも言えたであろう。


 その人物とは、本来であれば真っ先に陣頭に立って兵を指揮し、民の命と安全を確保すべく奔走していなければならなかったはずの人物。アサラ領主、フリーデマン・シュトルフトであった。


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